〔週刊 本の発見〕『ゲリラガーデニング』ー境界なき庭づくりのためのハンドブック | |||||||
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毎木曜掲載・第373回(2025/1/9) 公共の土地に木を植え花を育てよう『ゲリラガーデニング』—境界なき庭づくりのためのハンドブック―(リチャード・レイノルズ著、甘糟智子訳、現代書館、2024年8月)評者:根岸恵子著者のリチャード・レイノルズは2004年に自宅であるロンドンの公団「ペロネット・ハウス」の花壇に花を植えることでゲリラガーデニングを始めた。彼のささやかな運動は世界中のゲリラガーデナーとのつながりをつくり、この本は彼らの経験をもとに、その定義から実践についてまで述べられたものである。 ゲリラというのはスペイン語で小さな戦争を意味すると本書にある。ゲリラたちはそれぞれの動機で自分の闘いを遂行し、自らが指揮官で兵士である。わずらわしい官僚主義や命令系統に束縛されないゲリラは、自由に自らの大義に従って動く。ではゲリラガ―デナーとは、「誰かの土地に勝手に庭をつくる」人である。そしてそれを邪魔する人がいれば闘うのである。 この発想は新しいものではなく1649年にイギリスのサリー州セント・ジョージの丘で「ディガーズ(掘り耕す人々)」と呼ばれた一団を率いたジェラード・ウィンチェスターの運動にも見て取れる。彼は貧しい人のために公共の土地を耕し畑にしようとしたが、権力によって破壊されてしまった。ウィンチェスターの言葉に「この土地に生まれるすべての者は・・・彼らを生んだ母なる大地によって養われるべきである」とある。この考え方は北米の先住民のマザーアースの思想に通じる。また、破綻したデトロイト市で人々がしたことは公共の地に食べ物の種を植えることだった。 ドキュメンタリー映画「都市を耕す エディブルシティー」(2014年アメリカ/写真下)は、サンフランシスコ市で公共の土地を耕す話であり、彼らがいかにそれを楽しんでやっているかが描かれている。植物には人間の心を癒し楽しませる効果があり、畑は命を養う。人は本能的に土を耕す生き物なのではないか。 東京の公園や河川敷で野宿の仲間とともに野菜や花を育てている。ハーブを植え花を植え野菜を育てる。日よけにイチジクの木を植えたら、あっという間に大きくなった。役所の人間がたまにきて「畑は止めてください」というが、私たちには生きる権利がある。 このゲリラガーデニングを読んで、ゲリラガーデナーの仲間が世界中にいることを知った。私たちは一人じゃない、同じ戦士が世界中にいると思ったら、私たちがやっているゲリラガーデニングもまた元気が出るし、勇気も湧いてくる。 日本の都市公園は構造改革によって民営化され、第2次安倍内閣のもと、ローカルアベノミクスとしての地方創生、都市再生を題目に、公園の縮小と活用が各自治体の目標となった。そして公園は「稼げる」公園づくりが促進されることになった。全国の都市公園は再整備され、建物が建設される一方で、敷地を確保するため樹木が伐採されている。有名なところでは神宮外苑の再開発だが、これによって約700本の木が切られるという。また渋谷の美竹公園のようにビル化されるところもある。 公園という公共空間は自治体によって企業に貸し出され金を稼ぐ空間となり、企業による公園づくりが推進され人々を追い出した。公園は人が憩う場所でも集う場所でもなくなり、商業施設などの複合施設の中にわずかな人工的な冷たいベンチとみすぼらしい低木が設置されているだけのものになりつつある。 くまもり協会だったか、熊を森へ帰そうという運動がある。ドングリを集めて森にばら撒くのだ。明治以降、日本の森林政策で山は金になる針葉樹林へと換えられた。本来、落葉樹で覆われた日本の森林は多様な生命を育んできた。今や山は手入れをする人もなく荒れ放題だ。針葉樹は根が深く張らないために大雨が降ると土砂崩れを起こす。薄暗い森には何も育たない。その山に実のなる木を育て豊かな生態系を取り戻そう、そして動物たちを山に呼び戻そうという運動だ。ならば都会に住む私たちは、都市計画によって破壊されていく公園や公共の土地に木を植え花を育てよう。そして食べるものを自分たちで植えるための畑をつくろう。もっとも簡単なゲリラガーデニングは、種を蒔いて回ることだ。公共の土地は本来私たちの土地なのだから。 Created by staff01. Last modified on 2025-01-09 23:35:08 Copyright: Default |