松本昌次のいま、言わねばならないこと〜自衛隊の「国防軍」化を嗤う | |||||||
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第5回(2013.8.1) 松本昌次(編集者・影書房)自衛隊の「国防軍」化を嗤ういまから丁度80年前の1933(昭和8)年8月11日、信濃毎日新聞に一篇の「社説」が掲載された。題して「関東防空大演習を嗤ふ」、筆者は論説記者・桐生悠々(写真)である。戦争に直接経験のない方々には理解し難いかも知れないが、当時、空襲を想定しての防空演習が東京を中心に大々的に行われていたのである。つまり来襲する敵機をどのように迎え撃つか、爆弾投下に対してどう対処するかの訓練である。以来、防空演習は日本全土で日常茶飯化するのだが、事もあろうに、悠々は、天皇の“御沙汰”=指示を得ての大演習を“嗤ふ”と書いたのである。“嗤ふ”とは、ただ笑うだけではない。“あざけり笑う”“さげすみ笑う”ことである。わたしに言わせれば、せせら笑ったのである。悠々はその論説で、空襲で迎え撃つ敵機をすべて射落とすことは不可能だから、木造家屋の多い東京は一挙に焦土と化し、「阿鼻叫喚の一大修羅場」を演ずるだろうと想像し、ゆえに、敵機を領土に入れる限り、防空演習などは「何等の役にも立たない」し、「滑稽」と断じてせせら笑ったのである。むろん、政府や軍関係が黙っているわけがない。信毎と悠々は激烈な攻撃にさらされ、悠々は謝罪・退職せざるを得なくなる。以後、悠々は名古屋郊外にひきこもったが、自由な批判的論調は衰えをみせず、度重なる検閲での削除、発行停止、そして病気に見舞われつつ、個人雑誌「他山の石」を貧乏世帯を抱えて発行しつづけ、1941年9月10日、68年の生涯を終えた。
さて、間もなく、太平洋戦争がはじまり、戦局が深まるとともに、関東のみならず、日本全土が米軍の大空襲にあい、ほとんどの都市が焦土と化し、広島・長崎に原爆まで投下されて敗戦となったことは周知のとおりである。わたし自身、敗戦の年の3月10日につづく5月25日の東京最後の大空襲で、雨あられの焼夷弾・黄燐爆弾による一瞬の火の海の中、家は焼け落ち、近隣の友人・知人10人が爆死、辛うじて一命をとりとめたのである。まさに悠々のいうとおり、防空演習の訓練は何ひとつ役に立たず、「阿鼻叫喚の一大修羅場」の一端を垣間見たのである。悠々すでに亡く、彼の予言の適中を彼自身知ることはなかったが、その予言は、いま自民党が改憲してなんとしても自衛隊の「国防軍」化をはかろうとする動向に、時代は異なれ、ピッタリ突き刺さるのではなかろうか。 「国防軍」の前身は、まぎれもなくかつての「帝国軍隊」である。国防の名の下に創設された「帝国軍隊」は、果たしてわたしたち民間人の何を守り、敵から何を防いでくれたのか。何ひとつない。いやそればかりか、国を守る名のもとに、「帝国軍隊」は「侵略軍」に早変わりし、中国・朝鮮をはじめとするアジア諸国に攻め込み、暴虐の限りをつくした歴史的事実はぬぐうことができない。「国防軍」は、ひとたび他国に矛先を向ければ、必ず「侵略軍」化する。果たして、中国や朝鮮やベトナムの軍隊が日本本土に侵攻したことがあるだろうか。一度としてない。せんだって、「北朝鮮」が人工衛星を打ち上げるというのをミサイルと断定して、自衛隊基地のどこかしこに迎撃ミサイルを大慌てで配備したりしたが、かつての米軍の大空襲の折、一万メートルの高空を飛ぶB29にとどかぬ高射砲のようなものだ。「国防軍」などは害あって益なし、自民党の妄想を、いまは亡き悠々とともにせせら笑いたい。そんな戦争の危機を煽る前に、世界に先駆けて「戦争の放棄」を憲法で宣言した光栄を担う日本として、やるべきことが山程あるではないか。 先日、ソウルで開かれたサッカー「東アジア杯」の日韓戦で、観客席に、日本人に向けて「歴史を忘れた民族に未来はない」という大きな横断幕が現れた。スポーツでまで批判を浴びる日本の歴史認識の欠如をこそ、深く省みるべきである。 Created by staff01. Last modified on 2013-08-01 11:37:38 Copyright: Default |