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LNJ Logo 「ニューヨークタイムス」が報道〜日本の若者、経済問題に声をあげる
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「ニューヨークタイムス」6月29日号・ウェブ版(左)に、「日本の若者、経済問題に声をあげる」という記事が掲載されました。非正規・反貧困に取り組む日本の若者の写真が大きく掲載されています。現在、PARC自由学校で行われている特別講座「社会にモノ言うはじめの一歩〜活動家一丁あがり!」などが記事のベースになっています。筆者は HIROKO TABUCHI さん。以下は木下ちがやさんによる抄訳です。(編集部)

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ニューヨークタイムス 2009年6月29日付・ウェブ版 http://www.nytimes.com/2009/06/30/business/global/30youth.html?_r=1

日本の若者、経済問題に声をあげる

最近、若者の一団が、ここ日の暮れた公園に集まった。プラカードとトラメガを手にかれらは日本政府を非難し、失業、職を得る機会がないことを訴えた。

砂ぼこりのたつ東京近郊の高円寺。ここでしばし繰り返されるこうした場面は、最近のイランを揺るがしたような抗議運動とはまったく似ても似つかない。こうした抗議行動は、それこそ世界のほとんどのところでは驚くに値しないようなものだ。でもこの日本という従順を尊きとする国では、かれらは正真正銘の変わり者なのである。

若者が暴れ回っていた1960年代以降、若者のかなり穏健な抗議行動でさえタブー視されているのだ。しかし景気後退の痛みはそれを変え、ずっと久しく政治に無関心とみられてきた日本の若者の間に新しいアクティビズムが台頭している。

「社会を変えたいから、私はここにいるんです」。リーダーのひとり佐藤ヨシヒロ(28歳)は、50人ばかりの人を前にこう叫んだ。「一緒にやりませんか?」。

ブルジョア日本社会を変革しようとアジった60年代世代とはことなり、佐藤ら若者はいま、その社会にくわわらんがために闘っている。かれらはもっといい職業機会を、よりよい職の保障を、より強力な社会的セーフティーネットを要求している。

草の根運動なき数十年をへて、抗議運動はごく稀にしかない。だから多くの人が必須の基本的訓練に参加したいと思っている。貧困問題などの社会問題についてのセミナーを主に運営する、東京にあるアジア太平洋資料センターが最近、マーチを企画した。

もっと社会問題にかかわりたいけど、どうやっていいかわからないという若者からの関心が急激に高まったのをうけて、同センターは、かれらいわく日本で最初の活動家トレーニングプログラムの提供をはじめた。このセッションには、ポスターづくりやウェブでのキャンペーンのやり方などがおこなわれている。資料センターの責任者内田聖子は「いったんはじまれば、日本はデモで埋め尽くされますよ」と元気いっぱいの聴衆に語った。

これはまあおおげさだが、しかし経済の悪化がとりわけ若者に深刻な影響を与えていることに議論の余地はない。全体の失業率が5%であるのにたいして、15歳から24歳の失業率は本年4月に9・6%である。

しかも日本の失業給付や福祉給付は少ない。そして政府の支出は、若年労働者の職業訓練プログラムやかれらの家族支援にではなく、年配の有権者の年金や医療保険に厚く向けられているのだ。

本年第一四半期において、日本の経済は、世界経済の減速のために輸出が落ち込んだので、年次ベースで14.2%と圧倒的に収縮した。職を失った者の多くは、10年におよぶ規制緩和の所産である「非正規雇用」の地位にある若者である。

格差は、戦後日本の急速な経済成長の恩恵を被った世代と、日本の経済が停滞し回復がままならなかった1990年代の「失われた10年」に成年を迎えた世代との間に世代間の軋轢を生じさせた。

キャノンや豊田自動車といった企業は、臨時雇用の工場労働者を昨年解雇しはじめた。ほんの一握りの労働者が公然と抵抗を試み、工場の門前で管理者と時にはテレビカメラの前で言い争いをした。元雇用者を法的に訴えることで波風をたたせた人もいた。

年末年始の休日、およそ500名の解雇され家を失った非正規雇用労働者が、東京のど真ん中の公園に集まり、即席のテント村を厚生労働省の真ん前に設営した。こうした場面にメディアは群がり、若者の窮状に対する国民的な関心が高まった。

現在、労働者たちは組合の組織化を急いでいる。また日本共産党は一ヶ月に千人の党員を拡大したと発表している。その多くは不満を抱く若者である。

闘うテクノミュージシャンである向笠眞弘は、フリーランスの芸術家、ミュージシャンのための組合を、昨年12月にたちあげた。インディ・ユニオンは特に雇用者の不正行為に悩まされる組合員を支援することを目的としている。「ミュージシャンはよろしくやっているとみんなおもっているけど、僕らもちゃんとした生活をおくりたいんだ」そう向笠は言う。「このひどい経済状況で僕らの暮らしは追いつめられているということを明らかにしたいんですよ」。

だが、従順と秩序を重んじるこの社会では、ほとんどの日本人はいまだもって対立や抵抗を忌避し、そして大衆運動とよびうるような動きは存在していない。「抵抗活動にくわわることを日本人は恥と考えているんですよ」。ベテラン活動家の湯浅誠はそう言う。「多くの人はまだわたしたちを疑いの目でみている、爆弾をつくるんじゃないか、とかね」。

だが、抵抗文化の動向を研究している東京芸術大学教員の毛利嘉孝はこういう。「ここ数年来なかったような重要なアクティビズムの台頭だ」「日本の若者の間に運動が浸透しつつある」。

高円寺でリサイクルショップを営む活動家松本哉は、かれが主催する抵抗活動や集会に多くのひとを集める。志を同じくする何人かの仲間が松本の店の側に自分の店を開き、仕事の後に抗議活動のプランを一緒にねり、こうして高円寺はアクティビズムの中心地へと変わりつつある。

「貧乏人の反乱がついにはじまった」。車輪をつけたベニヤ板のうえにのせたフルセットのドラムを打ち鳴らしながら、松本は最近のデモでそう叫んだ。彼のメッセージはこうだ。「貧乏人だってよりよい暮らしをしてもいいんだ」。「みんなで力をあわせれば、世の中をかえることはできるんだ!」。

こうした示威行動がどの程度の政治的影響力をもちうるのか、それに疑問を呈する専門家もいる。今年行なわれる衆議院議員選挙に大きな影響力をあたえるだろうという観測をする者は少ない。 若者の有権者よりも年配の有権者が数で勝っているし、若者は地方では数がすくなく、一票の価値が小さい都市に集中している。

また一方で、労働者と若者世代の右傾化が、いままさに注目を浴びつつある。これはナショナリストの安部晋三、小泉純一郎らの首相時代からはじまっている。当時、政治家や政府高官のナショナリスト的レトリックに煽り立てられたのである。若者の右傾化はすすんでいるように思われる。

 高まる怒りをおさえるために、政府は若者のための予算支出を増額した。最新の景気刺激策では麻生首相は若者の雇用を確保するために1.9兆円の支出をするという約束をした。麻生はまた、企業に対し非正規雇用労働者を正規雇用労働者に昇格させるよう要請している。こうした政策が実行されたとしても、経済問題にさしたる影響は与えない。

 今のところ、世論はこうした抗議者たちを同情の目でみつめている。また集会はローカルメディアの強い注目を集めている。サイトウ・マサアキ(60歳:高円寺の電気小売店店主)は、「若者を支援する」という。若い頃かれは学生運動に参加していたのだ。彼は言う。「長い時間がかかったが」「日本の若者は自分たちの声を取り戻したのだ」。(抄訳:木下ちがや)


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