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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『ザイム真理教』(森永卓郎)
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毎木曜掲載・第367回(2024/11/7)

「失われた30年」財務省への「有罪判決」

『ザイム真理教』(森永卓郎・著、フォレスト出版、本体1400円、2023年6月)評者:黒鉄好

 痛快で面白い本である。今や多くのアジア諸国の後塵を拝するようになった日本経済。外国人観光客が、まるで100均ショップを訪れるような感覚で来日し「安いニッポン」に歓喜する。誰が日本をこんな状態にしたのか。「失われた30年」の真犯人は誰か。経済評論家として講演や著述活動で日本中を駆け回り「寝ているとき以外はすべて講演するか、原稿執筆している」と豪語する著者が、財政出動を否定する財務省を真犯人と断定。財務省が信仰し、布教を図る財政均衡主義と緊縮財政を、かつてテロ事件を起こしたカルト教団になぞらえ、「有罪判決」を下す。

 第1章から2章では、財務省が国民生活を犠牲にしてまで財政均衡主義という「邪教」を布教するためのカルト集団であると説く。実際、カルトかどうかは別として、長く「霞ヶ関ウォッチャー」を続けてきた私の耳にも財務省の「軍隊組織」ぶりは何度か聞こえている(誤解を恐れず言えば、森友学園事件で近畿財務局職員・赤木俊夫さんを自殺に追い込んだのにも、この「軍隊体質」が少なからず影響している)。政治家、国民を洗脳し「健全財政至上主義」に染め上げていく姿をカルトとして描き出す。

 日本のように独自通貨発行権を持つ国では、国債が国内で消化される限り、いくら発行しても財政は破たんしないとするMMT(現代貨幣理論)が最近注目を集めている。森永さんは、さすがに青天井に国債を発行してもいいとの極論に賛同はしないものの、MMTに支持を表明している。

 通貨発行権を持つ政府が、紙切れに1万円と書いて印刷すれば、それが1万円として通用し、引き替えに1万円相当の財物が転がり込んでくる。それが通貨発行益である――と、通貨を発行することがあたかも新たな価値を創造するかのように論じていることには危惧を感じる。市場流通している財・サービスと貨幣との交換価値が物価であるというこれまでの経済学の常識を根底から覆すものになっているからだ。生産力に裏打ちされていない巨額の国債発行が現在の物価高、異常な株高・円安を招いているのが実態ではないだろうか。残念ながら、総じて第3章〜第4章は荒唐無稽な内容と言わざるを得ない。

 一方で、たび重なる消費税引き上げが国民生活を破壊し、失われた30年を作り出したとする第5章、日本政府と自民党政権の経済政策が富裕層を利していると批判する第6章以降はきわめて説得力がある。国民生活を犠牲にして巨額の防衛費増額に走った岸田政権に対する「ロシアや北朝鮮のようだ」との批判は、多くの賛同を得られるに違いない。できるだけ都市を離れ、農村で自給自足生活を送るべきだという主張は経済学的にも正しい。インフレで貨幣価値が低下する局面ではカネより財物のほうが価値を持つからだ。

 森永さんは末期がんで余命幾ばくもないと宣告されており、痩せ細った近影も伝えられている。だが「もうすぐ死ぬとわかっている人間をわざわざ殺しに来る人なんていない。今の僕にタブーはないんですよ」と意気軒昂だ。知っていることは存命中にすべて書くつもりらしい。森永さんには「もうすぐ死ぬ死ぬ詐欺」をあと10年くらい続けていただき、国民生活を破壊するケチ臭い貧乏神・財務省と自民党を木っ端微塵に打ち砕いてほしい。


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