「あそこには絶対に子供を送らないでください」

［パノルリム リレートーク］(2)サムスン職業病被害者チョ・ウンジュ氏の遺族

あなたがこの文を読んでいる今も、江南駅8番出口、サムスン電子本社前ではパノルリム(半導体労働者の健康と人権守備隊)とサムスン職業病被害者の野宿座り込みとリレートークが続いている。 そしてサムスンは若くがっしりした警備員を使って座込場を24時間見守っている。

初めは座込場にビニールで屋根をかけただけでもすぐ警備員たちが駆け付けて妨害した。 人々が凍えて死にでもすれば大変なことになるとは考えているのか、 雨が降ったり夜になればビニールで屋根をかけることを認めるが、 警備員の目に少しでも屋根が高く見えれば、また近寄ってきて文句を言う。 誰が指示しているのかわからないが「超一流グローバル企業」と呼ぶにはあまりにも偏狭な行動だ。

毎日新しい客が座込場に訪ねてきて、リレートークは昼も夜も続いている。 座込場を守っている人たちは、冗談で訪問客を「オットセイ」と呼ぶ。 サムスン警備員が無線機でどこかに報告しながら 「現在、座込場にオットセイＯＯ頭がいる」というように話すからだ。 リレートークの司会者は座込場の真上に付けられているCCTVを見ながら 「今日もOO人目のオットセイが座込場に来てくれました」と冗談を言う。 リレートークの訪問客も、CCTVの方向に頭を向けて明るく笑いながら手まで振る。

故チョ・ウンジュ氏お母さんの話

10月12日には、蔚山から来て座込場を訪れたチョ・ウンジュ氏のお母さんがリレートークの時間にマイクを持った。 1992年に生まれ、2010年7月にサムスン電子湯井工場に入ったチョ・ウンジュ氏は、 そこで大型LCD TVの不良検査をしていたが、 2013年の初めから痛み始めてその年の9月に病院に入院し、血液ガンの診断を受けた。 そして2月に24歳で亡くなった。 チョ・ウンジュ氏のお母さんは、まさに数か月前に娘を失った悲しみがこみあげるのか、 涙を流して言葉をつまらせた。

「家族の中に血液ガンの人はいないので、ひょっとして職業病ではないか考えて労災申請をしようとしたが、 サムスンは『職業病ならそこで働く人がみんな病気にかかるはずなのに、なぜウンジュ氏だけがかかるのか。 それはウンジュ氏個人が体が弱いので病気にかかったのだ』といいました。 ウンジュの話では、工場で一緒に働く後輩の人も甲状腺ガンにかかったそうです。 甲状腺ガンはよくあるので、その話を聞いた時はそのまま聞き流していましたが、 私の娘が家族とは関係のない血液ガンにかかったというので職業病ではないか考えていました。」

「若い子を金で誘惑して連れていき、悪い環境の中で髪の毛の先からつま先までを覆う防塵服を着せるのではなく、 サムスンはとんでもなく金を持っているので、その金で人間が働ける環境を作ることが優先だと考えます。」

「娘と同じ年頃のお嬢さんが通り過ぎただけでも涙が出ます。」

リレートークの時間が終わった後、 もう少し詳しい話を聞こうとチョ・ウンジュ氏のお母さんと向かい合って座り、話を聞いた。 以下はその話を整理した内容だ。

「お母さん、私は目がくらんで手もよく曲がらない」

「娘が病気で入院した時、映画〈もうひとつの約束〉の話をしながら、 パノルリムという団体があるといいました。 子供は死んで、絶対に労災はだめだというのでとてもくやしくて、 私がまずパノルリムに連絡をしてみました。」

「ウンジュが高校の1年になった時、サムスンから人がきて、うちの会社は年俸がいくらだが、条件がある、欠席もあってはならず、成績も10位以内でなければならず、 何よりも健康でなければならない、そんな話をしたそうです。 その時からウンジュがサムスンに入ろうと、ものすごく努力をしました。 遅刻も欠席もせずに。 一生懸命勉強もして、成績もいつも上位圏でした。 風邪を引いて病院に行ったこと以外、からだもとても健康でした。」

「ウンジュが1年だった時は、この子に何が分かるかとそのままにしていましたが、 この子が3年の夏休みの時、私はサムスンに行くと言いました。 それで行くなと言いました。 結局、行くには行ったのですが。 後で入院した時、ウンジュがこう言いました。 結局自分も家を出て生活すると考えたので行きたくなくなったと。 しかし学校の先生がウンジュがやめると送ることにした人数が満たせないので学校も困り、 今後サムスンからうちの学校に来ないから後輩が就職できなくなると言ったそうです。 働きたくなくても、とにかく行けと。 行った後で辞めて帰ってこいと。 それでウンジュはサムスンに行きました。 少し後で行こうとしたのですが、サムスンが子供たちにたくさんお金をくれるので、 あの子も後でお金に惹かれていました。」

「2013年の初めから、体調が悪くなりました。 私によく電話をしました。 お母さん、私目がくらむようだ。手もよく曲がらない。膝も痛い。 それで私が整形外科に行けと言ったのですが、そこでも何の異常ないと言われたそうです。 内科に行って血液検査をしたら血に炎症があると言って、医師は 『これは薬がない。血液が炎症になったからだ』 そんなことだけ言って、正確に話をしなかったそうです。 大きな病院に行けと言われればすぐに行ったのに。 そうして何か月か病院に通って、9月に全身が痛くなり大学病院に入り、 そこで薬を飲むと少し良くなって退院しました。 ところが工場に戻って一週間後、また電話が来ました。 お母さん、苦しくてどうしてもだめだ。 また大学病院に入って骨髄検査をしたら、血液ガンだと言われたのです。」

「私の電話も、友人の電話も受けません」

「ウンジュが工場で本当に親しくしていた子がいました。 蔚山で同じ高校の同じ組で、一緒に工場に入った友人でした。 パノルリムの労務士さんが工場でウンジュが正確にどんな仕事をしていたのか知りたいとその子に電話して聞きました。 ウンジュがどんな仕事をしていたのか、ちょっと話してほしいと。 しかしその子は知らないといいました。 ウンジュはその子の前のラインだったので、ウンジュが検査して出て行くとその子がきて検査したと言っていました。 それならウンジュがどんな仕事をしていたのか、当然知っているはずでしょう。 ところが知らないなんておかしいと言うと、その子がこう言いました。 『お母さん、申し訳ありません。私は知りません。申し上げられません』。 それでウンジュと同じラインで働いていた他の人にも電話してみたのですが 『私はウンジュのお母さんだけど』と言うとすぐ、その子たちはぷつんと電話を切りました。 彼らの間で話が回っていたのでしょう。 ウンジュのお母さんが電話してくるだろう。 受けるな。 後でかけなおしても絶対に出ませんでした。」

「ホジョン(仮名)という子がいます。 ウンジュと一緒に働いていたのですが、1年半ぐらいで、もうだめだと言って辞めて、 今は他の仕事をして暮らしています。 ホジョンにも電話してみたところ、その子はウンジュがどんなことをしていたのか知っていました。 それでパノルリムの労務士さんに連結して、その子が労務士さんにみんな話しました。 私もウンジュがどんなことをしていたのか、それで知ったのです。 ところでホジョンが、『他の子たちが私よりもっとよく知っていると思いますが?』と言うので、 私が電話しても出ないと答えたら、 自分が直接電話してみるといいました。 ところがホジョンが電話をしても、ウンジュの話をしただけで皆知らないと言って電話を切ったそうです。 その後では電話にも出なくなったそうです。 サムスンが口封じをしているのかどうなのか、友人の電話にも出ないのです。」

「ウンジュが死んだ後に、サムスンの課長か常務か、とにかく二人が来て、 月給と退職金と保険金のようなことを話してくれました。 でも私が望むのは職業病を認めてくれることなのに、なぜ労災処理しないのかと尋ねると、 これは職業病と認められないという言葉しか戻ってきません。 職業病なら、なぜウンジュだけが病気にかかったかということでしょう。 それでもその二人は特に必要もなかったのに3日間、ずっと葬儀場にいて、火葬場までついて来て帰りました。」

「あそこには絶対に子供を送らないでください」

「ウンジュの話では、工場の30代はいないんだそうです。 みんな20代だそうです。 4年か5年働いて結婚して、みんな辞めるそうです。 三交代で一週間に二回休んで、月給も多いので、 結婚してもずっと働いてもいいのに、 不思議なことに30歳になる前にみんな辞めて行きます。 それには明らかに理由があるんだと思います。 サムスン半導体の工場を辞めた人がインターネットに書き込んだ文を探してみると、 辞めてから10年経ってもガンや脳腫瘍とか、色々な病気にかかったという話が出てきます。 なぜそこで長い間働く人がいないのか、一度考えてみる必要があります。」

「無力な人々がサムスンと戦って、勝てるでしょうか？ ひとまずくやしいから労災申請はしますが、勝つかどうかは半々だと考えています。 他のことはともかく、作業環境だけは改善して、娘のような若い子たちがこれ以上病気で死なないようにしてほしいですね。 (サムスン本社ビルを見上げながら)こんな建物には金をかけるのに、なぜそうしてくれないのかわかりません。 一年に3千万ウォンで連れて行って、その良くない環境で仕事をさせるとは...」

「初めはウンジュも仕事を面白がっていました。 仕事はつらくても一年ほどで面白さもわかって、友人ともつきあって、お金にもなるから。 しかし病気になってから、ウンジュがとても後悔しました。 私が無理にサムスンに行ってこうなったと。 工場には病気の人が多いと聞いていたのに、まさか私までそんな病気にはならないと思ったと。 工場の中にも職業病被害者の話をみんなしているといいました。 隣で働いている後輩も、皆どこかが痛くて苦しんでいるとも言っていました。 ウンジュもサムスンに行った後で痛み始め、それまではどこも痛くありませんでした。 ところが直ちにサムスンでウンジュが病気にかかったのです。 サムスンに入ったことが今まで生きていて一番悔やまれるといいました。」

「サムスン半導体工場には、 娘であれ息子であれ、子供がいる人たちは絶対に子供を送らないでほしいです。 そんなところには誰も行ってはいけません。」

止めなければならない、しかし止められない話

サムスン職業病被害者問題を解くための調停委員会ができて一年経ったが、何も変わらない。 サムスンは10月7日の調停委員会でも「保留を要請する」、「書面で答える」という言葉を繰り返すだけで、 サムスンの内部機構同然の「補償委員会」だけに集中しようとする態度を見せた。 いつまた調停委員会が開かれるのかは誰にもわからない。

サムスンが知らないふりしている間、労働者たちは一人ずつ死んでいき、悲しく悔しい話もそうして一つずつ積まれていく。 怨恨が深い幽霊は、くやしすぎて成仏できずに現世をさまようというが、 それは必ずしも幽霊だけの話ではないようだ。 江南駅8番出口のパノルリム座込場には、今日も愛する家族をとても送り出せない涙ぐましい人々の話が集まるだろう。 サムスンが誇る警備員と最新型CCTVの歓迎を受け、 止めなければならないのにどうしても止められない、そんな話が。

整理:パク・ピョンハク

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可（ 仮訳 ）に従います。

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Created byStaff. Created on 2015-10-22 04:32:39 / Last modified on 2015-10-22 04:32:40 Copyright: Default