
「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合・東海」の小野です。
(1)「ウィシュマさん名古屋入管死亡事件」第16回口頭弁論(2025年2月
5日・名古屋地裁)
4年前の2021年3月6
日に「名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)」施設収容中に、飢餓状態にもかかわらず
、点滴や入院などの手当てもされずに亡くなったスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダ
マリさん(33歳)
の遺族が、国を相手取り約1億5000万円の損害賠償を求めている「ウイシュマさん
名古屋入管死亡事件」裁判の第16回口頭弁論が2025年2月5
日(水曜)、名古屋地裁で開かれました。法廷傍聴は約70名でした。名古屋テレビ(メー
テレ)ほか報道機関の取材がありました。
今回の法廷では、被告・国側の女性の代理人が途中で居眠りをする姿もあり、被告・国側
の、「ウィシュマさん名古屋入管死亡事件」の責任がないという準備書面や弁論などに表
れている、この裁判に対する国の姿勢が露わになっていました。
第16回口頭弁論の
初めに、空野弁護団長の「弁論」(後述)が行われ、その後、法廷で初めて
、ウィシュマさんの妹で原告のワヨミさんとポールニマさんの二人が、「原告意見陳述」
として、ウィシュマ・サンダマリさんのお母さん、デヴァ・スリヤラタさんのメッセージ
を読み上げました。デヴァさんは娘のウィシュマが亡くなってからも、ひとりスリランカ
で生活をされています。
ウィシュマさんの
妹さん二人から、裁判の報告を受けてウィシュマさんの死を今も悲しみ、苦しんでいると
いう。ポール後半部分を読み上げていたポールニマさんは、途中、込み上げてくる想いで
言葉を詰まらせながら、それでも、途切れながらも、最後までお母さんのメッセージを読
み終わりました。以下、お母さんのメッセージ(日本語訳・一部割愛)です。
(2)ウィシュマ・サンダマリさんのお母さんのメッセージ(日本語訳・一部割愛)
◆「ウィシュマ、私の娘が亡くなって、もうすぐ4
年です。毎日、娘のことを思い出して、言葉で表せないほど大きな悲しみに、今日も苦
しみ続けています。ここまで、私たちを励まして下さった日本の皆さまに感謝します。け
れども、娘の命は二度と戻りません。
ウィシュマは、愛する夫との間に最初に授かった、かけがえのない娘でした。光り輝くよ
うな娘でした。美容師だった(今は亡き)夫は、自宅のそばに美容院を建てました。ウィ
シュマは、勉強も大好きで、とても賢い娘に育ちました。大学にも行きました。(中略)
心優しいウィシュマは、自宅の庭も子どもたちに開放して、子どもたちに勉強を教えてい
ました。
街に買い物に行くと、ウィシュマの生徒さんたちが駆け寄って来て、身をかがめてひざま
ずき、生徒の先生に対する尊敬と感謝を込めた挨拶をウィシュマにしました。そのたびに
、ウィシュマの横で、母親の私がどんなに誇らしい気持ちになったか、お分かりになりま
すでしょうか。「この子は、私の娘なんですよ」と大きな声で言いたかった。
ウィシュマは、ほんとうに自慢の娘でした。(中略)その娘が日本で英語の先生になるた
めに、日本に留学したいと言ってきたとき、強く反対しました。でも、私はウィシュマの
強い気持ちに最後まで反対できませんでした。日本語の辞書をボロボロにするまで勉強し
て、「日本は安全で素晴らしい国なの!」と、目を輝かせて話す夢を二度までもつぶした
くなかったのです。私は、家を担保にしてお金を借り、留学費用を作って、ウィシュマを
日本に送り出しました。他の娘たちと一緒に空港で旅立つウィシュマを見送った日、ウィ
シュマの乗った飛行機を見ながら、私は一心に、ウィシュマの無事と健康を祈りました。
その時、まさか、ウィシュマが、日本で、ここまで酷い拷問を受けることになるとは想像
もしませんでした」。(ここまで、ワヨミさんが代読、この後はポールニマさんが代読)
◆「娘の苦しむ姿を映したビデオの全部(255
時間分)を遺族に引き取らせていただくこと、それが、私の強い願いです。日本の入管は
、なぜ、今日まで、ウィシュマの姿を映した映像うち、全体の98%
を遺族に渡さないのでしょうか。日本の入管は、私たちが、豊かでないスリランカの人
間だから、あるいは、女性ばかり(私と娘二人)の家族だから、ビデオを渡さなくても構
わないとお考えなのでしょうか。
私は知っています。母親に娘の映像を渡せない理由は、ただ一つです。そのビデオに『ど
うしても隠さなくてはならないもの』、つまり、とても見るに耐えられない恐ろしい虐待
と過ちが写っているからです。ビデオを家族に渡してしまえば、日本中の人が、世界中の
人が、真実を知ってしまいます。平和で安全であると世界で信じられてきた日本で、入管
が実は、人間に対して、どれだけ残酷なことをしてきたか、入管が隠しておきたい悪事と
恥を、日本社会と国際社会に知らせることになるでしょう」。
◇(中略)「ウィシュマは、
日本でルール違反を犯しました。そのことを母親として申し訳なく思います。しかし、日
本の入管は、在留期限を過ぎて滞在した娘に対して、どんな罪人にも決して与えてはいけ
ない虐待を与えることで、限界まで追い詰め、ついに命を奪いました。留学先で勉強を怠
り、恐ろしい男性に振り回されてしまったウィシュマと、もしも生きて再会できていたな
らば、私は真っ先にウィシュマをきつく叱ったでしょう。
きつく叱って、ウィシュマを泣かせてしまったかもしれません。でも絶対に、その後、私
はウィシュマを力いっぱい抱きしめて『一緒に人生を立て直していこう、もう一度がんば
って一緒に生きていこう。バカな娘だけれども、お前は私とお父さんの宝物、大切なウィ
シュマなんだから』と言ってウィシュマを許し、死ぬまでウィシュマを支えたでしょう。
日本の入管は、ウィシュマの命を奪うことで私が母親としてウィシュマの過ちを精いっぱ
い叱り、その後でウィシュマを抱きしめる機会を永遠に奪いました」。
◆「裁判官にお願いします。どうか入管の責任を認める判決を書いてください。体と心の
すべてが張り裂けそうな思いで、今日も明日も我が子の死を悲しみ続けなければならない
母親が私で最後になりますように、私がいま感じているこんな思いを、もう絶対に、誰に
もしてほしくないのです」
(3)遺族・原告、医療不提供に関する主張を整理した第17準備書面を提出し、医
師・入管職員らによる7つの義務違反を指摘
前回、大竹敬人裁判長が示した「大枠の争点」に沿い、原告側が医療不提供に関する主張
を整理した第17
準備書面を提出した。これまでの主張のまとめであり、ウィシュマさんが体調不良を訴え
始め、亡くなるまでの間に誰が、どの時点で、どのような行為をするべきだったかなどに
ついて整理してある。例えば、入管収容が
5カ月を越えていた2021年1月28日、ウィシュマさんを診察した名古屋入管の庁内医師(当
時、非常勤)は、2
日前にウィシュマさんの尿検査で飢餓状態を示す「ケトン体+」の結果が出ていたにもか
かわらず、その後の水分摂取量や食事摂取量、排尿や排便に関する情報を正確に記録し、
報告するよう看護師や看守に指示をしなかった。この診察以降もウィシュマさんは嘔吐や
吐血を繰り返し、自力歩行もできない状態だったが、
2月4
日に診察した同じ庁内医師は、血液検査や点滴による栄養補給・補水を看護師に指示しな
かった。一方で、看護師や看守らはしびれや意識障害などウィシュマさんの異常な臨床症
状を医師や入管上層部に報告すべきであったのにせず、
3月4
日には外部病院の精神科への受診に至り、そこでも適切な情報を提供しなかったばかりか
、「詐病」の可能性を示した。ウィシュマさんが亡くなる前日から当日にかけては、入管
職員である処遇担当統括と看守らが、脱力して異常呼吸もしていたウィシュマさんの救急
搬送を要請すべきだったのにしなかったなど、入管内医師や看守、そして全体の体制を構
築するべきだった当時の入管局長に法的に7つの義務違反があったと主張しました。
(4)原告側の空野佳宏弁護団長「原告側から医師の証人尋問を請求する。担当してい
た看守勤務者ら、庁内医師、看護師を含む者たちの証人尋問が必要不可欠」
法廷の弁論で、原告側の空野佳宏弁護団長
は、「これは医師らの医療過誤とだけでは見ることができない。普通の人なら直接医者に
医療を申し込めるが、入管では医療の知識のない入管職員らにスクリーニングをされてし
まう。入管という組織の体質や文化に結びついている」などと補足した。今後の「立証計
画」として、原告側から医師の証人尋問を請求するほか、「義務違反の前提となる具体的
事実については、監視カメラ映像の全てが開示されていないことも踏まえ、当時の名古屋
入管局長、処遇担当統括、ウィシュマさんを担当していた看守勤務者ら、庁内医師、看護
師を含む者たちの証人尋問が必要不可欠」だとの考えを示しました。
(5)次回4月23日の口頭弁論までに、被告の国側は、国側の主張を整理した準
備書面を提出
第16回口頭弁論では、被告・国側からも第13
準備書面が出されました。前回、原告側が証拠として提出した収容中のウィシュマさんの
摂取カロリー量や水分量などをまとめた一覧表に対して、「信用性が低い」と主張する内
容です。原告側はカロリー量などの算出根拠として、当時の看守勤務日誌や看護師のメモ
から食事内容などを抜き出し、
30代女性の必要カロリー量の3分の1
しか摂取していない時期もあったなどと分析した。これに対して国側は、計算の前提とし
ている一覧表の信用性が低く、計算誤りや計上漏れなども多数認められると指摘していま
す。
(6)口頭弁論の最後に遺族・原告側は、「求釈明」で、非開示の資料を提示するよう
に国側に要求
口頭弁論の最後に遺族・原告側は、「求釈明」として、カロリー量の計上漏れなどがある
とすれば、入管庁の最終報告書には記載されていないメモなどがあったことになるため、
非開示の資料を提示するように国側に要求し、さらに、国側の指摘が一覧表の数字の誤り
などにとどまっており、全体的にウィシュマさんが栄養不足だったとの主張には反論しな
いのかと国側に主張しました。国側の代理人弁護士は、これらの意見を書面で受けた上で
、どう対応するか検討すると述べました。原告の弁論に対して、被告の国側は
次回4月23日の口頭弁論までに、国側の主張を整理した準備書面を提出することになって
います。原告・遺族と被告・国双方の主張整理を受け、次々回の6
月の弁論で裁判所としての意見が示される見込みです。
(7)「ウィシュマさん名古屋入管死亡事件」第16回口頭弁論の後、記者会見と裁
判支援集会
「ウイシュマさん名古屋入管死亡事件」裁判の第16回口頭弁論の後、記者会見と裁判支援
集会がおこなわれました。弁護団から、第16
回口頭弁論の説明があり、その後、ウィシュマさんの妹で原告のワヨミさんとポールニマ
さんの二人が、法廷で初めて、「原告意見陳述」として、ウィシュマ・サンダマリさんの
お母さん、デヴァ・スリヤラタさんのメッセージを読み上げたときの気持ちを語りました。
2024年12
月に、スリランカに一時帰国したポールニマさんは、お母さんが、電話では、いつも、自
分は元気で大丈夫だといっているが、実は、複数の病気を抱えていて、毎日、ウィシュマ
さんのことを想って辛い日々を送っていることなどを語りました。ワヨミさんは、「いつ
も私たちと一緒にくれる皆さんが、諦めずに戦ってくれていることに、言葉に言い表せな
いほど、心から感謝しています」、ポールニマさんは、第
16
回口頭弁論の前に、弁護団と共に、名古屋入管に「録画ビデオ」の全面開示を要請してき
たこと、そして、いつも支援してくれる人たちの顔を見るだけで元気が出ます」と、参加
者と弁護団に感謝の言葉を伝えていました。
全国各地から法廷傍聴に駆け付けた、愛知(START)、関西(TRY)、関東(BOND)、広島
、静岡などの支援の学生団体の学生たちが、昨年6
月以降の「改悪入管法」で、「管理措置制度」強制など、各地の入管と収容者・仮放免者
の厳しい現状を報告し、力いっぱいの連帯と支援の言葉を語りました。また、支援者から
は、裁判支援を広げるために、
SNS
やユーチューブ、新聞投稿などの提案もあり、今後、さらに、大学・学校・市民集会など
で、多彩なウィシュマさん事件・裁判の現状と支援を訴えることが必要であることを確認
しました。次回第
17回法廷は、名古屋地裁で、4月23日(水曜)午後です。全国各地から多くの皆さんの裁
判傍聴。・支援集会参加をお願いします。
(8)「名古屋入管ウィシュマさん死亡事件国家賠償請求訴訟」についての資料やカンパ
などの支援については、以下をご覧ください。
◆ウィシュマさんの妹さんお二人の滞在費や裁判費用等のために、カンパにもぜひご協
力をお願いします。
@ウィシュマさん事件国家賠償請求弁護団→カンパは、国家賠償請求訴訟に使います。
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000094
@名古屋入管死亡事件弁護団→事件の真相究明のために結成された弁護団です。カンパは
、遺族の日本滞在、刑事告訴、国家賠償請求訴訟等に使います。
https://wishmalawyers.wordpress.com/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%91%E3%81%AE%E3%81%8A%E9%A1%98%E3%81%84/
以上、よろしくお願いします。
お元気で。再見。
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Last modified on 2025-02-07 14:52:49
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