〔週刊 本の発見〕『あなたが気づかないだけで 神様もゲイも いつもあなたのそばにいる』 | |||||||
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毎木曜掲載・第347回(2024/5/23) 私の自慢の息子はゲイです『あなたが気づかないだけで 神様もゲイも いつもあなたのそばにいる』(平良愛香 著、学研プラス、2017年、1300円)評者:佐々木有美LGBTQなど、性的少数者に対する差別をなくす運動が進んでいる。昨年には、札幌地裁が同性婚を認めない法規定を違憲と判断した。しかし、昨年国会で成立した性的少数者への理解増進法の論議の過程では、反対派が「女性と称した男性がトイレや女湯に入る」という主張をして世論を誘導。逆に差別を助長するような条項が加わってしまった。こうした混乱がなぜ起こるのか。まずは性についての正しい情報が行き渡っていないからではないか。正直、わたしは学校でもそれ以外でも性教育を受けた記憶がない。小学校高学年のとき、女子の生理について、それも女子のみに説明する授業が一コマあったくらいだ。まじめに性について話し合う機会ももちろんなかった。日本では、まだまだ性はタブーなのである。そんな中で、本書はわたしに大きな示唆を与えてくれた。 著者の平良愛香(たいらあいか)さん(写真下)は、ゲイであることをカミングアウトして牧師になった、日本で初めての人である。わたしはNHK・Eテレの「こころの時代」で彼のことを知った。番組では自分の抜き差しならぬ体験を淡々と語る姿が印象的だった。愛香という名で、女性と間違われることがあるそうだが、平良さんは男性である。 小学6年生のときに、大人の男性に恋心を抱き、「僕だけがほかの人と違うかもしれない」と自分の性や性的指向に悩み始めた。キリスト教系の中学・高校に進み、その悩みはさらに深刻になった。「同性愛=ふしだらなこと、悪いこと」と刷り込まれ、「僕は間違って生まれてきた存在なのだ」と思い込む。そして聖書の「女と寝るように男と寝てはいけない」との言葉に、自死を考えるまでに至る。そうした彼を救ったのもまたキリスト教だった。「世界中の人が僕を受けいれなくても、イエスだけは最後まで味方でいてくれる」と信じた。 本書を読んでいて一番こころを打たれたのは、カミングアウトについての記述である。 平良さんは沖縄に生まれた。父は、基地問題や社会問題に取り組む牧師。母の教育方針は「自分らしく生きる」だった。牧師になることを前提に、両親へカミングアウトすると、二人は絶句した。母は、異性愛に変わる可能性はないのか、尋ねた。そしてそれが不可能だとわかると、これ以上息子が苦しむのは見たくないから、牧師になるのは自分が死んでからにしてほしいと頼んだ。しかしそのあとすぐに、「今のは撤回する。親としてはやっぱり愛香を応援したいから、勉強させて!」と。母はそれから平良さんの送る本を読んで学び、ついにはこんなTシャツを作って着た。「私の自慢の息子はゲイです」。 日本の性的少数者の比率は、全体の7.6%。10から15人に一人が該当する。学校なら1クラスに2人から3人いることになる。トランスジェンダーの場合、病院の呼名のとき、戸籍上の性別を突き付けられる。保険証には戸籍上の性別が記されていて、その提示がいやで、歯医者にも行けない人がいる。それはわたしの想像をこえていた。多くの性的少数者が差別や偏見を怖れて自分のセクシュアリティを隠して生きている。平良さんは「100人いれば100通りの性がある」という。正々堂々とみんなが生きられる社会は、性をタブーにしない社会でもある。 Created by staff01. Last modified on 2024-05-22 20:53:11 Copyright: Default |