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投稿 : 米ウクライナ会談に思う/ハゲタカ・トランプ
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投稿者:吉原 真次

米ウクライナ会談に思う/ハゲタカ・トランプ

 2月28日にホワイトハウスで行われたウクライナのウォディミル・ゼレンスキー大統領とドナルド・トランプ米大統領との会談は激しい口論の末に決裂、予定されていたウクライナの希少資源に関する協定への署名や共同記者会見は中止された。会談の決裂はソ連崩壊後に「自由」や「対テロ」を掲げて行ってきた米国主導の戦争の目的、さらに世界帝国アメリカの終焉の始まりを明らかにした。

 トランプは2月10日のインタビューでウクライナに対する支援の見返りとして5000億ドル(約74兆6600億円)分のレアアース(希土類)を要求、12日にウクライナを訪問したベンセント米財務長官はゼレンスキーとの会談で、ウクライナが将来的に自国の鉱物資源の権益の5割を米国に与える協定と米国の基金により管理される再投資協定への調印を指示した。ゼレンスキーは米国による安全保障の関与が協定に盛り込まれていないとして署名を見送ったが、これは自国の利益さえ獲得できればウクライナがどうなろうとかまわないとする米国の本性を表すもので、ウクライナ戦争の目的は米国が掲げる「法による支配の確立」や「力による現状変更の阻止」ではなく金銭目的であることを明らかにした。ウクライナ戦争はソ連崩壊の一因となったアフガン戦争と同様にウクライナにNATO(北大西洋条約機構)の代理戦争を行わせ、ロシアをプーチン政権前の弱い国に戻すと共にウクライナの天然資源を獲得するために巧妙に計画されたものだ。

 米国の強欲さが明らかになった。英紙『テレグラフ』はバイデン前政権で議会が承認した5回にわたるウクライナ支援金額の合計を1750億ドル(約26兆3000億円)と報じ、ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」の集計は米国の供出額を1141,5億ユーロとしている。ユーロをドルの1、1倍として計算すると約1255、6億ドルになるが、どちらもトランプが要求する5000億ドルとは大きなへだたりがある。トランプは支援の2倍以上、多く見積もれば4倍近くになる金をウクライナからむしり取ろうとしている。

 ベンセントが指示した鉱物資源協定と再投資協定はさらに悪質なものだ。ウクライナには電気自動車のバッテリーに使われるリチウムの他に、イットリウム、ネオジム、ランタン、セリウム等のレアアース、航空宇宙産業や防衛産業で使用される高強度のチタンといった重要鉱物資源が眠っている。その埋蔵量は12兆億ドルに相当し、さらに石炭、石油、ガス等の天然資源を含めると26兆ドルとなるが米国はその半分をよこせと言っているのだ。再投資協定は天然資源だけでなくウクライナの港湾等のインフラ(社会基盤)から生じる利益の50%を米国に譲り、収益の管理を米国の基金に任せることを求めている。基金が米国に都合よく利用されてウクライナに僅かな利益しかもたらさないこと、副大統領時代のバイデンが息子をウクライナ最大のガス会社の取締役に就任させ、その会社が脱税等の不正疑惑の捜査対象になった際に検事総長の解任を要求したように、トランプも基金の重役に身内や側近を就任させるに違いない。またレアアースを獲得することで世界のレアアース採掘能力の70%、加工能力の90%を支配する中国に対抗することもできる。

 米国のウクライナ支援の実に約70%が米国内又は米軍にもたらされたことが、米保守系シンクタンク(頭脳集団)「アメリカン・エンタープライズ研究所」が2024年5月に発表した調査で明らかになった。今年3月10日に公表されたスウェーデンの「ストックホルム国際平和研究所」の報告書によれば、2020年から24年のウクライナの武器輸入量は2014年から19年の100倍近くになっているが、その輸入元の45%は米国でこれに欧州諸国がウクライナに与えた米国製兵器を加えれば米国は巨額の利益を手に入れたことになる。

 2月時点のウクライナ兵士の死者は4万6000人、民間人の死者1万2654人、行方不明者は6万2948人、1万9500人以上の子供が家族や保護者の同意なしにロシアに連行された。国内避難民は約370万人、国外避難民は約690万人、3月時点の住宅被害は約200万件とウクライナは満身創痍の状態にある。ロシア侵攻後にゼレンスキーは「NATOに騙された」と言ったが、ウクライナの窮状を利用して支援を大きく上回る金を回収するだけではあきたらず、ウクライナの全てを奪おうと画策するトランプは瀕死の動物にむらがるハゲタカ、低いけれど支援に金利を付けた欧州諸国はハゲタカのおこぼれをついばむカラスだ。これまで欧州諸国がウクライナの人々の生活を守る規制を撤廃させたように、返済の条件としてさらなる規制撤廃を要求しウクライナの人的・自然資源を奪い取ろうとすることは明白、105,3億ユーロの支援を行った日本もその尻馬に乗ろうとするだろう。

 米国とウクライナの首脳会談の決裂は世界帝国アメリカの終焉の始まりを明らかにした。米国はウクライナ支援総額の49%に相当する支援を供出しロシアに経済制裁を科したがロシアは経済制裁によって自国の産業を復活させ、2014年以来、制裁に備えた独自の金融システムを作ってきた。むしろロシアによる天然ガス供給カットにより深く傷ついたのはドイツなどの欧州で、米国が主導し欧州に金を出させて戦争を起こす仕組みはほころびを見せ始めている。

 ウクライナ戦争はロシアが悪い。しかし保身のために心にもない他国の「善意」をあてにして平和への道を閉ざしたゼレンスキーは大きな誤りを犯した。そしてそのツケを払わされているのはウクライナ国民だ。(3月11日)


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