2012年米国大統領選挙の結果:新自由主義の再急進化は否定される | |||||||
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2012年米国総選挙ではオバマ再選と、共和党の下院維持、民主党の上院維持という結論が出ました。今回の選挙については、新自由主義の再急進化が拒絶されオバマ政権の修正路線がかろうじて信任されたということと、迷走する政治にあまり希望は持てないがどうしたらいいか分からず立ち止まっている(前回と同じ投票行動をするにしても前回より冷めている)、という二重の側面があるように思います。新自由主義路線をより明確に打ち出した共和党大統領候補が落選したことは重要だと思いますが、議会選挙の結果など総合的に見れば新鮮な変化を予感させるような材料には乏しいように思います。 まず出口調査で前回2008年選挙との比較に注目すると、投票行動に大きな変化は見いだせません。前回同様に、人種では白人はロムニー支持が過半・非白人は圧倒的にオバマ支持、性別では男がロムニー・女がオバマがやや強く、年齢では若年層ほどオバマ支持が強い。前回との微妙な違いは、前回は割れていた富裕層がより真剣にロムニー支持になったことで所得別の党派色分けがややはっきりしたことと、前回はオバマを支持した白人若年層でロムニー支持が多数になった反面、ラティーノのオバマ支持がかなり増えてそれをかき消したこと(←ロムニーが移民に厳しい姿勢を打ち出したことが要因とされていますがそれだけではない)くらいです。 テーマごとの世論を見ると、経済運営・税財政政策・医療保険・移民政策などで一貫性のない調査結果がごろごろ出ているので、何か世論が根本的に変化したということは難しいです。政府の財政赤字を批判する世論が増えていることをもってアメリカの世論が4年前より保守化したと言っているジャーナリストもいますが、注意深く見れば財政赤字批判の中には富裕層増税を求める世論が含まれているので、そうとは言い切れません。再生可能エネルギーへの関心は以前よりはやや高まっていますが、他方で相変わらず地球温暖化問題よりもオイルの値段が大事だと考える人が多く、原発もクリーンな代替エネルギーだとするオバマ政権のバカげた主張を批判できる人も米国ではまだまだです。外交政策については、少なくとも前回はイラク戦争反対という世論の勢いがありましたが、オバマ政権が結局ブッシュの軍事治安政策の多くを継承したこともあって批判的世論は埋没してしまった感があります。 例外として、今回大きな進展が見られたテーマは、同性婚や中絶や大麻(マリファナ)の合法化といった、個人の生き方の文化的自由にかかわる政策です。レファレンダム(テーマごとの住民投票)の投票結果で、メーン州、メリーランド州、ミネソタ州、ワシントン州では、同性婚の合法化(もしくは禁止の否定)が可決。フロリダ州では中絶処置への州財政使用を禁止する提案が拒否されました。またコロラド州とワシントン州で医療目的以外でも大麻の合法化が可決したことは画期的です。その他にも、カリフォルニアで労働組合の政治活動を制限する提案が否定されたり、フロリダで医療保険強制加入への拒絶提案が否決されたり、メリーランドで未登録移民の学生が州市民と同じ学費を払えばよいことが可決したことは注目に値するでしょう。ただしアラバマ、アーカンソー、ミズーリ、モンタナ、オクラホマ、オレゴンでは逆に保守的な投票結果が出ているため、全米レベルでの評価は微妙です。 マスコミは今回の選挙について、民主党と共和党の違いが鮮明になったと報道してきました。確かにこの4年間を振り返れば、右派の茶会運動が共和党を右から引っ張り、2011年に台頭したオキュパイ運動が間接的に民主党を左から引っ張ったような形になり、それでオバマ政権も今年になって金持ち増税(まあブッシュの金持ち減税を元の段階戻すだけですが)とか移民の権利など口では言うようになりました。パブリックオプションすら認めず民間保険会社を温存して強制加入という中途半端な医療保険改革を続けるかムーアの『シッコ』状態に戻すのか、世界には自由市場を押しつけながら自国だけは国内産業保護を認めるか否か、公務員をあからさまにバッシングして乱暴に公共サービスをぶち壊すかそれとも保護すると言いながら組合を丸めこんでしたたかにコスト削減を図るか、など確かにいくつか対立している部分はあります。多くの人々がその狭い選択肢の中にでもわずかな期待をつなごうとする気持ちを持っていることも事実です。それでもオバマ政権が前回掲げた「チェンジ」がことごとく中途半端なまま4年が過ぎたという現実、選挙が終わったとたんに共和党との宥和とか財界との接近で「チェンジ」が失速するといった、ピープルパワーのマネーパワーへのすり替えをすでに前回経験していることは今一度確認しておく必要があります。今回議会の勢力バランスが変わらなかったので、そのパターンが繰り返される可能性は高いと思います。実際オバマは勝利演説で共和党と仲直りをして財政再建云々などと言い始めているので、早くも黄色信号が点っています。 選挙中、オバマもロムニーも「ミドルクラス」という言葉を呆れるほど連発しました。米国ではまだミドルクラス幻想にこだわる政治家が多く、アメリカンドリームを再建するという絵空事が繰り返し強調されます。新自由主義はミドルクラスを実際には縮小させて格差社会をもたらした元凶なので、修正路線のオバマ陣営の方がこの点では一貫性のある議論を展開できました。例えば選挙期間中オバマは教員の雇用を守るとして教員組合を喜ばせました。しかし同時にオバマ民主党はコスト削減を政府や学校に要求しています。どうやってそれを両立させるかを現実的に考えれば、ミドルクラスとして扱われていない非常勤・契約社員などにしわ寄せがくることになります。学生にとってもいくら貸与型奨学金を増やしたところで授業料高騰とローン地獄が続きます。ミドルクラスもロウアークラスも差別せずみんなが安心して生きられるようにするためには、既存の常勤職だけを守るとかブッシュ減税の廃止程度の中途半端な政策ではとうてい無理があります。それを越えるレベルのチェンジをオバマ政権が口にしたことは一度もありません。 二大政党政治では大きなチェンジなど期待できないとすでに考えている人達は、政治から離れてしまっているように感じます。今回の選挙は史上最高額のカネがつぎこまれた選挙と言われていますが、投票率は低調でした(最終集計はまだですがかなりの確率で前回を下回るとのこと)。ブッシュ路線の否定という点で一定の希望がもてた前回と違い、新自由主義の再急進化も無理だがそれに代わる新たなビジョンも打ち出されていないので、出口の方角すら見えずに迷走している政治に関心を持ちづらい状況と言えるでしょう。マイノリティコミュニティでの投票者への嫌がらせ(ID要求の厳格化など)や投票マシンに仕組まれた不正バグがまた問題になっていますが、米国の選挙制度そのものが非民主的で不公正であるという指摘は二大政党やマスコミからは一切聞くことがありません。「一票の格差」と死票を最大化して第三政党にほとんど存立の余地を与えない非民主的な世論歪曲装置のパッケージ、つまり大統領選における選挙人団・勝者一人勝ち制度と議会選挙における完全小選挙区制度、議員定数の少なさ(小さな議会)、さらに企業・金持ちの政治献金を完全自由化する法解釈と、二大政党の宣伝機関としてのマスコミの影響力により、アメリカ政治は一般の人間から著しく乖離したものになっています。緑の党などは移譲投票や比例代表の導入や企業献金禁止による米国政治の民主化を求めていますが、多くの人はそうした主張を耳にすることすら困難だったでしょう。新自由主義でも修正路線でもない本当の変化を求める声が行き詰まった二大政党政治に今度こそ風穴を開けるような新たなオキュパイ的運動を生み出すかどうかに注目したいと思います。 <参照> 選挙結果速報 http://www.google.com/elections/ed/us/results レファレンダム結果 http://www.politico.com/2012-election/map/#/Measures/2012/ CNN出口調査 http://www.cnn.com/election/2012/results/race/president#exit-polls 投票率関係 http://www.oregonlive.com/today/index.ssf/2012/11/2012_election_voter_turnout_sh.html NYT社説 http://www.nytimes.com/2012/11/07/opinion/president-obamas-majority.html?hp&_r=0 Created by JNK. Last modified on 2012-11-08 07:44:28 Copyright: Default |