〔週刊 本の発見〕『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』 | |||||||
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毎木曜掲載・第371回(2024/12/26) 理不尽なことを変える!『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』 (中川七海 著、旬報社、1700+税)評者:志水博子今、話題のPFASについて、最近ようやくというべきか、新聞記事やTVで取り上げられる機会が目につくようになった。だが、それぞれが断片的な報道であるため何が問題なのか、その全体像がなかなかつかめなかった。 本書は、報道機関「Tansa」に所属する著者が、企業に対しても行政に対しても政治に対しても、ジャーナリストとして何ら忖度することなく、摂津市ダイキン工業淀川製作所PFOA汚染について事実を明らかにし、その責任を追及していくドキュメンタリーである。 タイトルにあるように、事態は深刻である。にもかかわらず、誤解を恐れずにいえば、実に小気味がいい追及ぶりに、何だか推理サスペンスでも読んでいるワクワクハラハラ感があった。簡潔明瞭な文体と著者のジャーナリスト精神に惹かれて一気に読んでしまった。 そもそも、著者が取材に着手することになったきっかけは、2021年5月の報道機関「Tansa」の編集会議であった。 「全国各地で、『ピーファス汚染』というのが起きているらしい」との編集長の言葉を聞くまで、著者は「PFAS (ピーファス)」という言葉を耳にしたことがなかったという。だが、編集長から手渡された、岩波ブックレット『永遠の化学物質 水のPFAS汚染』を読み、水道水や地下水が、「PFAS」という毒性物質に汚染され、地域住民が被害に遭っていることを知る。 「水の汚染は何十万、何百万人の被害が出てしまうのでは?」、それなのに報道の手が十分に届いていないと感じ、「やります」と手を挙げ、取材に着手する。以降、ジャーナリストとしての著者の揺るぎない軌跡が描かれている。 「PFAS」とは、有機フッ素化合物の総称であるが、分解しにくい性質があるため、「永遠の化学物質」と呼ばれ、自然環境中に長く残留する。そして、残留したPFASが土壌に入っていくと地下水に浸透し、水道水にまで汚染を広げていくといわれている。数あるPFASの中で、特に毒性の高い物質が「PFOS (ピーフォス)」と「PFOA (ピーフォア)」である。大阪府摂津市で、PFOAの濃度が桁外れに高い値であったにもかかわらず、なぜ大手メディアはPFOS汚染は報じてもPFOA汚染は報じないのか。著者は、PFOA製造工場であったダイキン工業淀川製作所がある摂津市に調査に入る。ところが怒っていると思っていた住民たちは一様に口をつぐむ。ダイキン工業淀川製作所は、戦争中、軍需工場として始まった。戦後、ダイキンはPFOAの世界8大メーカーにまでなる。そのため摂津市は潤う。淀川製作所は多くの雇用を生み、かつ税収も入る。はて、どこかで聞いたことのある話だ。水俣病において、水俣市が「チッソ城下町」であったことと同じく、摂津市は「ダイキン城下町」であったわけだ。よって、いかに公害を生み出そうが、地域懐柔策が巧妙に行われる。住民はもの言えなくなる。著者はダイキンの歴史、住民への懐柔を追っていく。そして、次に、摂津市・大阪府も丹念に追っていく。そこにあったのは、ダイキンの言いなりのままの行政だ。府のプレスリリースをダイキンが作成していたとは、何とも言葉がない。政治も絡んでいる。 また、それだけではなく、著者(写真)はジャーナリストなだけに、同業ともいえるマスメディアに対しても容赦なく批判する。 「ダイキンの横暴がなぜ許されてしまうのか。理由の1つに『マスメディアの加担』があると私は考える。2021年春にダイキンのPFOA公害の取材に着手して以来、ダイキンに対する他メディアの報道姿勢には驚いてきた。」と。ダイキンの名前を出さず報道するマスメディア記者に対し、「誰のために仕事をしているのだろうか。ジャーナリストの使命は、被害者のために権力闘うことだ。公害の解決を遅らせている一因をメディアがになってしまっている。」と。 最後のエピローグは、公害温存システムを断ち切ると題されている。 「日本は、公害企業にとって都合の良い国だ。ダイキンの気持ちになってみると、このような考えが浮かんだ。米国では損害賠償を支払ったし、他国でも現在、訴訟起こされている。だが、日本では問題ない。PFOA汚染が、環境基本法が定める「公害」の条件に該当していたとしても、地方自治体と政府は互いに対応を押し付け合っている。一緒になって責任追及してくることはない。」 では、そうすればいいのか?まず日本の公害温存システムとして著者は3点を挙げている。一つは、公害を食い止める法律に、政府が自ら抜け穴を用意したことだ。公害被害者への補償措置は、「水俣病被害者救済法」(特措法)など、個別に法律を制定する必要があるのだ。ところが個別の法律も被害者にとって十分な内容ではない。それに公害行政の欠陥は法律だけではなく組織の問題がある。著者は特に経産省を問題視する。二つ目には、地方自治の機能不全を挙げる。地方分権といっても、自治体に公害を解決するような能力はなく、省庁の責任回避に利用されているだけだという。そして三つ目は、私たち一人ひとりにあると思うという。公害が起こり、現場放置すれば、その影響は必ず私たちに返ってくる。それには公害温存システムを断ち切る一人ひとりの市民の闘いが必要だという。 著者中川七海さんは1992年生まれ。何とも頼もしいジャーナリストが出てきたではないか。最後に、本書を知るきっかけとなった隆祥館トークイベントのサイトと、著者を通して初めて知った非営利独立メディア「Tokyo Investigative Newsroom Tansa」も併せて紹介しておきたい。 ◇Tokyo Investigative Newsroom Tansa HP ◇隆祥館書店店主二村知子さんnote *編集部の都合で本稿の掲載が予定より遅れました。(編集部) Created by staff01. Last modified on 2024-12-28 12:04:06 Copyright: Default |