論文紹介 : グローバル時代、韓国産別労組運動の戦略と展望

＊翻訳紹介＝日韓民主労働者連帯　中村猛

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韓国労働社会研究所「労働社会」2012年11.12月号

グローバル時代、韓国産別労組運動の戦略と展望－
　韓国・ドイツ・フランスの産別労組
　交渉構造と組織戦略
　整理：イ・ジュファン(韓国労働社会研究所　編集局長)

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この文章は10月31日、韓国労働社会研究所とフリードリヒ・エバート財団・韓国事務所が共同主催した国際シンポジウム<韓国、ドイツ、フランスの産別労組：診断と課題>の1部「韓国、ドイツ、フランスの産別労組の交渉構造と組織戦略」で発表された内容を、要約整理したものです。韓国の事例はキム・ユソン韓国労働社会研究所所長が、ドイツの事例はトーマス・ハイピーター労働と資格研究所の研究員が、フランスの事例はジャン・マリー・ペルノー・パリ経済社会研究所の専任研究員が報告を引き受けて下さいました。
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Ⅰ. 韓国の産別労組：診断と課題

１、はじめに

私の報告は産別労組運動に関するこの10年余りを概括するもので、今日集まられた国内の参加者には馴染みやすい内容でしょう。今日のシンポジウムは87年労働者大闘争25周年を記念するということです。87年前後が韓国の労働運動が活性化した基点ということから、先ずその後の経過を国際的な観点から回顧する必要があると考えました。

1987年は実は、主な先進国では労働運動が下降する局面でした。すなわち、1974年のオイルショック以後、新自由主義が強化されて労働市場が柔軟化され、全世界的に労働運動が後退する時期に、韓国の労働運動は独自の活動を展開してきたという点に注目する必要があります。また、今私たちが立っている時点は2008年のグローバル金融危機以後、新自由主義に対する再検討が活発にされてはいるが、反転の主体や内容が準備されていない状況です。国際労働運動の次元からの対案もやはりハッキリしてはいません。このように全世界的に労働運動が後退する局面で、韓国労働運動は一歩遅れて、そして圧縮的、爆発的に、独自の活動を展開してきました。

これをもう少し具体的に見ます。振り返ると1987年から1997年までの約10年間が、我が国の労働運動の立場からは相対的に攻勢局面だったようです。この期間、1987年労働者大闘争があり、1995年11月に民主労総の結成と1996年12月から1997年1月までには労働法改悪阻止のゼネストがありました。遅れて始めて満開になったのです。その後1997年12月の外国為替危機を経て、韓国社会でも新自由主義と労働市場の柔軟化が本格化し、韓国労働運動は守勢局面に入ります。そのような中でも1997年から2007年までは、今より相対的にまあまあの政府だったからなのか、教員労組と公務員労組の合法化、産別労組建設と産別交渉推進などの成果もありました。

しかし李明博政府になった2008年以後からは、政府と資本からの労組破壊攻勢が露骨になりました。そのために産別労組の建設や産別交渉の推進においても、発展が止まったり以前より後退する傾向が現れました。そして李明博政府の末期に入った現在は、全世界的に新自由主義と労働市場の柔軟化攻勢が退潮を示している状況です。そのような側面から、約2ヶ月後に行われる19代大統領選挙によって2013年以後にどんな政府が韓国社会に生まれるかが、韓国の労働運動が発展して新しい反転を準備する上でも非常に重要だと考えます。

２、産別労組と産別交渉の必然性

では、全般的に他の国では労働運動が分権化の傾向を示している中で、韓国社会ではなぜ一歩遅れて、企業別労組と企業別交渉から産別労組と産別交渉とに、集中化の流れが作られているのかという点について簡単に検討します。

何よりも、韓国は他のどこの国と比べても、中小零細業者と非正規職が中心となった労働市場構造を抱えているという点を考える必要があります。現在の韓国は、大企業正規職が全労働市場で占める規模は10%程度にしかならず、残りの90%は中小零細業者の労働者か非正規職です。雇用が安定した大企業正規職だけが労組を結成して運営できる企業別労使関係の体系では、90%近い労働者が合法的に保障される労働基本権からさえ排除されるような状況にあります。そのため、中小零細業者と非正規職労働者も基本的な労働人権を享受できるようにするためには、企業別労使関係の体系から抜け出す以外に方法がないという判断に至ることになります。

企業別の労使関係体系の限界を具体的に見れば次の通りです。先ず、組織的な側面から見れば、前に話しましたが、企業別体系では大企業正規職だけが労働基本権を享有でき、中小零細業者の非正規職は団結権の享受さえ困難です。過去50年間、韓国の労組組織率は、労働運動が最も爆発的に噴出した時でさえ20%を越えられず、今は10%程度の水準です。これは根深い反共主義など他の要因の影響もありますが、大企業正規職が全労働者の10%にしかならない労働市場の構造の影響が最も大きいと思います。次に交渉の側面からは、労組執行部がどんなに社会・政治的に前向きで改革的な考えを持っていても、企業別の交渉では、議題が企業の次元で解決可能な賃金と労働条件に限定される他ありません。また労組のある正規職の事業場だけで団体交渉の成果を享有できるようになり、賃金など労働条件の不平等が深刻化することにも影響を与えることになります。最後に、理念の次元ではこのような組織と交渉条件によって、企業別労組では執行部と組合員が実利的組合主義に陥ることが避けられないという点を指摘できます。

そして、このような企業別の労使関係体系が持つ限界は、外国為替危機の以前や以後でも大差はありません。しかし産別労組と産別交渉体系の建設が本格的に進められたのは外国為替危機以後です。これは外国為替危機以後に韓国社会で企業の人員リストラが日常化され、逆説的に産別労組と産別交渉に集中的に鞭が当てられたためと見ることができます。すなわち、常時資本のリストラが提起されるのに伴って、超企業レベルで労働政策と産業政策に対する労働側の介入の必要性が台頭したのに、既存の企業別労使関係の体系ではこれに対応できないということが、産別労組と産別交渉推進の流れが作られる要因になったのでしょう。

３、産別労組と産別交渉、成果と限界

１）成果：連帯の制度化と交渉議題の拡張

では、この10年間の産別労組と産別交渉の成果と限界を本格的に見てみましょう。先ず組織の側面から成果を見ましょう。最初に挙げられるのは、超企業単位で労働組合員を包み込む流れを作り出したという点です。労働部の資料を見ても、2003年に約48万 4千人、全組合員のうち31.2%程度であった超企業労組所属の組合員が、2011年には96万 4千人、56%に、全組合員の半分を越えることになりました。特に、民主労総だけで見れば、2011年の超企業労組の組合員が46万 5千人で、全組合員の82.7%に達します。新自由主義と労働市場の柔軟化、そして労働運動の分権化傾向という悪条件の中で、このように半分以上が企業別労組から産別労組に組織形態を転換したということは、相当な成果と見るべきだと考えます。労働運動の内部ではこれについて、内容よりも形式だけが変わったもので「形だけ産別」という批判も提起されています。しかい「形だけでも産別」になったという点を重く評価しなければならないと考えます。

これに関して、代表的な産別労組であり先導走者である金属、金融、保健医療などの組織体系を具体的に見てみます。先ず産別労組への転換時期を見ると、保健医療が1998年、金融が2000年、金属が2001年で、外国為替危機の直後の時点に産別労組運動が本格化したことが分かります。そして内部構造を見ると、役員選出に関しては3労組がすべて共通して直選制度を採ってはいますが、支部の形態は組織ごとに具体的な実情に合わせて違いがあります。金属は地域偏在を基本としますが、完成車の大工場では企業支部を認めており、金融は企業支部の形態で、保健は地域本部と企業支部の形態を持っています。

一方、組織形態を産別労組に転換したら一体どんな違いがあるかという疑問が提起されるます。ひとまずは連帯が制度化され、傘下の組織間の有機的な連結が強化されたという点に注目できます。これによって政権と資本の弾圧に対する能動的な対処が可能になりました。以前の企業別体系では、労組に対する弾圧が思うままにされる時、主に周辺の小さな組織間の支援・連帯がほとんどであったのに、産別労組の体系では、特に金属労組の場合、あらかじめ準備されているストライキ基金や犠牲者救済基金によって体系的な闘争支援が可能になったのです。最近、大企業労組が自らの役割を果たせていないという批判が多いのですが、このような基金の積み立てにおいては相対的に大企業組織の寄与が大きいという点で、産別労組を通した大企業と中小企業の連帯の制度化が進展したと評価することもできると思います。

次に、交渉の側面から成果を見ます。主要な産別労組では組織転換の時期と産別交渉の開始時期が違います。金融労組は2000年に産別労組に転換した直後に産別交渉を成功させましたが、2001年に設立して2003年に交渉を始めた金属労組や、1998年に設立されたのに6年目の2004年に産別交渉を始めた保健医療労組のようなケースもあります。このように、交渉の枠組みが作られる過程での重要な成果として挙げなければならないのは、政府と資本の回避にも拘わらず、とにかく使用者団体が構成されたという点です。一方、このような成果を基に、産別交渉が推進されているのです。これを組織別に見れば、現在の金融労組の場合、産別交渉がある程度安定した状態であるのに比べて、金属労組は相対的に不安定な状態で、保健医療労組のようなケースでは、作られた使用者団体が解散して産別交渉の枠組みが破壊されるなど、膠着または後退状態にあるとみることができます。

それでも、とにかく産別交渉の構造化は少しずつ進展しており、使用者団体の制度化も強制され、交渉議題もやはり事業場単位で解決できない政府の政策などの事案に拡張されてきました。これを金属、金融、保健医療など、組織別に具体的に見れば、3組織すべてで使用者団体を強制し、週5日勤務制の導入時に、産別交渉によって日程を操り上げたり、追加的な保護装置を用意するなどの合意を引き出し、交渉によって非正規職保護の問題をどんな形態であれ扱ったという点で共通点を持っています。産業別の最低賃金や産業政策の公共性もやはり、不十分とは言え団体交渉の議題として扱われています。ただし、金融労組と保健医療労組は賃金交渉をしていますが、金属労組は未だこれが上手くいっていないという点は限界と指摘されるでしょう。

２）限界：依然として残る企業別労組の慣行と不安定な産別労使関係

では、この間に行われた産別労組の建設と産別交渉の推進における限界を見ましょう。
先ず組織の側面で、現在の代表的な産別労組は同種産業で最も大きな規模の『第1組織』ですが、該当産業全体を共にできていないという点が指摘されます。また、金属、金融、保健医療はすべて産別労組に転換したのに、中小零細業者と非正規職労働者の組織化において実質的な進展を達成できていません。これに関しては該当労組は具体的な対案を持っているのでしょうが、外部から見れば、これは企業別体系下で慣行化された事業場単位の組織化や組織運営方式から抜け出せていないせいではないかと思います。すなわち、産別労組に相応しい運営方式の形成が不十分で、財政と人材の効率的な運用が定着できていないのではないかと考えます。

次に、交渉の側面を見ます。産別労組に組織を転換するのは労組が勝手にやれば良い問題ですが、産別交渉というのは使用者という相手方と一緒にしなければなりません。そしてその相手方が交渉にいい加減な態度を採っている状況下で、前にふれたように現在の産別交渉は金融だけが相対的に安定的で、金属や保健は不安定で定着できていません。これに対する突破口もやはりきちんと見付けられていません。このように産別交渉が上手くいっていない状況では、産別交渉以外の産別協議と共同事業などに注目して、これを通して産業別の労使関係を少しずつ形成していくことが必要だと思いますが、現在はそのような側面もやはり不在で、産別労使関係というもの自体が形成されていないと評価できそうです。

一方、国政監査でも指摘されたように、2008年に李明博政府になってから、労働運動特に産別労組に対する政府と資本の集中的な攻勢が強化されました。例えば、政府が複数労組と専従者関連の労働法を改悪し、資本側が産別労組の核心事業場の組織を意図的に攻撃し、破壊することなどが好き勝手にされました。このような流れが、産別労組と産別交渉が限界を克服できないことの重要な要因になったと評価できます。

４、韓国の産別労組運動の課題

最後に産別労組と産別交渉の進展に関して必要な課題をいくつか提起して、報告を終えることにします。

１）広範な接触面とインフラ形成、立体的組織化戦略

先ず、組織に関して話します。私は前に、「形だけ産別」という批判に対して、「形だけでも産別」でなければならないと提起しました。実際、形が産別になる段階はある程度完了したと思われます。今からは「名実共に産別」に背を伸ばすための段階を踏むべきだと思います。すなわち、企業別労組体系の慣性から抜け出して、産別労組に適合した組織化のやり方と組織運営のやり方を開発し、定着させなければなりません。そのためには、既存の大企業正規職中心の組織を掌握する部署と、中小零細業者と非正規職労働者の組織化を担当する部署を分離して活動に当たるのも一つ方法ではないかと考えます。

また、中小零細企業と非正規職の新規の組織化は、事業場を単位とする慣行から抜け出して、地域単位に中心を移動しなければなりません。そして労組結成後の交渉・要求、そして事業場での闘いに続くといった、今までの一本調子の組織化のやり方を止めて、様々なやり方で、広範囲な接触面を作り出すやり方を目指す必要があります。組織対象の労働者を直ちに労組に加入させるのが難しければ、協会や親睦会など、労組に友好的なプールを広範囲に形成して接触面を広げるやり方で、徐々に労組に慣れるようにしなければならないでしょう。そのために、労働運動は産業別の労使関係の形成と、組織化に必要なインフラの構築を進めなければなりません。すなわち、産別労組の地域支部のレベルで提供する教育と相談、福祉など、サービス機能を強化する必要があります。これは地方自治体や市民社会団体との連帯を通じて、または制度的な資源を活用してなされるでしょう。

一方、産別労組に適合した組織運営の確立に関して、民主労総の一部では5つの大産別への全面的な再編なども提起されています。私はこのような計画は西ヨーロッパの産別労組の経験を機械的に適用するもので、非現実的だと考えます。我々のように今まで企業別労使関係の体系だけしか存在していなかった状況では、産業や業種次元の部分的な同質性を基盤に、超企業的な労使関係を形成するための事前段階をじわじわと踏んで行く必要があります。これを一気に跳び越えようという主張は行き過ぎです。これと結び付けて、金属労組は地域支部を根幹とするのだから大企業企業支部を認めてはいけないという主張についても、私は否定的に評価します。現実的に巨大企業の企業支部は認めなければならないのではないかと考えます。

更にいくつか言えば、産別のレベルで日常活動を強化し、組織活動家の養成システムを構築する必要があります。また同種の産業労組の間で、特に両ナショナルセンター所属の労組の間で、共同の活動と共同の対応、共同闘争を作る努力が必要だと言いたいと思います。

２）産別労使関係形成の具体的で多様な試み

次に、交渉に関する課題です。団体交渉は労使関係にあっては核心ですが、相手方が応じなければ上手くいきません。これを強制できる手段は不十分です。そのような面で、産別交渉を安着させるには、もう少し長期的な視野と柔軟な姿勢が必要です。特に韓国のように、労働者間の労働条件と企業間の支払能力格差が大きく、超企業レベルの労使関係がほとんど形成されていない状況で、一所懸命に結成した産別労組が、中央交渉の成功だけにあまりにこだわるのは力量の浪費ではないかと思います。具体的に確認される同質性を基盤に、部門、分科、地域、対角線交渉など、様々な交渉のやり方を柔軟に活用する必要があると考えます。このような形態の超企業交渉は、企業の内部だけに交渉を任せるよりも、とにかく進展という側面で積極的に考える必要があります。

また産別交渉を進展させるためには、交渉の他にも産業と地域など、超企業レベルの労使関係を進展させる様々な摸索と実践が必要です。金融労組と保健医療労組の場合、産業別労使協議会ないしは労使政協議会の政策を推進しています。このような部分をより一層活性化し、労組が主導的に産業別の就業斡旋や職業訓練、福祉事業を展開していくことによって、産別の労使関係の主体と議題作りを促進する必要があります。

３）産別労組と産別交渉と共に進む実利主義の克服

最後に理念に関する課題です。我が国の労働運動は産業別に組織形態を転換したのに、企業別の労使関係の慣行から相当部分抜け出せていません。このような状態では、いくら全社会的なレベルの課題や労働階級全体のレベルの利益を話しても、実際の運営は組合員の利害中心の実利的な組合主義に簡単に傾倒してしまいます。これを克服するためには、産別労組が組織化と交渉を実際に推進することを土台に、労働運動が社会全体の課題と労働階級の全体の利益に焦点を合わせる方向に転換して行く必要があると思います。

付け加えれば、産別労組と産別交渉を進展させるためには、必ず2つの法制度改善が必要だということを申し上げます。1つは、産業別交渉をぶち壊す交渉窓口単一化強制条項を削除しなければならないということで、他の1つは、団体交渉の効力拡張の制度を改善することです。

Ⅱ、ドイツの産別労組の構造と組織化戦略

１、はじめに

最近のドイツの労使関係の変化は、産別労組が支配的だが労組間の競争は増える傾向にあり、労組と職場評議会の矛盾的な連合の中で、労組加入率が下落している、と要約できます。このような条件と挑戦の中で、ドイツの労働組合運動は組織化問題を深刻な課題として受け容れており、未組織の事業場の組織化と新しい団体交渉形態の開発、職場評議会の活性化などを戦略的に推進しています。では、このような内容をもう少し具体的に申し上げます。

２、ドイツの労働組合と労使関係の構造

現在のドイツの主な労働組合のナショナルセンターとしては、ドイツ労働組合総連盟(DGB)とドイツ公務員連盟(DBB)、そしてキリスト労働組合総連盟(CGB)などがあります。名実共に最も古く、かつ最も大きいドイツ労働組合総連盟は、産業別統合労働組合として8つの産別労組(かつては17の産別労組から現在8つに統合)で構成されており、組合員600万人以上を組織しています。これはドイツの全組合員数の80%以上です。次にドイツ公務員連盟は公務員と事務職労働者を組織する組織で、約126万人を組合員としています。この組織はドイツ労働組合総連盟加盟の事務職労働者の組織であるヴェルディ(Ver.di)と競争関係にあります。キリスト労働組合総連盟は主にサービス業者の労働者を組織対象にしており、傘下に16労組、28万人の組合員を組織しています。一方、ナショナルセンターに加入していない職種別の労働組合も4つ存在しますが、これらは主に民営化された公共サービス部門の労働者を組織しており、4つの組織を合わせて約15万人の規模です。

次に、ドイツの労使関係の構造について話します。よくご存じのように、ドイツの労使関係は労働組合と職場評議会が矛盾的な連合をする、労働者の利益代弁の二重構造を持っています。産業や業種の段階で、労働組合と雇用主協会の間での交渉によって団体協約が結ばれ、続いて職場評議会と経営陣の間で、共同決定制度を通して事業場の協約が結ばれる構造です。事業場段階の協約よりも団体交渉によって結ばれた協約が優先し、有利な条約が優先適用される一般的適用(benefit of the doubt)原則の支配を受けます。このような構造によって労使の葛藤を産業別に中央集中化しています。すなわち、労働組合が団体交渉と協約を結び、労使の揉め事とストライキを担当して組織力を行使し、職場評議会は団体協約の履行と締結の流れを監視・統制し、組合員の募集と労使の揉め事が発生した時の動員を担当します。

一方、ドイツの組織率はこの20年余り引き続き下落してきました。1991年に36%と頂点に達した組織率は次第に下落し、2010年には18.5%を記録しました。団体協約の適用率もやはり持続的に下落してきました。1998年から2009年までの総雇用人口対比で団体協約を適用される労働者の数字比を見ると、旧西ドイツ地域の場合、1998年に76%だったのが2009年には65%に落ち、旧東ドイツ地域の場合は相対的に減少し、1998年に63%であった団体協約適用率が2009年には51%になりました。ドイツの労働運動はこのような流れを職場評議会による伝統的な組合員募集のやり方の危機と規定し、その理由を製造業部門の内部での3次産業化、情報通信と緑色産業など新産業の発展、民間サービス部門の構造的な脆弱性、高学歴・低賃金労働者の増加など、労働人口の細分化に求めました。これによって、未組織の組織化、新しい形の事業場レベルでの団体交渉推進、職場評議会の活性化など、三大戦略を提起しています。

３、ドイツの労働運動の新しい組織と交渉戦略

先ず、未組織事業場の組織化戦略です。ドイツ労働組合総連盟所属の各産別単位の組織の例を見れば、ヴェルディ(Ver.di)と建設労組(IG Bau)、そして金属労組(IG Metall)は組織化専門の担当部署を設けて、活動家のための組織化教育プログラムを進めています。併せてヴェルディと建設労組は薬局チェーンのシュルレコ(Schlecher)と大型割引店のリドル(Lidl)で、派遣労働の濫用反対と同一労働同一賃金などのキャンペーンと連帯活動を展開し、金属労組は未組織労働者の苦情処理と正義確保の活動を行いました。しかしこれに関する目立った成果はほとんどありません。キャンペーンと連帯活動を通した組織化はこれと言ってありませんし、苦情処理の効果も現れていません。このため各組織は職場評議会の選挙に焦点を合わせています。
次に、新しい形の事業場レベルでの団体交渉推進戦略です。これは金属労組の段階で一番初めに行われ、一般組合員の協約参加を促して産別協約による地域間の揉め事を緩和するために、産別団体協約の適用免除(derogation)条項を活用しようとしました。産別団体協約の適用免除は、2004年にポルツハイム地域で締結された協約によって公式化されました。この協約は、企業レベルで革新力量の改善、競争力の強化、投資条件の改善、または雇用維持と雇用創出に寄与すると認められれば、企業段階の協約が産別段階の協約の適用を受けないように規定しました。これは団体交渉の締結比率を拡大し(以後実際に10%ほど増加)、資本の分権化の強制に労働組合が調整した団体交渉の分権化によって対応し、現場の一般組合員の労働組合への参加を促すことを目標にしました。実際にもこのような開放条項の拡大によって労使関係において職場評議会が強化され、一部の事業場では組合員も増えたりしましたが、適用免除条項は依然として問題になっています。

最後に職場評議会の活性化戦略です。これは使用者側の戦略的な挑戦に、労働者の参加強化で対応するためのもので、主に金属労組の「より安くでなく、より良く(the better not cheaper)」キャンペーンとして表現されました。各産別労組はこれと似たようなキャンペーンと、活動のための組織的で物質的なインフラを構築しました。すなわち、キャンペーン・チームを構成して職場評議会ワークショップを開催し、労組親和的な諮問委員が参加した成功事例を宣伝し、そうした諮問委員のネットワークを構築しました。また、産業別職場協議会ネットワークを構成しました。このような物質的な基盤を土台にしたキャンペーンによって、生産過程とチームワークなどにおいて使用者側の戦略的な挑戦に対する対応は、結局は組織化によって行うことができるということが確認され、諮問委員と産別労組などの外部の支援が、職場評議会の活性化において主な要因であることが提起され、専門家としての労働者の参加という形式は、組合員に魅力あるものとして受け容れられ、実際に職場評議会に対する参加と熱意が強化されました。ただし事務職労働者のケースを除けば、このようなキャンペーンが労組加入率に与える影響力は微小でした。

Ⅲ. フランスの産別労組の団体交渉構造

１、はじめに

最近、フランスの労働組合に現れている変化は、交渉力の弱まり、ナショナルセンター間の分裂、企業別労組に原子化していく流れ、などと要約することができます。これを本格的に見ていくのに先立って、フランスの団体交渉の発展過程を簡単に概括してみます。

1900年代初期のフランスは、ヒットラー以前のドイツと違い、産業段階での集団的な交渉や協約の伝統が殆どありませんでした。第1次世界大戦の直後には、使用者がボルシェビキ革命の結果に恐れを感じながら一部で妥協しようとする試みがあり、1919年には若干の成果もありましたが、このような試みは1925年頃にはすべてなくなりました。そして1936年に左派政党の投票勝利と共に進められた巨大な社会的な蜂起を通じて、労働組合に包括的な団体交渉権を付与する新しい法が制定されました。しかしこれは第2次世界大戦の以前には適用されませんでした。第2次世界大戦以後、レジスタンス出身の進歩的な勢力連合がフランス政府を統治し、これに伴い1950年代に産業レベルの団体交渉体系が確立されました。

特に1945年以後、戦後復興と再建の時期に巨大な公共部門が登場し、国の積極的な役割を通した経済成長が推進されつつ、基本的な労使関係制度が構築され始めました。この時期は労働者が大規模に組織された時期です。これに伴い1950年に労働関係法の改正による法定最低賃金制度と産業別交渉制度が導入され、団体協約の拡張手続き規定が確立され、これを基礎に一種の労使政の対話が試みられました。

２、フランスの団体交渉体系

しかし産業レベルの団体協約が過半数以上の多数労働者を包摂するようになったのは1968年のゼネスト以後、1970年に入ってからでした。これは産業別の団体協約が該当産業のすべての企業とすべての労働者に適用されるのか、されないのかを、雇用部が決めることができるように法律を拡張することによって可能になりました。当時のフランスの労使関係体系は産業を基本単位に置き、全国レベルで調整される労働運動と政府によって強く規制され、内容は一部の巨大企業で決められましたが、該当産業のすべての労働者に強い影響を及ぼしました。当時、全体の労組組織率は約25%で、15%は民間部門の労働者でした。要するに権力の均衡が維持されていました。

１）1980年代の後退

このような状況は1980年代に入って急激に変りました。ヨーロッパの他の地域でのように、しかしフランスでは特に、一層早く急激に、労働運動が弱まり、失業率が高まり、交渉の過程が企業別に分権化されました。これは具体的には二段階を経ました。最初の段階は、1982年に社会党政府が、50人以上の企業体に一年に一度の賃金交渉を義務化する法律を制定して、礎石が築かれました。これによって、他の法律でも少しずつ、労働時間の柔軟化、性平等、老齢労働者と障害労働者の労働条件などに関して企業との交渉を義務化し始めました。1998年に法定の労働時間を週35時間に短縮して施行するようにした法は、これによる賃金損失に関しては当事者が交渉をするように要求しましたが、この交渉はほとんど企業のレベルで行われました。このような条件で、労働組合は労働者に対する調整力を失い、組合員もやはり失いました。

次の段階は労働運動の分断化、すなわち労働組合の下部組織が企業の中でより一層自律的になる段階でした。例えば、会社が主導する交渉の流れに労組が参加するということが支配的になり、これに対する労組の態度が順応的でない場合、使用者は交渉をしなかったり、韓国の労使協議会とよく似た非労組団体を作って交渉をしました。これによって今日、フランスでは約3分の1の労働者に企業別交渉が適用されており、残りの労働者はそれより低いレベルの産別団体協約と最低賃金制度を適用されています。

これと共に法律は社会的基準の偽計を変化させました。1990年代前までは、団体交渉の進展は法律が定めたものより労働者に有利でした。しかし1980年代の中盤以後、特にその数年間、会社側が特定の条件では、そういう有利な地位を無視できるように法律が変わりました。このような変化が続き、特に雇用関係法が弱くなりましたが、幸いにも持続的ではなく、フランスは法定の最低賃金制度と団体協約の効力拡張制度を維持し、そのおかげでフランスの労働者はギリシャ、イタリア、アイルランド、スペイン、ポルトガルなど経済危機を経験した周辺国の労働者ほどは脱規制の過程の苦痛に遭いませんでした。

２）産別団体協約から離脱する部門別協約

しかし部門別の協約(sector)が労組以外の労使関係行為者、すなわち国と使用者組織の圧力によって、少しずつ産業別の団体協約から離脱し始めました。1980年代、国はすべての労働者を包摂する団体協約に友好的な態度と善意を示しました。雇用部は産業次元の協約を結ぶために、使用者組織だけでなく労働組合にも頼りました。その結果、今は95%のフランスの労働者に団体協約が適用されています。しかし現在の団体協約の適用は非常に脆弱で、労働条件の改善という当初の目標とはかなり距離があります。団体協約の内容はまあまあ悪くない水準であり、ほとんどが使用者の意向によって決まります。端的な例では、団体協約の半分以上が、フランス政府が決める法定の最低賃金より低い最低賃金の基準を設定しています。

使用者はこのようなすべての過程に対して統制権を行使しています。歴史的に団体協約自体を敬遠していた使用者は、変化した条件の中で、これを使って労働組合を分裂させ、弱める方法にいち早く習熟しました。特に大企業は企業内部の交渉のための策略として使うために、産業次元の団体協約を低い水準に維持しようとしました。また、産業内の部門別の協約の数は急増しました。現在、フランスには1500万人の労働者を包括する約700件の部門別協約が存在します。そしてその内の70件が全労働者の70%に適用されています。部門別協約の大部分は、特殊な利益を代表する小規模または極小規模の協約であり、使用者によって内容が決められます。

資本主義は1970年代末以来、様々な危機を経験しながら進化してきました。このような変化は、第2次世界大戦の直後に形成された社会的妥協の内容に疑問を提起し、労働者に対する搾取を強化し、社会的な富を株主に集めるといった内容を持っています。失業率の高まりと交渉条件の変化は、労働者間の賃金連帯に急激に悪影響を与え、ヨーロッパで特に、労働組合の力を弱めました。最近何年間かヨーロッパ次元で主導された政策は、明らかに、第2次世界大戦直後の時代の遺産である社会的国家を粉砕することを目標にしています。

３、労働組合弱化の過程

歴史的にフランスの労働組合運動の発展は、いくつかの組織の葛藤を通して展開されました。この主導的な組織は、初めは業種別労働組合であり、その後、20世紀初めの20年間は産業別労働組合に変化しました。産業別労働組合は1970年代までは強力な力を維持し、それぞれに盛衰を繰り返しましたが、1980年代に入ってからはすべて同じ困難を経験することになりました。
フランス労働組合総連盟は強い産業構造を組織の根幹にし、テパルトゥマン(department：フランスの地方自治体で、領土分割の単位、約100箇所存在する)の水準地域組織と専門家組織を補助的な基盤とします。現在8つのナショナルセンターがあって、そのうちの3大組織として、CGTが約70万人、CFDTが70万人、FOが約40万人を組織しています。この他にもCFE-CGC、CFTC、UNSA、Solidariesと、その他の公共部門労組連盟が存在します。各ナショナルセンターの傘下にはいくつかの産別連盟が存在しますが(CGT 26個、CFDT 15個、FO 25個)、連盟間の統合の努力はありません。他の国のケースと同じように、労組が組織された事業場は相対的に所得が高くなっています。

１）企業対産業

企業単位の交渉の影響力の拡張は産業レベルの交渉の排他的役割を弱め、これに伴って労働者を団結させる労働組合の力も弱まりました。いくつかの部門では産別団体交渉が未だに主な準拠点ですが、これは単に最低基準条項を決めるだけで、残りは企業別の協約によって補充されます。労働時間、作業組織、賃金などに関する争点は広く分権化され、そのために労働者に不利に組織されました。多くのサービス産業では時々の内部競争を規制する規則が使用者に強制されましたが、賃金など核心の争点は企業内部で決められます。そして伝統的にこの部門では労働組合は脆弱です。従って、実際には賃金などの交渉はされません。また、ナショナルセンターは傘下連盟間の関係を調整しません。従って、労組の支部は孤立したまま困難を迎えています。

特に、女性労働者から最も多くを絞り取る部門の一つである小売業で労働者が苦んでおり、多くの争議が発生しています。この部門には産業レベルの交渉は存在せず、交渉は個別企業内に限定されています。しかし他の商店には適用されない個別協約がキチンと適用されている場合でも(劣悪な労働条件により)争議が発生します。しかし不思議なことに多くの強いナショナルセンターはこれに対して関心を持ちません。フランスの労働組合は、労使関係を膠着局面に導く使用者のせいで直接的な合意に到達できない場合は、国に依存してきました。フランスの労働組合は分権化に抵抗してきた他の国の労働組合と違い、これを主導したのです。すなわち、フランスの労働組合運動は産業レベルの組織に回帰するよりも、企業内部の交渉を調整して改善することに焦点を当てました。企業別労組に相対的に大きな自立権を付与したのでしょう。

２）最近の傾向

最近20年間で下請け契約やアウトソーシングの問題などが台頭し、状況はますます複雑になっています。多くの企業において、契約関係のあり方によってそれぞれ違ういくつかの団体協約が適用されています。一例として、一つの原子力発電所の中には様々な下請け契約を結んだ建設、運送、清掃会社が存在していて、これらは金属産業または化学産業に属しています。このような条件は、活動部門の違いを越えて、すべての労働者の連帯を発展させるための挑戦を労働運動に提起しました。これに関しては『地域』の問題もまた、連帯の再建設のための単位として提起されています。

韓国では1987年労働者大闘争以後にそういった連帯の伝統が、様々な産業と場所で出現し、衰退して行ったと理解しています。地域の連帯は、孤立した労働者が労働組合の実践に参加できるようにします。そのため、産業レベルの代表性は、他の部門を包括する地域レベルの労働組合の実践と一緒に進まなければなりません。そしてフランスの労働組合は地域を考慮した組織の枠組みが存在するにも拘わらず、使用者との交渉に依存し、大企業に固執した古い骨格組織の枠組みだけに焦点を当てています。そのために、争議が発生した場合、下請け労働者と期間制労働者を組織するのに困難を経験しています。

フランスの労働組合は制度的な基盤に依存しており、産業レベルの交渉の歴史を持っています。しかし何度も言うようにこれは衰退しています。企業レベルの協約の拡がりは、それぞれ違う立場に置かれた中小規模の企業の労働者を団結させられていません。逆説的に、フランスの労働運動は不安定な労働条件にさらされることが最も少ない労働者を組織していますが、労働運動の実践が必要な不安定な労働条件は、労組のない事業場に蔓延しています。このような逆説と悪循環をどうすれば打破できるかという問題が、今日の普遍的な課題として私たちに投げかけられています。