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韓国:パンドラの箱、非正規悪法
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政府と使用者が開いたパンドラの箱、非正規悪法

[非正規法粉砕!廃棄!](1) -つぎはぎを捨てて作り直せ

オ・ミンギュ(全非連)/ 2007年06月05日14時06分

最近、ある大企業の非正規職労働者で構成された労働組合が7月1日の非正規法 施行を前に使用側と実務委員会を持った席で非正規職雇用安定を要求したとこ ろ、使用側の回答はこうだったという。

「7月1日に非正規法施行されると、2年ほど時間があるので状況をみて判断し た後、業務を改編(再編)して無期契約にする職群、2年ごとに交替使用する職 群、外注(委託)する職群などを決めるつもりだ。ただし差別禁止条項は7月1日 からすぐ施行されるので、それに対しては6月中旬頃に各種の準則と規定を改 正して(労組の同意を求めず一方的に)施行する予定だ。」

いわゆる『非正規職保護法』と命名されたこの法案が施行されると現場がどう 変わるのか、上の回答にすべて入っているといっても言い過ぎでない。経済人 総連の指針を忠実に教育された大企業の人事労務管理担当者による上の回答を よく読めば、非正規法が何かを理解できる。

チャムセサン資料写真

正規職化はない

「2年ほど時間があるから」 -つまり使用者は2年を限度に非正規職を『何の理 由もなく』自由に使える。「今でも非正規職を自由に使っているのにこれはど ういうこと?」すぐには理解し難いこの言葉は、逆に考えれば簡単だ。2年にな らないうちに非正規職を解雇しても不当解雇ではないという意味だ。経済人総 連が「非正規職使用期間制限条項を2年収拾期間として活用しろ」と指針を下 したのもこういう脈絡だ。

では2年の限度を越えると正規職になるのか? 答は『ダメ』。上で大企業の担 当者が話した答は「状況をみて判断した後、業務を改編(再編)して」次の三つ を選択するという。

1.無期契約に転換:難しい単語が初めて登場した。無期契約、すなわち期間の 定めがない勤労契約に転換するということだ。今政府とマスコミは、まるでこ れが『正規職化』だと言っているが、結論から言えば無期契約転換は正規職化 ではない。これは後にまた説明する。

2.2年ごとに交替使用:遠回しの表現だが、簡単に言えば2年になる前に全員解 雇した後、新しく非正規職を採用するということだ。すでに法が施行される前 に、長く勤めている非正規職労働者が集団解雇されている状況でないか?

3.外注(委託)化:これも解雇ということだが、解雇した後に該当業務を外注業 者(請け負い業者)にやらせるということだ。今この文を書いている瞬間にも ニューコア江南店・野塔店では非正規職レジ係全員を解雇して委託を強制的に 処理しようとしている。委託されれば賃金カットは当たり前、何の前触れもな く人員整理の対象になって解雇されていくことになる。

「無期契約≠正規職」

まとめれば、正規職化はない。2年ごとに解雇されたり請け負いに追い出され たり、運が良ければ無期契約に転換されるのだが、無期契約とは何だろうか?

本来『正規職』という言葉は法律用語ではない。非正規職法が世の中に出てく るまでは『正規職』という言葉をあえて法律用語で表現すれば『期間の定めが ない労働者』、つまり無期契約労働者と書くほかはなかった。しかし非正規職 法が世の中に出てきた後、無期契約と正規職は同意語ではなくなった。

非正規法施行に先立ち、まず公共部門でシミュレーションする目的で推進され ている『公共部門非正規職総合対策』と関連して、政府が作った「無期契約お よび期間制勤労者など人事管理標準案」という文書を読めば、無期契約転換が 何かが赤裸々に書かれている。

この文書によれば、『無期契約』が正規職ではないことを明らかにしており、 「標準案」が提示する『標準勤労契約書』には『解雇理由に関する事項』が明 示されている。ここには「勤務実績評価の結果、引続き2回以上最下位の評定 点を受けた場合は再契約をしないか勤労契約期間中でも解雇できる」という条 項がある。つまり『無期契約』は正規職ではないばかりか、毎年勤務実績を評 価され、契約を更新される非正規職労働者である。

賃金に関しても「公共機関無期契約および期間制勤労者などの賃金は類似・同 種の市場賃金水準を考慮して」決められる。これは政府が強行通過させた非正 規法の『正規職と非正規職間差別是正』という原則さえ破るものだ。無期契約 および期間制労働者の賃金は、非正規悪法にてらしても類似・同種の正規職賃 金に合わせることになっているが、市場賃金を反映して決めるということだ。

差別是正は可能か?

正規職と非正規職の差別を是正するという名分の『差別是正制度』が7月1日か ら施行される予定だが、実際にはこの制度そのものにほとんど実効性がないと いう点は施行以前から言われてきた。その理由は、

まず差別是正申請は労働委員会に当事者がすることになっているが(例えば労 働組合は申請できない)、差別是正申請をするとすぐ使用者側に身分が露出す るため事実上解雇される覚悟をしなければ申請ができないという点だ。

二番目、差別是正が命令されても使用者はこれを是正するより最終審の大法院 まで行くのはほとんど確実だ。すなわち、地労委→中労委→行政法院→高等法 院→大法院まで『5審制』になるので、短けくて5年、長ければ10年かかる訴訟 期間中に、高額な労務士/弁護士受託料を払いながら非正規労働者が耐えるこ とはできないという点だ。

三つ目、差別行為そのものへの刑事処罰は全くなく、ただ中央労働委差別是正 命令に使用者が従わない場合だけ -それも刑事処罰でない- 過怠金が賦課され る。この程度の軽い処罰を恐れて差別を是正する使用者は殆どいないといって も言い過ぎでない。

四つ目、直接雇用された非正規職労働者(期間制・短時間労働者)でなければな らず、また比較可能な正規職労働者がいなければならない。言い換えると、現 代自動車で左側の車輪は正規職、右側の車輪は非正規職が組み立てるなど、誰 が見ても完全に同じ作業をしている場合でも、『下請け』労働者なのでそもそ も差別是正申請ができない。つまり、非正規職全体の半分に当たる『間接雇用 非正規職』と『特殊雇用非正規職』にはそもそも適用されないということだ。

非正規法施行令公聴会では非正規職労働者たちの強い抗議が続いた。/チャムセサン資料写真

途方もない規模の転換配置と解約

『差別是正制度』、本当にいい制度のように聞こえるが、盧武鉉政府と使用者 が一度タッチすると完全に違った種類の現実になる。また大企業担当者の言葉 に戻ろう。

「差別禁止条項は7月1日から直ちに施行されるので、各種準則と規定を6月中 旬頃に改正して施行」 -明らかに差別を是正するという言葉はないが、ここに は抜けている言葉が一つあるためだ。「差別是正を回避するために正規職/非 正規職の業務を分離する」という言葉である。事実はその話をしないのではな い。「状況をみながら判断した後、業務を改編(再編)して」という言葉の中に その意味が入っているためだ。もし正規職と非正規職が類似の業務を遂行して いるのなら、転換配置によって業務を分離する。どうしても分離できなければ 非正規職の業務を外注(委託)してしまう。これも難しければ解約…荷物をまと めて送りだす。

つまり、「差別是正制度」とは、使用者に正規職との差別を是正しろという意 味ではなく、差別是正を回避するために正規職-非正規職労働者全体を強制的に 転換配置したりアウトソーシングまたは解約をしろということに完全に変わっ てしまったのだ!

昨年、非正規職法が国会で強行通過する前の2006年初めに、韓国経営者総協会 (経済人総連)が会員にアンケート調査をした結果、会員の11%だけが2年の期 間が経過した後に『正規職に転換する』という態度を示した。すなわち90%に 達する企業は2年になる前に非正規職を切るということだ。

今年の5月14日、SBSのラジオ番組に出演した李相洙(イ・サンス)長官は「私た ちが2月に韓国リサーチを通じて調べた結果、企業の40%ほどが期間制勤労者を 正規職に転換するという回答が出てきた」とし「非正規職法が雇用安定と差別 の解消に役立つと信じる」と誇らしく話した。

あきれた言葉である。李相洙長官が話した世論調査の信憑性も疑わしいが、ア ンケート調査が正しく進められたとしても何と60%に達する企業が非正規職を 解雇するということだ。非正規法で60%の企業が非正規職を解雇するのに、 「雇用安定と差別解消の助けになる」という李相洙長官の精神状態はまともな のだろうか?

非正規法が途方もない規模の解約につながり、外注(委託)をあおりるという主 張は、最近の労働部の統計資料でもわかる。5月末に労働部が発表した非正規 職労働者の規模によると、派遣職・外注職・特殊雇用職・臨時(短期)労働者が 大幅に増加した反面、唯一期間制労働者だけが10万8千名(全体261万4千名)も 減った。

期間制労働者だけが減った理由は何だろうか? すべてが正規職化されたためだ ろうか? そうではない。最近、非正規労働者を正規職に転換したという報道を 聞いたことは全くない。もしそのような事例があったとすれば、労働部と報道 機関がいっせいにトップニュースで報道しただろう。

非正規職法が施行される前に途方もない規模の期間制労働者が解約され、派遣・ 外注・特殊雇用・日雇い労働者に転換されたのだ。各企業では期間制労働者が 担当していた業務の外注化の真っ最中だ。それで外注・派遣職などは増え、 期間制労働者は減ったのだ。

非正規法施行令、非正規職をさらに量産

5月17日、労働部は4月19日に立法予告した非正規法施行令をさらに改悪した施 行令を確定し、発表した。まず派遣許容業種をこれまでの138業務から4月19日 の立法予告時には187に増やしたことに続き、コールセンター、配達・宅配・ ガス検針、駐車場管理など10業務が追加され、勤労者派遣は計197業務に拡大 された。また立法予告時には弁護士、医師、弁理士などの16の専門職従事者と 発表したが、追加で航空機操縦士、漢方薬調剤士など10の専門職従事者も2年 を超えて期間制として使用(いわゆる『期間制特例』)できるように改悪された。

また労働部が昨日改悪案を発表するにあたり出した報道資料を読むと、今後、 派遣許容対象を継続的に拡張し、製造業にも拡大する意図を露骨に明らかにし ている。報道資料の冒頭で労働部は「製造関連性業務は継続派遣禁止」という 文句を強調したが、これは逆に今後は派遣対象を製造業にまで拡大するという 本心を見せる。昨日のブリーフィングを行ったキム・ソンジュン労働部次官は 「今後労使と関係専門家の意見をまとめて、派遣に関する中長期的な計画を用 意する」と明らかにしたのも、やはりそのような意味だと解説される。

その上、キム・ソンジュン次官は当初の政府立法発議案がネガティブ・システ ムだったのに、国会での議論の過程でポジティブ・システムに変わり、今回は 派遣対象をうまく拡大できなかったとまで、ためらいなく吐き出した! 派遣の 対象を今後も絶えず拡大するということだ。

母法である非正規法そのものが非正規職への強制転換配置・解約・外注(委託) をあおるのに、施行令は母法によりさらに非正規職を拡大・量産する。事実、 母法が非正規職拡大・量産のために設計されているため、施行令がこうなった のは必然的な現象でもある。

さらに大きな問題は、これから一度国務会議さえ通れば施行令が変わるため、 派遣対象と期間制例外業種が無制限に拡大するという事実であり、その対象は 明確だ。正規職労働者の業務全般を非正規職化する方向で進められることに違 いない。

つぎはぎはではだめだ、一度捨てて新しく作り直せ!

韓国経営者総協会が1月中旬に「2年後正規職化」を回避する方法など、非正規 法案の弱点と対応方案を含む公式パンフレットを製作、配布した事実が後になっ て確認され、民主労総をはじめ多くの社会団体が「経済人総連は卑怯にも非正 規法の弱点を流布している」と非難した。

しかし『弱点』という言葉は、問題の核心を正しく指摘する言葉ではない。 「政府の非正規法は本来非正規職を保護するはずなのに、経済人総連が法案の 弱点を巧妙に発見した」のではないということだ。専門家でなくても上に指摘 された非正規法の問題を指摘できるほど、政府の非正規法は『弱点で埋め尽く された法』だ。いくつかの弱点を埋めるために制度を改善しても良くならない ということだ。

経済人総連が指摘したガイドラインの内容全体は、事実「非正規法が通過すれ ば、使用者はこうして非正規職を量産して弾圧する」と2年前から労働運動陣 営が各種の声明と資料で主張してきたことだ。彼らが新しく発見したものはな い。笑い話を付け加えると、おそらく経済人総連は20〜30億以上の金をかけて プロジェクトを依頼したのだろうが、その金は全て非正規運動団体が受け取る べきだ。率直に言って、最近は非正規法による破局的な効果についての文を書 くことが怖い。文を書くにしたがって、経済人総連と使用者団体が全てそれを 書き写し、非正規職拡大・量産政策を作り出しているためだ。

経済人総連はこのパンフレットが問題になると、「法を正確に理解するという 次元で」このようなガイドラインを提示したと釈明した。だが、これは企業主 と使用者の立場を率直に語るものだ。そのとおり! 非正規職法案は「2年後の 正規職化」ではなく、「2年で使い捨て」という指針であり、いくつかの『不 合理な』差別を是正するという美名の下で、数百種類もの分離職群制のような 『法の網を避ける差別』を作り出せという教科書であった! 逆説的に聞こえる かもしれないが、経済人総連は政府非正規法をとても正確に理解していたのだ!

非正規職法=パンドラの箱

では、われわれは何をするべきか?

非正規職法案完全廃棄! もちろん1、2か月中に、今年中にできることではない が、われわれはつぎはぎのような法案の毒素条項のいくつかをなくして改正す るのではなく、法案をなくそうという明らかな観点と姿勢を持って対応しなけ ればならない。法案廃棄という明らかな観点を持つことで、豊富な戦術を、時 には柔軟に、時には攻撃的に駆使できるのではないだろうか!

7月1日から施行される非正規職法に対して盧武鉉政府は『差別と雇用不安をな くす万病薬』と宣伝する。だが、この法があらゆる災害を産む『パンドラの箱』 であることは明確に表れている。すでに現場は、解雇、不利益、アウトソーシ ング・委託外注化など、戦場だ。

しかし非正規悪法が開いた『パンドラの箱』の中には、小さな希望の火種もま た入っている。集団解雇、委託外注化という資本の攻撃の前に非正規労働者が 自らを組織して、闘争に立ち上がっているという事実だ。

これもまた逆説だが、非正規悪法は多くの非正規労働者を労働組合に組織する 媒介になるだろう。もうこれ以上<法では自分の権利が守れなくなることを自 覚した非正規労働者たちが、最後の希望として労働組合を選択しているためだ。 非正規法が『悪法』だという事実は、ここでも再度立証される。

一人ずつ組織化し、突き抜けて上がってくる非正規職大衆の動きは、単に集会 や闘争隊伍に何人かの頭数を補う程度ではなく、民主労組運動全体にとって 『本当に新しい活力』だ。彼らの活力が揺らぐ原則を正し、非正規悪法廃棄と いう機関車に絶え間ない燃料になってくれるだろう。組織された期間制労働者 の数は多くはないが、政府の非正規法の効果は破局そのものなので、期間制労 働者は戦い、抵抗しながら労働組合に団結するのは確実だ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンス:営利利用不可・改変許容仮訳)に従います。


Created byStaff. Created on 2007-06-07 05:21:47 / Last modified on 2007-06-07 05:21:49 Copyright: Default

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