2月28日のトランプ―ゼレンスキー会談、私たちはどのようにとらえるべきか？

児玉繁信〈全労協全国一般福山ユニオンたんぽぽ・執行委員〉

1) ウクライナが敗けている！

私たちがこの会談を評価する時に、重要な前提は、戦争はウクライナが敗けていること、ウクライナ兵士が大量に死に続けていることです。これが最も重要な前提です。

トランプは、「ウクライナ兵士は70万人死んだ」と言っています。現在のもなお多数、死に続けています。

トランプの評価と認識は、①ウクライナ戦争は敗けている、リアルな判断でしょう。② 今後、いくらアメリカや欧州が軍事援助を続けても、挽回できない。これはアメリカ国防総省の戦況判断です。③軍事援助を続けても意味はない、今は損切りをする時だ、「敗者」を抱えるつもりはない、ということでしょう。

ネオコンのバイデン政権の立場からの大きな転換です。

トランプ政権による①と②の評価は、客観的にいって的確な当然の評価です。その点においては、私たちも同じ判断・評価を持つ必要があります。それは、トランプとは異なる、私たち独自の人命尊重、非戦の立場から。そのような認識を持つことが、会談評価の前提です。

しかし、なかなかそうなっていません。自分で全体の経過を調べ、一つのことの評価、私たちの行動を導き出さねばなりません。その逆、すなわち一つの事実、発言、印象から、全体の評価(＝印象操作)をしてはなりません。

２）トランプ政権：ネオコンの戦争政策からの転換、「このままではアメリカは破産する！」

アメリカは、1990年代初め冷戦後から、世界の一極支配、戦争介入政策を採ってきました。この政策を実行してきたのはネオコンです。米民主党も米共和党もこの戦略・政策に沿って戦争介入してきており、両者に違いはありません。

現時点では、この戦略・政策の多くは失敗に終わりました。例えば、中東で何度も戦争介入しましたが、アメリカの思う通りになっていません。軍産複合体と金融資本は儲かりましたが、莫大な金をつぎ込んだだけです。そのような批判はアメリカ支配層の内部にもあります。かつまた、中東諸国は破壊され、いまだに荒廃したままです。アメリカ政府のこのような戦争介入策は、中東、グローバルサウスの国の政府や人々からの信頼を消してきました。

そればかりでなく、アメリカ政府にとっては、巨額の軍事費、軍事援助、情報機関の買収、アメリカを支持し現地政府に反対する「市民運動」への援助・・・・などの支出を増やし続け、巨額の債務を抱えるに至りました。「このままでは、アメリカ政府が破産する、転換しなければならない」というのが、トランプ政権の認識であり、立場です。「世界中に手を広げ過ぎた」。これを整理するのが、トランプ政権の立場です。

３）ネオコンの追放

見込みのないウクライナ戦争に突入し財政危機をもたらしたネオコンを引きずり降ろして、トランプ政権は成立しました。米政府機構からネオコンを追放することは、トランプ政権が現在取り組んでいる課題です。過去30年間、ネオコンが主導してきた戦争介入政策の転換をやろうとしています。目的は、アメリカ政府が破産しないためです。

イーロン・マスクのDOGEに政府歳出削減をやらせているのは、債務削減が目的です。 USAIDの業務停止は、債務削減とともに、USAIDの予算がネオコンの戦争資金、気に入らない政府を倒すための資金、世界中の主要メディア買収資金だからです。ネオコンの活動基盤を奪うのが、更なる目的です。USAIDのほとんどの資金が(石田和靖氏によるとその97％が)、戦争介入、政権転覆、メディア買収資金として支出されています。

つぎの狙いはNED(全米民主主義基金)でしょう。ロバート・ケネディ・ジュニアは、最終的な本丸はCIAだと2年前から主張してきました。

トランプは、第一次政権の時に、「ロシアの情報操作により、大統領になった」という偽宣伝で主要メディアから執拗に攻撃されました。4件の裁判を起こされ、この件でも、主要メディアから繰り返し攻撃されてきました。

USAIDやCIAと近いNGOを通じて、主要メディアに資金が注入され、世論がコントロールされていること、これがネオコンのやり方、支配システムであることを、トランプもイーロン・マスクも身に沁みて知っています。だからこのシステムを破壊するつもりです。イーロン・マスクが資金を受け取った者のリストを順次、暴露しています。なお、USAIDからは、NGOを通じて海外(日本のNHKも含む)の主要メディアにも資金が注入されています。

主要メディアは、映像を一部切り取って流し、善と悪の対立に描きだして人々の心に入るように「印象操作」してきました。私たちは、この影響を受けています。トランプに対する私たちの印象はどこから来ているか、一度確認してみる必要があります。

したがって、「偽情報」は主にこの流れ、システムから流されていることを認識、特定することが重要です。私たちは、情報の発信元を常に確認しなければなりませんし、一次情報を手に入れなくてはなりません。それをやっているうちに、偽情報かそうでないかを峻別する力がついてくるでしょう。自身の判断力を身につけなければなりません。ネオコンの追放は、他人事ではありません。

４）ウクライナ戦争は終わらせる、「損切りだ！」

トランプ政権は、ウクライナ戦争を終わらせる決断をしました。いくら資金を注ぎ込んでも無駄だからです。正確にいえば、「損切り」をしようとしているのです。

会談のなかで、トランプとJDヴァンス副大統領は、「ウクライナの若者が大量に死んでいる、街中で強制的に徴兵している」と言及しています。一方で、トランプは一次政権 (2017-2021)のときに、「ジャベリン(対戦車用携帯ミサイル)を送ったではないか！」とも言っています。したがって、「ウクライナは敗けている、兵器を投入しても挽回できない、損切りだ」というのが本心に近いでしょう。

レアメタルに対するトランプの対応も、「損切り」です。レアメタル開発は、「アメリカ軍にもっと関与してほしい、参戦してほしい」として、元々はウクライナ側(イエルマーク大統領府長官)から、持ちかけられました。ウクライナにとっては、レアメタルをアメリカによる安全保障(軍事援助継続、NATO加盟)と絡めたい、ということでしょう。

トランプは、安全保障と絡めるという言質を取らせませんでした。具体的には、「平和維持軍」派遣も断っています。それから、レアメタル開発投資資金は、過去のアメリカ政府の支援額、3,500億ドルを充てる、すなわち、この先追加投資はしないということです。追加支出はしない、「損切り」が明確です。

ただ、この時のトランプとヴァンスの対応は、高圧的でした。「ホワイトハウスでこのような発言は無礼だ」、「ロシアと交渉しようとしているトランプ大統領に感謝すべきだ」(ヴァンス米副大統領)などの発言は、「アメリカがウクライナを助けてきた、ロシアとの交渉もアメリカなしにできないだろう」という関係が背後にあり、ゼレンスキーに立場をわきまえろという高圧的な態度を示しています。帝国アメリカと弱小国ウクライナの関係がここに表れています。映像を見た多くの人は、まずそのような印象を持ったでしょう。

ゼレンスキーにとっては、軍事作戦が始まって5日後の2022年3月から、ウクライナとロシアはイスタンブールで停戦交渉し仮合意までしたのに、バイデン政権と英ジョンソン首相が、「合意を破棄して、ロシアと戦え！と指示し、支援を約束したではないか！」という不満も当然のこと、あるでしょう。内心ではそのように思っていても、加担したゼレンスキーは公的な場でそのような発言はできません。

トランプは、ロシアと交渉し停戦する。ゼレンスキーはロシアと交渉するつもりはない、停戦交渉も行わない。

　双方の考え、立場がまったく違ったことが、決裂した会談で明らかになりました。

５）アメリカの力の低下を認識しているトランプ政権

トランプ政権は、第三次世界大戦が起きることを嫌い、これを避けなければならないと考えています。アメリカの力の低下、その現実を認識しています。ウクライナ戦争の継続は、第三次世界大戦・核戦争に至る危険があると認識しています。この点は、バイデン- ネオコン政権とは、大違いです。

その結果、久しぶりに「緊張」から「緩和」が訪れる可能性が出てきました。もちろん、まだ確定的ではありません。バイデン政権下のウクライナ戦争、ガザ戦争では、核戦争、第三次世界大戦の危機が迫っていましたが、少し「緩和」の方向に傾きました。

先日のトランプ―プーチン電話会談で、閉鎖していた相互の大使館の開設に合意しました。驚くべきことに、バイデン政権は3年間、ロシアと交渉していませんし、その窓口も閉ざしていました。

６）2025年2月28日のトランプ―ゼレンスキー会談

この会談からはっきりしたことは、トランプ政権はウクライナ戦争を終結させる、ロシアと交渉し停戦すると決断していることがわかりました。

一方、ゼレンスキーは、大量の兵士が死に敗戦濃厚でも、ロシアと停戦交渉はしない、アメリカから軍事援助継続と安全保障してもらいたい、と主張しました。これが決裂の内容です。

ゼレンスキーはこの後(3月1日)に、英国に飛び、スターマー英首相と会談し、英国のウクライナ戦争全面支援を取り付けました。スターマーは、凍結しているロシア資産の利息をウクライナ支援に充てると声明しました。これは、窃盗であり、犯罪行為です。英国らしい、なかなか狡猾な対応です。

3月2日には、EU首脳がロンドンに集まり、戦争支援を支持しました。ロシアと交渉し停戦するつもりもその姿勢もないことを、確認しました。

７）この先どうなるか？

　会談が決裂しても、この先、アメリカとロシアはウクライナ戦争終結の話し合いは継続するでしょう。

そこに、ゼレンスキーとEU首脳(フォンデアライエンEU委員長、仏マクロン大統領、英スターマー首相、ルッテNATO事務局長)が参加しない時期が、一定期間続くでしょう。しかし、永久には続きません。

トランプ政権はこの決裂を受け、ウクライナへの軍事援助をとめる可能性が高くなりました。トランプ政権は90日間、軍事援助を止めましたが、バイデン政権が退任直前に決めた軍事援助は続いてきました。3月3日、トランプ政権は、ウクライナへの軍事支援を一時止めると公表しました。

ウクライナ戦争では、ほとんどの武器・弾薬は、アメリカと欧州から供給されています。武器・弾薬ばかりでなく、ウクライナ軍のミサイル、ドローンなどの標的特定に、アメリカ軍の監視衛星を使用しています。またミサイル、ドローン、誘導弾などの通信はスターリンク(イーロン・マスクの会社)を利用しています。これらを止められたら、ウクライナ軍は一日たりとも戦争を継続できません。また、ウクライナ戦争で高度な武器を操作しているのは、訓練を受けた米軍・NATO軍兵士です。確かに、ゼレンスキーはカードを持っていません。

EUは、とりあえずこれまで通り、ゼレンスキー支援、ウクライナ戦争支援、ロシアとの交渉拒否の態度をとることにしました。

しかし、アメリカが支援した額の支援の代替えはできません。各国の財政状況からして、現在以上に支援額を増やせません。武器・弾薬の生産能力もありません。また、EU首脳は、本心からその心算はありません。

EU内では、対立が表面化するでしょう。伊メローニ首相は、ウクライナへの軍派遣には反対です。ハンガリー・オルバン首相、スロバキア・フィツォ首相はEUからの軍事支援に明確に反対しています。

今のところ、EUにとってウクライナ戦争は他人事です。EU首脳の考えていることは、手に取るようにわかります。トランプ政権に「バイデン政権がとってきた戦争政策に戻ってくれ！今まで通り、金を出してくれ！」と願うばかりでしょう。もはや、無理な願いです。

ゼレンスキーにとっては、ウクライナ兵士、国民の犠牲は他人事です。

したがってトランプ政権は、ウクライナと欧州抜きに、ロシアと交渉し、停戦について合意をする可能性もあります。一定の合意が成立した場合、EUもウクライナも、最終的には受け入れざるを得ないでしょう。トランプ政権がEUとウクライナに、強引に停戦を受け入れさせることもありえます。それでも、戦争継続よりはずっといいと、私は判断しています。

そのようになれば、EUとウクライナは、従来の立場を変えなければなりません。従来の主張を転換するために、少し時間がかかるでしょう。あるいは、転換するためにはＥＵの各国は政権交代が伴う可能性があります。それぞれの国民が決めるでしょう。

ウクライナでも、その可能性があります。ウクライナ国民のほとんどは停戦、戦争終結を志向しています。ゼレンスキーの支持率は10数％にまで低下しています。

しかし、 EUにも、ゼレンスキーにも、選択肢はありません。ただ、時間がかかる分だけ、そのあいだウクライナ兵の死者が増えます。

なお2019年に、ゼレンスキーが大統領選挙で掲げた公約は、「ミンスク合意遵守、ドンバス内戦停止、ロシアと交渉による解決」でした。ゼレンスキーは、75％の支持を得て当選しました。ウクライナ国民は平和を希求していたのです。しかし、当選後、ゼレンスキーはその公約を破棄し、ロシアとの代理戦争に突き進みました。ロシアとの交渉は、2022 年秋に大統領令で禁止し、交渉をしていません。

EUもバイデン政権もロシアと交渉してきていません。「戦争で決着をつける、ロシアを弱体化し、分割する」、これがバイデン・ネオコン政権とEU首脳の本心であり、採った立場でした。EU首脳はいまだにその立場に固執しています。

８）ウクライナ停戦を支持する！

私はウクライナ停戦を主張してきました。何よりも、人が死ぬのを避けなければなりません。非戦が重要です。人々の立場から、停戦、戦争終結すべきだと考えています。もっとも私の考え・立場は、トランプ政権のそれとは異なります。「損切り」が停戦すべき理由だとは考えていません。

問題は、3年も戦争が続き、ウクライナ兵が大量に死に、ウクライナが破壊されたこのような事態になった現在、トランプ政権から停戦の動きがあり、プーチン大統領もこれに応じる態度をとっている時、これを支持するか？ということです。

私は、支持すべきだと考えています。十分なもの、完全なものではないとしても、支持すべきだと考えています。レアメタルよりも、場合によっては領土よりも、人命が失われることの方がより大きな問題である、直ぐに停戦すべきだと考えています。

９）ネオコンの謀略宣伝に、自覚的に対処すること

現在の状況は、ちょうど朝鮮戦争が長引き、米軍・韓国軍―中国軍・朝鮮軍の双方とも犠牲が大きくなり、戦争を続けることができなくなり、朝鮮戦争が休戦に至った直前の状況によく似ています。この時、韓国・李承晩大統領は「北進統一」、戦争継続を主張しました。彼は休戦交渉にも参加せず、休戦協定に署名もしていません。

アメリカと中国・朝鮮が、李承晩抜きで休戦協定締結を決めました。中国軍の彭徳懐将軍、リッジウェイ米将軍・米国務省のジョージ・ケナンらが現実的な対応をしたのでしょう。双方にとって、「完全にいいもの」、「希望したもの」ではありません。犠牲者が多く、軍事力も消耗し、ほかに選択肢はなく、休戦という現実的な判断をしました。

ウクライナ戦争停戦、戦争終結を主張すると、「親トランプだ！　親プーチンだ！」という非難によって、反対者を押しつぶしてきました。ネオコンの支配の仕方です。米欧日の主要メディアがこれをやってきましたし、今もやっています。ネオコンがUSAIDやNGOを経由して主要メディアに資金を配り、つくりあげた支配システムの一部です。

現在は、世界中で、平和を求める市民運動、停戦・戦争終結をもとめる人々の声が、十分強くない状況下にあります。ですから、そのような状況のなかで停戦・戦争終結の動き・可能性があれば、戦争を止める方向を支持するのです。

「トランプにけしからんところがある」のは同意します、そのように受け取り方や、主張する市民や市民運動もあるでしょう。だからといって、私たち市民や市民運動の態度が、ウクライナ戦争継続させたり、停戦交渉を破壊させたりする方向に利用されることがあってはなりません。