米国労働運動 : トランプの対メキシコ・カナダ関税発動と労働組合 | |||||||
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【解説】トランプ大統領は2月1日からメキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を掛けようとしている。現行の米国・メキシコ・カナダ協定USMCAでは原則関税ゼロだが、一律に25%を掛けることで三か国の労働者は甚大な影響を受ける。レイバーノーツ2月号の記事は、トランプの関税発動に対する三か国の労働組合の対応と国境を越えた連帯について伝えている。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。 トランプの対メキシコ・カナダ関税発動と労働組合2025年1月16日ナターシャ・エレナ・ウルマン(レイバーノーツ・スタッフ)
ベン・ヒンジーは9年間自動車産業で働いているが、見当違いの非難をたくさん見てきた。人員削減の危機はいつも迫っている。 ヒンジーはオハイオ州トレドにあるステランティス・ジープ工場で現在の仕事に就いたが、それはその前に働いていたクライスラー・トレド・マシニング工場が2017年の人員削減で消滅したためだった。彼は現在、パネルを取り付け工として、欠勤者の代替えを務めている。 1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)とその後継協定である米国・メキシコ・カナダ協定USMCA(NAFTA2.0として知られる)以降、アメリカから何十万もの自動車関連の雇用が消えた。会社が工場を閉鎖し、仕事をメキシコに移すと脅したため、賃金は急落した 米国の自動車労働者の多くはメキシコ人労働者を恨んでいる。 「NAFTAに関する多くの報道は、『NAFTAがアメリカをダメにした』というものだ。しかし、実際はそうではない。カナダとメキシコの労働者も被害者だ。」とヒンジーは言う。 トランプ大統領は最近、2026年に予定されているUSMCAの見直しより早く、今すぐにでも再交渉を行いたいと表明した。 強制された移住アメリカの労働者が受けた被害はメキシコの労働者の利益のせいだ、という誤解が広まっている。現実には、勝者は多国籍企業だけだった。メキシコの自動車労働者の平均賃金は、1994年から2016年の間に半減した。NAFTAがいかに世界中の労働者を苦しめたかを示すために、ヒンジーはメキシコに安価な米国産トウモロコシが流入したことを指摘する。メキシコの農家は、アメリカ政府が年間50億ドルもの補助金を出していた機械化された農場に太刀打ちできず、その代償を払うことになった。200万人が土地を失い、代々家族を支えてきた土地を失った。 他に選択肢がないため、何百万人ものメキシコ人労働者が職を求めて北へ向かった。その一部は、低賃金のマキラドーラiのわずかな仕事や国境沿いの農作業での雇用を競いあい、その他多くはアメリカへの道を見つけ、畑や食肉処理場で低賃金の仕事をした。 ヒンジーの家族もかつて小さな農場を所有していたが、世界大恐慌でそれを失ったので、メキシコの労働者に親近感を持っている。「土地を失った祖先の一部が、トレドの工場で職を得た。それが、私が自動車工場で働く理由なのだ」。 団結権USMCAは米国、メキシコ、カナダ間で取引される製品のほとんどの関税を撤廃するというNAFTAの枠組みを継続した。しかし、同時にメキシコの独立労組活動家たちが長年にわたって要求してきたメキシコ労働法の改正を新たに義務付けた。その内容は、労働法廷の設置や、既存のすべての労働協約を批准するための無記名投票制の義務付けなどであるが、その結果はまだ組織率の上昇を生み出すに至ってはいない。重要な規定は迅速対応メカニズムで、メキシコで労働者の団結権を侵害した使用者に対して、組合や労働者が苦情を申し立てることができる。違反が認められた企業は制裁を受け、最終的には米国市場へのアクセスを失う可能性がある。 自動車分野では、USMCAは、自動車部品の75%を3カ国のいずれかで製造し(NAFTAでは62.5%)、部品の40〜45%を時給16ドル以上の労働者で製造することを義務付けている。 カナダの鉄鋼労組の国際連帯部門である鉄鋼労組ヒューマニティ基金のポール・ボッキング氏は、「USMCAの労働権条項は、世界のどの貿易協定よりも強力なものだ。でもそれはあまり意味がない。貿易協定はその定義上、資本に権利と権限を与えるものだからだ。」と言う。 経営を支持する組合メキシコ人労働者の約13%が組合に加入していることになっているが、その多くは、労働者の意見を聞くことなく、また多くの場合、労働者が知らないうちに協調的な「組合」によって押し付けられた「保護協約」の下で何十年もの間苦しめられてきた。このような経営を支持する組合は賃金を抑制し、真の労働者の代表を求める活動を阻害して、労働基準の低下をもたらしている。メキシコの労働者の賃金が米国の数分の一にすぎない限り、経営側は労働基準を引き下げを強いるだろう。フォード社シカゴ組み立て工場で35年間働いてきた電気工のスコット・ホールディソンは、「それは、何十年にもわたって全米自動車労組を蝕んできた譲歩交渉の本質だった」と言う。「私たちはいつも、仕事があるのは幸運なことだ、『会社は今困っているんだからこのひどい協約を飲め』と言われてきた。しかし、その背後には常にメキシコへの工場移転の脅威が潜んでいた。」 「私たちの組合員は、時給およそ35ドルだが、時給3ドルの労働者とどうやったら競争できるかを考えるよう求められている。」とUAW会長ショーン・フェインのアシスタントであるジェイソン・ウェイドは言う。「これらの労働者は同じ価値を生み出しているので、アメリカ人労働者とまったく同じか、それに近い賃金を得るべきである。これらの企業は、メキシコ人労働者と米国人労働者を酷使し、互いに対立させることによって『競争』しているが、そんなことを続けることは許されない。」 高リスクの見直しUSMCAの見直し条項に基づき、3カ国は会合を開き、USMCAの修正、延長、脱退を検討しなければならない。最初の期限は2026年7月1日である。ドナルド・トランプ大統領の2期目が始まり不確実性が増している。トランプ大統領はメキシコとカナダに25%の関税を課すと宣言しており、これは3国間の関税なし貿易を前提とするUSMCAにほぼ間違いなく違反する。 トランプはまた、ジョン・ディア社iiがメキシコへの生産移転を続ければ200%の関税を課すと脅している。同社は、過去1年間に容赦なくレイオフを行い、2026年までにスキッドステアローダーとコンパクトトラックローダーの製造をアイオワ州からメキシコに移転する計画を表明しているにもかかわらず、メキシコへの移転を否定している。 空虚な脅威?しかし、多くの人は、トランプ大統領の脅しは空虚だと考えている。「トランプ大統領がメキシコから米国への輸入品に懲罰的な関税をかければ、米国の自動車産業のサプライチェーンは破壊されるだろう」と、メキシコの連帯センターの前組織局長、ジェフ・ハーマンソンは言う。「ビッグスリーやフォルクスワーゲン、テスラ、ヒュンダイ、起亜などの企業を含む米国のすべての自動車メーカーは、メキシコで製造された部品やコンポーネントに依存している。」「例えば、ダッジ・ラムのヘミV型8気筒エンジンはすべてメキシコ製だ。トランスミッション、アクセル、ブレーキ、内装、フロントガラスはメキシコから輸入され、それを作っているのは米国の自動車労働者の10分の1の賃金の労働者だ。これらの部品に関税をかければ、供給が絶たれるか、最終製品の価格が大幅に上がるか、あるいはその両方が起こるだろう」。 バークレイズ銀行のアナリストは、トランプ大統領の関税案はビッグスリーの自動車メーカーから「事実上すべての利益を消し去る可能性がある」と述べている。 メキシコのクラウディア・シャインバウム大統領は、メキシコが米国製品に関税をかけることで報復する可能性を示唆した。メキシコのマルセロ・エブラード経済相は、この関税措置は40万人のアメリカの雇用の喪失につながると警告し、この動きを 「墓穴を掘ることになる」と表現する。 一方、カナダのジャスティン・トルドー首相は脅しを受けて、トランプ大統領との会談に奔走したが、何の約束も得られないまま帰国した。数週間後、トランプはカナダを併合すると脅した。 労働組合の要求USMCAの見直し条項は、組織労働者が要求をまとめることができれば、協定を改善する機会を提供している。当初のUSMCA交渉では、労働組合は大幅な改善を勝ち取った。迅速対応メカニズムにより、何千人もの労働者が自らの権利を主張し、独立組合を設立し、労使協調の労働組合の伝統から脱却することができた。しかし、このメカニズムは適用範囲が限定されており、メキシコ国内の労働者にしか適用されない。 カナダ最大の民間労組であるユニフォアのラナ・ペイン会長は、「北米全域に適用してほしい」と言う。彼女の組合がカナダ政府と協力して、たとえばアラバマ州で労働者の権利を侵害しているメルセデス社を提訴し、同社が改善しなければカナダでの自動車販売を差し止めることができることになる。 メキシコ国内であっても、このメカニズムが扱うのは結社の自由と団体交渉の権利だけであり、労働安全、ジェンダー・バイオレンス、移民の扱いはその対象外である。 また、USMCAの一環として議会が設置した独立メキシコ労働専門家委員会のメンバーであるサンドラ・ポラスキーによると、特定の産業しか対象とされていない。「米国とメキシコ、そしておそらくカナダでも、労働者の権利に対する甚大な侵害がある」農業にも適用して欲しいし、と彼女は言う。 また、違反が認められた工場であっても、工場を閉じて国外に移転することで義務を逃れることを止めることはできない。国境沿いのコアウイラ州にあるVUマニュファクチャリングでは、自動車部品労働者が独立組合の結成に賛成の投票をしたら、工場移転してしまった。 VUマニュファクチャリングが労働者の団結権や交渉権を否定していることが2件の迅速な不服申し立てによって立証された後、米国とメキシコは、同社が組合活動への中立性と不干渉を確認し、人事担当者を懲戒処分し、今後は違反を速やかに報告するという改善策に合意した。その代わり、ミシガン州に本拠を置く同社は単に施設を閉鎖しただけで、数百人の労働者がブラックリストに載ったまま、法的に義務付けられた退職金も支払われないまま放置された。 優れた組織化の環境メキシコ人労働者は、中傷や脅迫に直面しながらも、山猫ストを実施し、組織化してきた。ゼネラル・モーターズ社のシラオ工場、モレロス州クアウトラのサンゴバン自動車部品工場、グッドイヤー社のサンルイス・ポトシ工場で経営側と連携する御用組合を追い落とし、キャタピラー社のヌエボ・ラレド工場で持続的ストライキを実施するなど、独立した闘う組合を築いてきた。組合運動は上向きである。しかし、新たな労働権に関する政府のメッセージはまだ数百万人に届いていない。組合のオルグは労働者の深く根強い疑念と対峙している。組合は経営側と結託しているという疑念である。メキシコの労働者は組合承認選挙の投票の改ざん、報復、暴力の脅威に直面している。 メキシコの独立系組合は大部分が新しい組織であり、ほんの一握りのオルグしか雇うことができない。設立間もない組織化キャンペーンを支援する労働者センターは、野心的な目標を掲げているが、予算はわずかである。 「労働法改革以前は、労働者は発言権も投票権も持っていなかった」と、モレロスにあるサンゴバン素材工場の独立組合のガブリエル・メンドーサは言う。「会社は組合指導部と取り決めを行い、労働者の意見は重要ではなかった。労働者が組織化しようとすれば、解雇される」。 同労組の書記長ホアキン・グスマンは、「労働者の結社の自由はしばしば侵害されている。「労働者は解雇され、最悪の場合、労働者とその家族は悪徳組合に脅迫されている。」 「労働者はいまだに恐怖とともに生きている。解雇されることをある程度は恐れているが、それ以上に自分や家族に対する殺害予告を恐れている。USMCAによる労働法改革では、その点にもっと重点を置いてほしい」。 新しいC.I.O.?北米大陸全体の賃金の下落傾向を逆転させるには、北米の労働組合がメキシコでの組織化を真剣に支援する必要がある。多数のブルーカラー労働者を組合化することを決意した組合員たちが、後に産業別組織会議(CIO)となる組織を結成した1930年代の米国のような可能性がある、とハーマンソンは見ている。「CIOは100人のオルグを雇った。その結果、UAWが生まれ、ゴム労働者、鉄鋼労働者、電機労働者、農機具労働者、家具労働者の組合が生まれた。これらの産業の労働者はすべて100人のオルグにより組織化された。現在メキシコも同様に、そのような大組織化キャンペーンを行うのに適した環境なのだ。」 「北米がすべて1つの市場になるのであれば、組合はその市場全体で協調連帯する必要がある」とヒンシーは言う。 Created by staff01. Last modified on 2025-02-02 09:37:20 Copyright: Default |