本文の先頭へ
韓国:現代版貧民窟、考試院
Home 検索

現代版貧民窟、考試院

[人権オルム] 『準住宅』に閉じ込められてしまった考試院、住居権はどこに

ミリュ(人権運動サランバン)/ 2010年05月05日21時38分

住宅でもあり住宅ではない。ソウルだけですでに10万人以上の人が考試院で暮 している。ここを住宅ではないとは言えない。しかしひとりがやっと横になれ る程度の空間で、爪先で歩かなければならない、窓がないのも普通の所を住宅 と言うこともできない。こうした考試院に国土海洋部は『準住宅』という名前 を付けた。ちょっと見れば現実を柔軟に反映する政策とも思える。だが住居権 に基盤をおくこともできない接近が作り出した『準住宅』政策は、住居不平等 の現実を固定するだけだ。

『現代版貧民窟』

考試院は『現代版貧民窟』と呼ばれる。しかし貧民窟より居住民の平均年齢は 低い。また非常に劣悪な水準から、比較的広くて冷暖房施設まで備えた高級型 まで多様だ。2009年に国家人権委員会が発行した『非住宅居住民人権状況実態 調査』(下、非住宅調査)によれば、ソウルに考試村が登場したのは1980年代の 初期だ。その後、大学街周辺に広がり、1990年代後半の経済危機を契機に住居 空間と見なされ始めた。次第に地下鉄の駅周辺や住宅街に広がり『ワンルーム テル』等と呼ばれる高級型考試院まで現れた。ソウル市の資料によれば2009年 現在、考試院は3738ケ所で、2年前より20%増加したが、会社員が多い江南・瑞 草・銅雀・九老・松坡区に43%が密集している。

考試院の形態が多様だが、一般的な特徴を見てみよう。まず面積が非常に狭い。 住宅法の最低住居基準によれば、一人世帯の最小住居面積は12だ。しかしこの 面積基準を満足する考試院は殆どなく、普通ひとりが横になれる面積だ。当然、 最低住居基準に明示された専用台所やトイレなど必須設備がある所は殆どない。 考試院の居住民が訴える不便の一つは防音だ。非住宅調査によれば同等の住居 費を払う所ではなく考試院で暮す最大の理由は私生活の保護だが、互いの私生 活を保護するためには絶対に私生活を自制しなければならない逆説的な空間だ。 部屋を分ける壁などに合板が多く利用されるためだが、これは迷路型内部構造 と狭い廊下問題とからみ、火災事故の危険を高める。採光や換気できる窓がな いことも多く、居住民の健康にも否定的影響を与える。

政策の舞台に登場した考試院

2006年、松坡区のある考試院火災で8人が命を失い、考試院は社会問題になった。 その年、消防災難本部が全国4211ケ考試院に特別点検を実施し、2009年「多重 利用業者の安全管理に関する特別法施行令」に考試院業を追加して、考試院の 安全監督が制度化された。この時まで考試院は火災発生の危険が高い建築物と して扱われたが、今回の国土海洋部の準住宅概念はさらに一歩踏み出した。

今年4月、国土海洋部は考試院、オフィステル、老人福祉住宅を準住宅の種類と 範囲を設定する内容を含む「住宅法施行令」改正案を立法予告した。昨年7月の 建築法施行令改正で、考試院に個別の浴室とトイレを設置することが合法化さ れ、すでに考試院は住居の一つの形として位置を占める準備ができた。今回、 政府が準住宅の概念を導入した理由も、それがすでに「事実上住居施設として 利用」されているためだ。

しかし考試院はやはり住宅ではない。考試院は建築法施行令で、第2種近隣生活 施設または宿泊施設と規定される建築物だ。住宅法上は準住宅に規定されるが 住宅法の最低住居基準適用は受けない。最低住居基準に満たない準『住宅』が 建築許可を受けられることになるのだ。住居実態調査の対象に含まれるのかど うかもまだ検討されていないという。準住宅になって変わるのは、まさに国民 住宅基金で低利の貸し出しを受けられるという点だ。

国土海洋部はすでに住居施設で利用されている点を認めつつ、劣悪な住居環境 で暮す居住民に対し、いかに適当な水準の住居を支援するのかは考慮せずにい る。国土海洋部は5月中に建築法施行令の改正で、考試院に採光や主要構造物の 耐火構造などの条件を義務化する計画だという。しかしこれが(そうでなくても 低い水準の)最低住居基準に満たないのは明らかだ。国民住宅基金の支援で考試 院の改善補修を誘導するというが、改善補修を『推進』する計画があるのでは ない。運良く改善補修があれば現在の居住民の住居環境が少しは良くなるだろ うが、改善補修がなければそのまま留まるほかはない。結局住居の要件を充た さない考試院が国民『住宅』基金の支援まで受け、供給される状況になってし まうのだ。また国民住宅基金で改善補修される考試院への賃貸料制限などが並 行しなければ、考試院居の住民をさらに劣悪な住居環境に追いやる結果を産む だけだ。

考試院の居住民

考試院を『選択』する人は、事実上『考試院の選択』を強要される状況に置か れている。2008年の消防災難本部の全数調査結果によれば、首都圏の考試院居 住民は138587人だ。彼らはほとんど1人だ。これらのうち単純労務・販売・サー ビス従事者が74.4%、失職者は10.3%だ。考試院の利用料金は月17〜25万ウォン 程度だが、月平均所得50万ウォン以下が33.3%(46、179人)だ。蔓延した失業と 経済不況、耐えがたい家の価格の影響で、1人世帯が『選択』できる所がなく、 そこでさえ月所得の30%以上を住居費に支出しなければならない(月所得の30% は国際的に住居費負担を評価したり賃貸料規制や支援などの住宅政策で基準と する割合だ)。

ここには政府の住宅政策が1人世帯を排除している点も重く作用する。契約制度 の加点制は、1人世帯の優先順位がとても低く、単独所帯主の入居が可能な40以 下の公共賃貸住宅はほとんど供給されない。その上勤労者庶民住宅貸し切り資 金貸し出しなどの制度は35歳未満の単独所帯主をまったく資格から排除する。

1人世帯の割合が高まり続け、政府も1人世帯を念頭に置く政策を始めた。代表 的なものが『都市型生活住宅』だ。供給を活性化するために政府は建築関連の 規制を緩和し、国民住宅基金貸し出し規模も拡張した。しかし都市型生活住宅 1号と言われる『アデナ534』は分譲価格1億4900万ウォンで、周辺の相場を考え て保証金1000万ウォン、月貰70万ウォンの賃貸収益を上げられると評価されて いる。考試院の居住民は入居できないところだ。1人世帯の住居権でなく元手が ある人の賃貸収益だけを保障する政策でしかない。

考試院の居住民はホームレスという認識が必要

ホームレスは住居権の多様な問題の中でも国家に核心義務を付与する問題だ。 すなわち即刻対策を用意して国家政策で優先順位を付与すべき問題である。住 居権実現のための政策を用意するにはホームレスの定義と実態調査が重要だ。 昨年、国連社会権委員会が韓国のホームレス規模を調べたが、政府は2008年末 を基準として12328人と答えた。民間団体はホームレスの規模を173302人と推定 した。十倍以上の差が出た理由はまさにホームレスの認識の差だ。政府は街頭 の野宿者とシェルター、および施設に居住する野宿者だけを集計した。民間団 体のホームレス規模は、ホームレス支援ヨーロッパ連合(FEANTSA)が提示した、 △極度のホームレス状態にある集団(住居喪失集団)、△住居喪失の危機に処し ている集団(住居不安集団)、△適切な住居状態で排除された集団(過密住宅、劣 悪な住宅など住居排除集団)を参考に、そのうち統計を利用できる集団だけを集 計した。民間団体が集計した規模も過小評価かもしれない。

ホームレスの規模と社会経済的状況を把握するのは、住宅政策の重要な出発点 でなければならない。しかし韓国政府はホームレスの定義も用意できずにいる。 ホームレスの定義は国により違う。大慨はいくつかの要件に該当するケースを ホームレスと把握するが、その要件の一部を紹介すると次の通りだ。安全な出 入ができない場合(英国)、占有以後暴力が起きやすい場合(北アイルランド)、 過密で占有者の健康を害する場合(スコットランド)、世帯の部屋の短期賃借人 (フランス)、個人が必要とする適切な施設を利用できず一般的に住居が提供す る経済的、社会的支援が利用できない場合(オーストラリア)等。韓国なら考試 院の居住民は十分に含まれる概念だ。

非住宅調査によれば、考試院の居住民が政府に要求する住居政策は、『安い公 共賃貸住宅提供』が57.1%で最も多かった。しかし現在、公共賃貸住宅は考試院 の居住民の所得では居住が難しいばかりか、1人世帯という条件により、接近が 難しい。公共賃貸住宅ではなくても、政府は考試院の居住民が劣悪な住居環境 から抜け出せるように計画を用意しなければならない。それが都市型生活住宅 や考試院準住宅指定なら、考試院居住民の移住を支援する計画も含まなければ ならない。そしてこれ以上考試院で暮す人が出ないようにする政策を用意しな ければならないのだ。

住宅政策は住居権から出発

政府は相変らず住宅供給が住居問題を解決するという幻想に陥っている。しか し韓国住宅政策の歴史は、供給される住宅は家が必要な人のものになっていな いことを十分に見せる。住居問題の解決は、誰が住宅を必要とするのかを明ら かにしければならない。1〜2人世帯のための住宅政策なら、劣悪な住居環境で 暮す1〜2人世帯の現実を見なければならないのだ。

『準住宅』という用語は住宅の特性を強調するのに適切な用語かもしれない。 しかし今回の考試院準住宅指定は、建設事業者に低利の資金貸し出しを認め、 考試院の居住民は住居権侵害の状況に放置される政策でしかない。『住居』の 性格が反映されるべき部分では最低住居基準を放棄して、『建築物』の性格が 強い部分は国民『住宅』基金を支援する政策だからだ。もちろん今すぐ考試院 の居住民に適切な住居を提供することはできない。現在、居住施設に使われて いる考試院の改善補修は必要だ。しかしそれは徐々に、住居用に利用される考 試院を無くす方向に行かなければならない。そして低所得1人世帯の住居権を保 障するための計画と共に行かなければならない。そうでなければ考試院を選択 するほかはない人を考試院さえ選択できないようにする結果になるだけだ。

ホームレスは適切な住居費負担で居住できる住宅がないために生じる問題だ。 つまり住居費の負担が適切な水準で、占有の安定が保障される住宅を供給する ことが問題解決の方向であるべきだ。住宅供給、買入賃貸、貸し出し制度など 多様な接近ができる。ただ、どんな接近でも住居が人権だという点を明確に認 識すべきだ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2010-05-07 18:05:51 / Last modified on 2010-05-07 18:05:51 Copyright: Default

関連記事キーワード



このフォルダのファイル一覧上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について