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韓国:それでもインターネット実名制は表現の自由侵害だ
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「令状なしに個人情報収集...500万件越える」

[人権オルム]それでもインターネット実名制は表現の自由侵害だ

チャン・ヨギョン(進歩ネットワークセンター)/ 2010年03月03日9時26分

人権運動にとって憲法裁判所はどんな存在か? 人権運動は、法律を対象にする ことが多い。悪法を廃止する運動をすることがあり、法律を改善したり良い法 律を制定する運動をすることもある。私たちの現実の中で法律が最も強い社会 的規範とされ、人権を韓国社会の規範にする人権運動も法律と取り組む。

憲法裁判所は新しい法的規範を創出する点で、人権運動にとって非常に重要な 組織だ。2005年に戸主制が憲法違反と決定されて歴史の中に消え、昨年は夜間 屋外集会禁止条項に憲法不合致が決定された。このような決定を期待しながら、 人権運動の多くの主題が憲法裁判所に向かう。

憲法裁判所の決定が人権運動の希望とばかりも言えない。良心的兵役拒否は 2004年、国家保安法称賛鼓舞罪は2005年、そして指紋押捺制度は2005年に合憲 の決定があった。合憲決定の後にはその運動が萎縮するのは事実だ。最も強い 論拠が消えたためであろう。

2月25日、憲法裁判所は公職選挙法のインターネット実名制を「合憲」と決定し た。9人裁判官全員の意見ではなかったが、7:2で合憲に傾いた意見だった。情 報人権運動は今回の決定にとても失望した。なぜなら選挙運動期間の実名制に 対する今回の決定の他にも、常時的な実名制が憲法裁判所の判断を待っており、 その展望が暗くなったためだ。

インターネット実名制は、つまり国家実名制

公職選挙法のインターネット実名制は、初めて法制化された国家実名制だ。イ ンターネットが活性化し、ますます国民の政府、参与政府を問わず国家実名制 の導入を積極的に進め、2004年に「公正選挙」を名分としてついに法制化され た。この条項は、選挙運動期間中にインターネット言論社が掲示板・対話室な どに実名認証の技術的措置を義務化し、これに従わなければ1千万ウォンの過怠 金を賦課する。実名制の対象になるインターネット言論は反発し続けた。2006 年の地方選挙期間に実名制を拒否した民衆の声には過怠金が賦課され、2007年 の17代大統領選挙期間には民衆言論チャムセサンが実名制を拒否して過怠金裁 判を受けている。

インターネット実名制は拡大し続けてきた。2007年、『情報通信網利用促進お よび情報保護などに関する法律』が改正され、一日の訪問者数10万人以上のポー タル、言論、UCCサイトなどに常時的な実名制が導入された。2009年にはこの法 の施行令が改正されて、実名制の対象サイトが37から153に拡大し、今年はまた 167に増えた。現在、国会ではさらに実名制の対象を拡大するために、一日の訪 問者数10万人という制限を削除した政府の改正案が議論されている。また2009 年に改正された『インターネット住所資源に関する法律』で、国内では実名で しかインターネット・ドメイン登録ができない。

その名前がどうであれ、このようなインターネット実名制は国家実名制だ。こ こに問題の核心がある。少数者のコミュニティがヘイト・クライムを防ぐため に構成員の合意で実名確認の手続きをおくのなら、それを人権侵害とは言えな い。だが国家が一方的に国民に実名確認を強制するのは確実な人権侵害だ。

どんな名分も国家の捜査の便宜のためで、すべての国民を潜在的中傷者や犯罪 者と見なすことを正当化することはできない。それが近代市民社会以後に樹立 された人権の考え方だ。私たちが実名制に何の問題を感じることができなけれ ば、それはわれわれの社会全体の人権意識が危機に置かれていることを反証する。

査察と検閲の日常化

さらに悪い知らせは、こうして確保された掲示者の身上情報を国家が査察に使っ ているという点だ。2008年のキャンドル集会以後、政府に批判的な掲示をした 利用者の身上情報を、警察と政府が収集して共有してるという指摘が続いてき た。実際に、捜査機関がこうして収集された個人情報を令状もなく提供される 件数は年5百万件を越えた。2008年の国政監査で文化部が、政府に批判的な利用 者のID700〜800個を把握し、大統領府・大検察庁・警察庁・放送通信委員会な ど42の政府部署に渡したという事実が明らかになった。これはインターネット 実名制が査察と検閲に使われているという事実を意味する。そういう慣行が当 然視される社会はすでに監視社会だ。

憲法裁判所は、インターネット利用者が自らの判断で実名確認手順を踏んだり、 経ることなく自分の文を掲示することができるので、事前検閲禁止の原則には 背かないとした。しかし、選挙期間中すべてのインターネット言論社が実名制 を実施している状況で、利用者が実名の可否を選択する方法はない。法に明示 される通り「政党・候補者に対する支持・反対の文を掲示」することとは無関 係な表現を掲示する場合、匿名を選択できなければならないが、そんな選択権 は事実上存在しない。例えば2007年12月、差別禁止法議論が真っ最中だった時、 社会的少数者が選挙運動と無関係なこの法案への意見をインターネット言論社 に提示したくても、実名を明らかにしなければならなかった。社会的批判者や 少数者が意見を明らかにするには、身元の露出で不利益を受ける危険を押し切っ たり、意見の発表を放棄しなければならない。これが表現の自由侵害でなけれ ば何か?

はっきり言う。誰も抵抗しなければ、実名制はさらに拡大するだろう。憲法裁 判所まで合憲と決定したのだから、運動も萎縮するだろう。特に侵害当事者と いう市民の支持が弱まるという事実は、活動家にとって絶望でしかない。もう 仕方がないという自暴自棄な気持なのだろうか。さっさとサイバー亡命をすれ ばいいと考えているのだろうか。中傷者を捉えるためには、国家の監視位は容 認できると思っているのかもしれない。

しかし人権運動の規範は法の条文ではなく人権の現場から出る。人権侵害の当 事者が登場し続け、人権を要求する声があがる現場が人権運動の規範を作る。 人権運動は現実の法を越える理想を放棄できない。合憲決定後も良心的兵役拒 否運動は続き、国家保安法廃止主張も国内外で終わらない。指紋押捺拒否運動 も青少年運動の中で続いている。

オンライン空間で被害を表わす

インターネット実名制の未来もここにかかっている。当事者の存在を表わすこ と。被害を表わすこと。事実、私はサイバー亡命で実際に国家権力から逃げら れるとは考えない。だがあなたが実践としてサイバー亡命を選択するのなら支 持する。ただしあなたの選択を示さなければならない。インターネット実名制 を拒否する、インターネット実名制は表現の自由侵害だと、必ず後書きを付け てくれることを願う。それがインターネット実名制を廃止するところだ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2010-03-07 03:56:50 / Last modified on 2010-03-07 03:56:51 Copyright: Default

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