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木下昌明の映画批評『立候補』〜警察もタジタジの「泡沫候補」
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●藤岡利充監督『映画「立候補」』
「戦い続ける」ことに意義あり?――警察もタジタジ…の“泡沫候補”

 藤岡利充の『映画「立候補」』は奇妙なドキュメンタリーだ。のっけから「こんな国は見捨てるしかない……わたしには建設的な提案なんか一つもない」と、選挙そのものを否定する候補者の政見放送から始まるからだ。実はこの映画、だれが見てもハナから落選するとわかる“泡沫候補”ばかりに焦点を当てている。

 おもな舞台は、2011年11月、橋下徹(現・大阪市長)が知事から市長に鞍替えして話題になった大阪のダブル選。知事選には7人立ったが、4人は泡沫候補と目された。実際に4人は供託金の300万円は納めたものの、カネや組織がなく、掲示板には彼らのポスターが一枚もない。それなのになぜ立候補するのか、が映画のテーマである。

 主人公は、当時63歳のマック赤坂。彼は貿易会社の経営を息子にゆずり、運転手を選挙参謀兼小間使いにしてロールスロイスに乗って大阪にやってきた。そこで梅田の地下街から選挙区外の京都にまで足をのばして遊説を始める。といっても、主義主張は「スマイルを世界に広めよう」という怪しげなもので、植木等などの歌謡曲に合わせてマラカスを振って踊るだけ。マックの息子に、なぜ選挙に出るのかと尋ねると、「私にもわからない。道楽だとしたら幻滅です」とザジを投げている。

 想田和弘監督の映画『選挙2』では、公選法によって選挙運動が制限されていることに触れたが、マックは公選法を逆手にとって自由奔放に振る舞い、警察もタジタジの体なのだ。そこが興味深かった。

 またラストが圧巻だった。マックは翌年の都知事選にも出て、秋葉原で自民党の選挙カーと鉢舎わせする。自民党支援の日の丸が異様なほど林立している。そこで「自民党総裁の安倍晋三です」と声が上がると、すさかず彼は群衆のヤジもなんのその「スマイル党総裁の……」とやってのけ、車の上で踊ってみせる。まるでナンセンスドラマ。負けても負けても一人で戦い続ける泡沫候補の心意気に、ついこちらの胸も熱くなる。(『サンデー毎日』 2013年7月21日号)

* 東京・ポレポレ東中野で公開中。全国順次公開。

〔追 記〕 金曜デモの行き帰りの地下鉄でギョッとなる。みんなスマホにかじりついている。まるで異星人の世界。何者かに操作されているようだ。わたしも「立候補」して「こんな国は見捨てるしかない」と叫びたい。


Created by staff01. Last modified on 2013-07-13 12:09:58 Copyright: Default

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