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新刊紹介『ケーテ・コルヴィッツの肖像』
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松原です。

 ドイツの反戦画家ケーテ・コルヴィッツの時代と生涯を描いた評伝『ケーテ・コルヴィッツの肖像』(志真斗美恵著)が刊行された。私は以前に、ケーテ・コルヴィッツの絵や版画に触れる機会があったが、今回あらためて彼女の人生と時代に触れて、感じるものがたくさんあった。たまたま6月23日のレイバーネット日本の会議の二次会で、ケーテ・コルヴィッツの話題が出たが、活動経験の豊富なTさんでさえ「名前も聞いたことがない」という。ケーテはまだまだ日本で知られていないようだ。

 1867年に生まれ1945年に亡くなったケーテが描いたのは、ドイツの貧しい労働者の姿であり、革命であり、戦争であり、死である。その絵は深い悲しみに満ちている。しかし、それが悲しみだけに終わらず後世まで感動を呼び起こすのは、事柄と時代の本質が刻みこめられているからではないか。この本を読むことで、それがよくわかる。彼女が30歳で描いた連作版画「織工たちの蜂起」の6葉の版画に示された労働者の姿は強烈だった。これは実際に1844年に起きた織工たちのたたかいをもとにしたものだ。ケーテはこう述べている。「わたしがプロレタリアートの生活を描くことへ向かったのは、同情や共感といったものではなく、わたしがそれを理屈抜きで美しいと思ったからだ」と。

 第一次大戦で息子を失い、第二次大戦で孫を失ったケーテの戦争と圧政に対する憎しみは深い。子供を必死に守ろうとする母親の姿を描いたリトグラフ「種を粉に挽いてはならない」(1941年・左の絵)は有名な作品だが、けして過去の作品とは思えなかった。本書の1933年から始まるナチス支配の時代の記述を読んでいると、いまの日本がオーバーラップして仕方がない。たとえばこんな記述がある。「3月5日の総選挙でヒトラーは圧倒的多数を獲得し、権力を掌握した。インフレと失業による生活苦に追いこまれていた民衆は、その原因とたたかうのではなく、反対にナショナリズムと反ユダヤ主義を訴えたヒトラーに心を奪われていった」と。困窮する民衆が選んだのはファシズムだったのだ。

 そうした状況のなかで、芸術でたたかったケーテはこう語っている。「わたしはこの時代のなかで人びとに働きかけたい」。なにはともあれ、絵もたくさん載っている本書でケーテ・コルヴィッツに触れていただきたい。

→『ケーテ・コルヴィッツの肖像』(2500円+税・績文堂・TEL03-3260-2431 FAX03-3268-7202・mail@dwell-info.com


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