本文の先頭へ
韓国:あまりに多くを殺した社会、鎮魂の映画〈チスル〉
Home 検索
  1. 3、5.18とアカ、暴徒

    [寄稿]あまりに多くを殺した社会、鎮魂の映画〈チスル〉

    クォン・ヨンスク(ソウル大社会科学研究院) 2013.05.20 17:00

王家衛監督は音楽を本当にわかっている監督だ。映画を会話的というよりも、 音楽的に作る監督。その点でデービッド・リンチと比肩される。ところでデー ビッド・リンチの映画は音楽的だが、また会話的だ。韓国の映画、「チスル」 もそうだ。私は4.3抗争についての映画だということ以外に、この点でこの映画 に注目した。映画を作る、あるいは見る面白さとは、とにかく他のジャンルを 自由自在に行き来し、繋ぐことができる点だろう。しかしもちろん、それがで きるような技芸と教養を備えた監督、さらにそれを映画というジャンルの中で 解きほぐせる監督は映画の世界ではめずらしい。いや、とてもめずらしい。 映画という前に、文化的な蓄積がなければ、いや文化的蓄積よりも文化的な 「勘」がなければ難しい。映画でも会話でも音楽でも、それらすべてを貫く、 あるいは似たようにする独特の「勘」。人によって、その「勘」は少しずつ 違うというのが私の考えだ。しょうがない。

この点で映画〈チスル〉のオ・ミョル監督は、ひとまずその「勘」を持ってい るようだ。映画〈チスル〉は韓国映画としては非常に新しく、とても珍しい 会話的な映画だ。だがそれだけではない。この映画は音楽的だ。この言葉は、 逆に韓国の映画はとても散文的だということだ。つまり韓国映画はとても話が 多い、いやすべてを言葉で語ろうとする、あるいは言葉の構造で全てを導く。 言葉とプロットがすべてを支配する。だが映画は言葉だけではなく、他にも 多くの装置がある、音楽、場面(ミザンセーヌ)、そして振りつけと会話...

映画〈チスル〉は、多くの人々が指摘するように絵画的だ。それも西洋画では なく、東洋の水墨画のようだ。長所だ。サンダンス映画祭で審査委員の目を引 いただろう。だが私が一番高く評価したいのは、この映画が多弁ではない点だ。 最大限に言葉を惜しみ、話の構造(story telling)に依存しなくても、この映画 は多くの言葉を投げる。頭ががんがんするほど騒々しく重たい言葉を投げる。 われわれは画面を見て、停止した画面、場面、自制された声を通じて生まれる 内面の声を聞くようになる。そしてその上、その声の正体を探して、頭が痛く なるほど考えさせる。ブレヒト式のとても深刻な「異化効果」を生むこの装置 をオ・ミョル監督は作り出した、それも全く押し付けがましくなく、アマチュ アリズムを抜け出して洗練されたように。

その点で、映画〈チスル〉は映画としても見るに値する。単に4.3抗争を描いた だけではない。むしろ4.3抗争は、こうした方式の映画的な装置によってはるか に高い完成に至った。つまり性急にそのまま伝え、歴史を絞り出して強要する のではなく、ひそかに叫ぶそれらの死が、魂を招くような抑えた映画の中で生 き返る。強く印象付けられる。言葉よりもさらに重い力で。だからまた、反対 に映画は語ろうとすることを語る。つまり、映画は単に映画としてのみ観るべ きものではなく、4.3抗争を私たちに伝えるにあたって、どんな文章より、論文 より、さらに、詩より効果的だ。

映画〈チスル〉は、そのように映画としても、4.3抗争を描いた映画としても、 秀作だ。みんなに薦めたい。単に見るだけではなく、聞いて、読むことを望む、 そんな映画〈チスル〉。

そして、自分の頭の中を騒がせたその声なき叫びを呼び出し、今こそ彼らを 「鎮魂」しよう。映画は事実「鎮魂」を提案する構造を持ってきたが、映画の 最初ですでに全てが語られている。すなわち彼らの魂はまだ鎮魂されていない ということを。彼らの祭事が軍靴に踏まれて砕ける一番最初の場面、しかも、 最後の「余地」を経るとみられる彼らの祭事上の姿. 結局、映画の終わりでま た一番最初の画面を思い出すと、彼ら済州の人々は相変らず鎮魂を待っている のだ。映画は最初の場面と一番終わりの場面をつなぎ、私たちに立ち上がるこ とを要求する。映画で終わりではないという事実を、まさに映画を見た私たち が済州道で死んだ人々の「鎮魂」の責任者であることを。さて、何をするべき だろうか。

光州抗争の余韻が濃厚な今、ふと映画〈チスル〉を思い出した。韓国社会は 「鎮魂」を望んでいる。いや、あまりに多くの命を殺した。韓国社会は「鎮魂」 にはまだはるかに遠い。まず「招魂」をしなければならない。魂を呼び出せ!

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2013-05-21 11:36:21 / Last modified on 2013-05-21 11:36:22 Copyright: Default

関連記事キーワード



世界のニュース | 韓国のニュース | 上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について