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LNJ Logo 報告 : 「ザ・コーヴ」映画とシンポジウム
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News Item 0611kobu
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6月9日夜、東京・中野ゼロ小ホールで「ザ・コーヴ」上映シンポジウムが開催された。

開場20分前に到着すると、すでに長蛇の列。想像していた右翼の街宣カーなどはいなかった。中に入ると約500席の会場は、報道関係者、上映反対の団体などを交え、ひしめき合っている。前から6列目、中央の席を見つけて座った。18時40分開演だが、なかなか始まらない。そろそろ19時をまわった頃、主催の「創」編集長・篠田氏が「チラシ配布についてあえて規制しなかったので過激な内容のチラシも入っていますし、上映中に騒ぐ人がいるかもしれない。これは日本人の公共の場での社会性を問われる問題なので、もしそんな人がいたら隣の人が止めてください(笑)」と挨拶。場内からも笑いが起きたので安心する。

また映画の宣伝としてではなく、ちょうど来日中のリック・オバリー氏(写真)にせっかくなので急遽挨拶をしてもらうことになった、と氏が紹介され、登場。

さすが活動家は挨拶がうまい。日本国憲法第21条のお手製フリップをかざして「表現の自由」を訴える。「娯楽としてでもいいから、まずは観て欲しい」とも。

それに対して、ドキュメンタリー作家の森達也氏が「憲法は国家が弾圧してきたときに言うべきことで国民同士のことで引き合いにだすものではない」と言い、「創」の篠田氏は「外国の人にそう言われてしまったことを恥ずかしい、と思う」と述べる。

上映が始まった。(以下、ネタばれあり要注意)冒頭からいきなり、リック・オバリー氏が「彼ら(漁師)は僕を殺そうとしている・・」とか言って、大きなマスクをしておびえている。そんなことするわけないよ〜!と思うので場内では笑いが起きる。・・ここが彼の言う「娯楽としてでも観て〜」の一部なのか? たしかに大金を賭けて隠しカメラを作り、スタッフを集め、「オーシャンズ11みたいだ」と、監督のほうはずいぶん楽しそうだ。同じ隠し撮りでも「ビルマVJ」の泣くどころでない命掛けの緊迫感とはかなり様子が違う。

取材の合間に現地の観光として神社仏閣を訪れたルイ・シホヨス監督は「日本人は(庭に敷き詰められた)石を見て喜んでいる。我々はそんなもの見て喜んだりはしないけどね」と言う。場内からは笑いが漏れた。たしかに私も笑った。あーそうだよね、外国人から見ればね、と思ったから。でもこれ、イルカ以前の問題かも。それこそ他人の文化をなんと心得るか、という話で、ここは日本人としてもっと怒るべきところじゃないだろうか。アカデミーでもここで笑いがおきていたとしたら、たくさんいたであろう芸術家や文化人の良識を問いたい。

日本人は石を見ながら別のものを見ている。それは精巧に整えられた庭全体であり、毎日庭を整える人の技や習慣であり、その歴史であったりする。そこに感じる何かがあるから人は魅せられるのだ。単に石を見て喜んでいるわけではない。

もうひとつ、映画として果たしてこの場面は必要であったのか? 「逆にとらえて、我々は岩から見ようと考えた」・・だから盗撮しましたよ、ってことにつなげているのだが、・・太地町の漁師さん=悪、イルカ漁=悪という認識がまったくないものだから、その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。 

石を見るのが好きな日本人の逆をついて石(岩)から見てやればいい・・? 「石がそんなに好きなら石から見てやるよ」って、まあ、要するにバカにしているのだが、皮肉と受け取るにはわかりづらく、幼稚な展開に思えてしまった。

ドキュメンタリー映画として、盗撮は一つの手法であると思う。 ただ、切り口としては、もっと人を共感させ、巻き込む方法があるのではないか、と思う。

同じ活動家でもマイケル・ムーアの映画が面白いのは、まず敵が大きいからだろう。だから相手をどんなに茶化しても、それが「共通の笑い」につながる。弱者であるねずみが強者の猫をかむから面白いのだ。

パネラーの坂野氏が「誤解をしてはいけないのは、イルカ漁は日本政府が認めた合法の漁であるということです」と説明した。ならば、彼らが相手にすべきは日本政府であって、小さな漁港の漁師たちではない。日本の配給側もボカシを入れることでかえって犯罪者のように見えることを説明し、粘り強く理解を得る方向に進むべきではなかったか。

また「イルカ漁が行われていること」も「水族館のイルカがストレスに弱い事」も、関心のある人なら多少は知っている事実だ。以前から報道もされている。知らなかった人には衝撃かもしれないが、映画には、私なんかがすでに知っている程度の情報しか入っていない事も気になった。

水銀値については「すべてのイルカに当てはまるわけではない」、と日本側の配慮で最後にテロップが出されているが、それがなくても情報を鵜呑みにしない、まず疑う姿勢というものを観ている私達も育てなくてはいけないと思う。そうであれば、ボカシの付け加えや補足テロップも必要ない。要するに、日本の観客は信用されていない、ということだ。残念ながら、反日映画だと言って映画館を脅したり、上映を中止したりするような行為は、私達が良質な観客に育つ機会を奪う行為でもある。これでは良い映画も正当に評価されないままだ。

さて、作中、取材クルーの泊まっているのはあきらかに旅館。彼らは毎日何を食べていたんだろう? 私が旅館の女将なら「本日は特別いい肉が入りました〜♪」と言って、わからないように調理してイルカ料理を出すところだが、せめて太地町のとれたての魚を「まずはひやかしでも食べてもらいたい」ものだと思った。(白銀由布子)

(会場やシンポジウムの様子は、こちらのリンク先で詳しくご覧になれます→http://www.cinematoday.jp/page/N0024920 シネマトゥデイ)

*写真=ムキンポ氏撮影 http://mkimpo.blog.shinobi.jp/Entry/1002/


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