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「12・3非常戒厳」から尹錫悦（ユン・ソクヨル）大統領罷免（4月4日）に至る4カ月の韓国政治・社会の激動。その底流に流れているものは何なのか。植民地歴史博物館（ソウル市龍山区、写真中）内にある民族問題研究所の金英丸（キム・ヨンファン）対外協力室長（写真左）を訪ね、お話をうかがった。金氏とは6年ぶりの再会だ。
――「尹弾劾・罷免」をどう評価する？
根強い保守の政権を市民が倒した市民連帯の大きな勝利だ。とりわけ注目されるのは、組織されていない20代から30代の女性を中心とした若者が、既存の組合や団体と結合して闘ったことだ。
内乱（12・3非常戒厳）以来、のべ約1000万人が行動に参加し、約1000回の発言、145回の行進が行われてきた。
キーワードは連帯と歓待だ。既存の組織が新しい参加者を喜んで受け入れた。
――若者たちの行動の背景にあるのは？
尹政権の圧政への不満だ。失業率の高さに示される生活苦。そして、女性、性的マイノリティ、障害者などに対する差別への批判が大きい。いまの若者たちは人権意識が非常に高い。
同時に、自分が動かないと権利は守れない、市民の意思に従わない政権は倒す、という主権者意識もたいへん高い。これからの民主主義の新しい担い手だ。
主権者意識の高まりは若者たちだけではない。自分が行動しなければという気持ちは市民全体に広がっている。行動に参加できなくて申し訳ないという意識が広範にある。それを韓国では「負債感」と言っている。その負債感が、行動参加者に対するカンパとして表されてきた。集会の参加者に近くの店からコーヒーや食べ物が提供された。参加できなかった人たちのカンパによるものだ（写真右は集会参加者を励ます市民）。
――そうした市民意識の底流は？
光州事件（1980年）などこれまで血を流して闘い、勝ち取ってきた韓国民主化闘争の伝統がある。それが血を流さない闘いへと発展した。朴槿恵（パク・クネ）政権を倒した（2016年）経験も大きい。人々が集まれば政権を倒せるということを実際に学んだ。この新しい民主主義を「ファンジャン（広場）民主主義」と言っている。
――大統領選挙で有力視されている「共に民主党」の李在明（イ・ジェミョン）氏が次期大統領になって、このかんの闘いで築いてきたものは守られ発展するだろうか？
市民の運動次第だ。「共に民主党」も基本的に保守政党だ。韓国には（真の）革新政党といえる政党はない。これまでも市民運動が政治を軌道修正してきた。韓国の市民社会（組織・運動）は政党とはまったく別組織として自律している。
「内乱」以降、「尹錫悦即時退陣・社会大改革非常行動」（1732団体）として市民社会（諸組織・団体）が結束してきた。退陣を勝ち取って、名前が「内乱清算・社会大改革非常行動」に変わった。ここを中心に、新しい政権に課題を提起していく。すでに11分野118課題424の細分課題を提示している。
――日本として、日本人として今回の韓国の事態をどう受け止めるべきだろうか？
尹大統領の圧政・失政の根幹にあるのは、韓米日軍事協力強化だ。そのために日本に対して屈辱外交を繰り返してきた。強制動員（「徴用工」）に対する「第三者弁済」の容認や、福島原発の汚染水を「処理水」と言って黙認してきたことに端的に表れている。
尹政権は歴史課題（日本の植民地支配の清算）を安保（韓米日軍事協力強化）と引き換えにした。これに対する市民の怒りが弾劾・罷免の根底にある。それは朴槿恵が安倍晋三政権と交わした「慰安婦合意」（2015年）に対する批判が朴政権打倒の大きな力になったことと繋がっている。
歴史「修正」主義に対する韓国市民の批判・怒りはたいへん強い。それが市民の意思に従わない政権は倒すという民主主義の力になっている。日本のみなさんにぜひそのことを知っていただきたい。
以上の金氏の話で、今回の韓国の若者たちの行動がけっして一過性のものではなく、新しい民主主義の担い手としての出発点だったと分かった。これがどう根付いていくか。当面する大統領選・新政権に対する対応は大きな試金石になるだろう。
日本のメディアが皮相な動きしか追わない中、韓米日軍事協力強化、歴史「修正」主義に対する批判が政権打倒の根底にあるという指摘はきわめて重要だ。
日本人が今回の韓国の事態を他人事と捉えている限り、韓国市民の人権意識・主権者意識との格差は広がるばかりだろう。