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韓国:2年たっても、竜山惨事はまだ進行中
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「2年たっても、竜山惨事はまだ進行中」

[インタビュー]竜山惨事遺族チョン・ジェスク氏

キム・ドヨン記者 2011.01.19 18:37

2009年1月20日。
五人の撤去民の命を奪った竜山惨事から2年だ。ある者は、 竜山惨事はすべて解決した、ただ無念に犠牲になった亡者の魂を賛えて追慕 すればいいではないかと言う。ある撤去民は竜山を『うまく合意した』例として 記憶する。

だがチョン・ジェスク氏にとって、竜山惨事は『今日』行われている『惨状』 だ。死者はこの世を去っても『区分された真実』が彼の息子イ・チュンヨン氏 を監獄に閉じ込めているからだ。『父を殺した殺人者』。彼の息子にかぶせら れたその重く惨憺たる罪目をそそぐために、竜山惨事の真相を明らかにするた めに、彼女はこの1年、老躯を駆ってあちこちを飛び回った。

▲17日、竜山惨事2周期汎国民追慕期間宣布記者会見に参加したチョン・ジェスク氏

「政府との合意は、合意とさえ言えず、中途半端な葬儀をしただけだったので はありませんか。世の中の人々は、世の中に出て行っても、われわれにはする ことがあります。葬儀をしてから、遺家族協(全国民主災い運動遺族協議会)と 民家協(民主化実践家族運動協議会)に行きます。遺家族協には民主化運動で亡 くなった多くの烈士のお母さんがいます。子供たちを胸に刻み込んだ人々です。 真相が明らかになった人もいますが、どうして亡くなったのか明らかになって いない方も多いです。それでも静かに座って真相を明らかにする人はいません よね。竜山も真相究明委がありますが1年間、遺家族協に付いて回り、ずいぶん 勉強しました。また民家協にも行きます。息子が龍山4区域撤去対策委員長職を していたからと5年の刑を宣告されました。それで木曜になるとタプゴル公園で 良心犯釈放を叫ぶ民家協集会に参加します。」

遺家族協に行って、惨事が彼女に残した傷もずいぶん治ったという。「世の中 の人々と会えば、私は必ず真相究明をしなければいけないと言っても理解でき ません。私の同期の中でも、同じことを体験したことがない人は遠ざかり、隣 人もいません。われわれはありません。でも遺家族協に行くと、みんな私のよ うな痛みを持っている人々で、これらの人のどこが痛く、どこがかゆいのか皆 わかります。それで一緒にいると心が本当に安らかになります。その人々が私 たちの家族です。」

遺家族協で、非正規職労働者や撤去民闘争現場のようなところに支持訪問に行 く時は、必ずついて行く。「お父さんが皆同じように暮したいと叫んで櫓にの ぼって」でもあり「今も堂々と強行される竜山弾圧を知らせるため」でもある。

時には苦しいが、苦しいという言葉をなかなか口に出さない。彼女にはそれが 『もっと苦しいかも知れない同僚への配慮』だ。それでも本当に苦しい時は、 病院を訪ねる。

「とても苦しくて耐えられないと思えば、前に霊安室にいた時から遺族を見て くれたお医者さんたちがいます。私たちの顔を見るだけで、どこが痛いのかわ かるそうです。そこに行って、針を打ってもらい薬も飲みます。行けば先生が 『とても苦しくて来られたのですね』と言います。事実私たちには良い人たち がとても多くて、苦しいと言ってはいけません。その方たちがいたから私たち が今まで生きてこられたのではないですか。」

「竜山は終わらない、私はまだ赦せません」

彼女には竜山惨事がまだ『進行中』だと知らない人たちは、下手に彼女に赦し を要求したりもする。だが彼女にはどんな赦しも、和解もまだ早い。

「あるキリスト教団体が忘年会のたびに遺族を招きます。11月末にも招待され て行きました。ところがその場に竜山惨事で死んだ警察官のお父さんが来てい ました。その団体は私たちを何度も和解させようとします。その日も互いに理 解して許せ、手を握れといいました。でもそのお父さんが殺したのではなくて も、赦せないのです。」

そのお父さんが、息子のその警察官が憎かった訳ではない。彼らもこの政府の もうひとつの『犠牲』だとチョン・ジェスク氏は誰よりもよく知っている。

「事実、あの人たちに何の罪があるでしょう。誰かを殺そうとして行った人で もなく、上がさせたからそうしたのでしょう。でもわれわれはまだ真相究明も 出来ずにいます。この人たちがなぜ、どうして死んだのかは知らなければなり ません。1、2階に降りた人々が死に、屋上に行きました。理解できないでしょ う。それを明らかにできず、息子と仲間の八人が重刑を受けました。私の息子 とナム・ギョンナム議長だけがソウル拘置所にいて、他の人たちはみんな地方 に送りました。警察官は公務中に死んだと国が認めた人です。われわれは罪人 になって、その人は罪人ではない、そんな状態で私たちがどうしてその人を許 せますか。容赦できません。容赦できません…。後で真相究明ができて、くや しい汚名をそそげば、その時は容赦できるでしょう。」

真相究明までどれだけ時間がかかるかは誰も知らない。それでも同じだ。だが チョン・ジェスク氏は、『いつかは』必ず真実が明らかになるという希望を持っ ている。

「長くかかるかもしれません… 息子が監獄から出る前に明らかになるとは考え ていません。李明博政権では期待することもできないでしょう。でも、いくら かかっても、明らかにしなければならず、明らかにできるという希望がありま す。今回だめならば次の政府、それでもだめならばまた次の政府に…。」

「竜山烈士の話は必ず歴史に残るでしょう」

「事実私は2周忌と言っても、もう2周忌になったようです。1年ではだめでしょ うが…。」
用心深く2周忌を口にしたチョン・ジェスク氏は、息子と共に夫 の2周忌を過ごせないことをとても残念がった。

「末っ子も監獄の中でつらいでしょう。末っ子をとてもかわいがったお父さん の2周忌なのに。お父さんが一緒にそこに上がったのも、『末っ子だけ上げられ ない、私が行かなきゃ』と上がったからです。少しでも出てこられれば、どん なにいいでしょう。しかし政府はそういうことを許さないから。」

ナミルダン・ビルを守れなかったことも、彼女には『恨』として残った。彼に とってナミルダンは、伴侶のイ・サンニム氏を失った『痛みの場所』でもある が、夫が家族のために最後まで守ろうとした生活の砦でもあった。

▲18日、竜山惨事再発防止のための強制退去禁止法制定討論会の会場では付帯行事として「竜山惨事烈士櫓遺品および櫓物品展示会」が開かれた。討論会が終わってもチョン・ジェスク氏は展示されていたイ・サンニム氏の遺品を見て、しばらく席を離れられなかった。

「他の遺族はあの人たちが櫓で亡くなり、その屋上を見るのが嫌だと言います が、私はそうではありません。櫓を見ると気が楽になります。あの人たちが、 あそこから私たちを見ているような気がして。それでナミルダンの前を一日に 何度も行き来して、本当に見えなくなるまで見ていました。でも今はナミルダ ンに行っても何の痕跡もありません。気持ちが何か寂しくて複雑で息苦しいで す。ナミルダンを撤去すると携帯メールきた時、天が崩れるようでした。私た ちが守り、保存すべき建物なのに、それを守れなかったでしょう。今はどこに 何と話しかければいいのか分かりません。」

「税金もきちんと払って良く暮らせるものと思い」、前だけを見て熱心に商売 をした『おばさん』が、厳しい用役チンピラ、その上、政権と『勝負』しても 「何も恐ろしくない」闘士の生活を送るようになったが、彼女は夫も、息子も 恨まないと話した。

「恨めません。家族と暮したいと上がった人で、家族を捨てようと上がった人 ではありませんから。政府が私をこうしたのです。撤去民が道端に追い出され、 貧しい人々への差別、これを私たちが葬儀を迎える前に必ずひっくり返さなけ ればならなかったのに、それができずに葬儀をしたのが本当に恨めしいです。」

今後残された道は、今までの道よりちょっと易しいかもしれず、あるいはさら に難しいかもしれない。だがすでにそんなことは彼女にとってあまり重要では ないように見えた。彼女の目はそれよりはるかに高いところではるかに遠くを ながめていた。

「われわれは恥じることがない生活をしてきた人です。孫は高校1年ですが、孫 にもそう話します。『おじいさんが欲張って亡くなったのではない。私たちが 必ず受け取るべきものを要求したのに、それができず亡くなった』。これから 二番目の孫が生まれても、同じ話をするでしょう。この出来事がいつかは歴史 に残ると考えています。真相究明がなされ、責任者も処罰され、烈士の業績が 再評価されれば、法が変わって、結局こうして道端に追い出される撤去民もい なくなるでしょう。そして『撤去民、龍山4区域の烈士たちがあの時そう叫んだ から世の中が変わった』と歴史に残るでしょう。今は苦しく、難しくても真実 は必ず明らかになると考えます。孫が生まれた時、そんな歴史の本で勉強でき ると本当にいいですね。それを望んで暮します。」

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2011-01-20 15:23:38 / Last modified on 2011-01-20 15:23:40 Copyright: Default

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