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〔週刊 本の発見〕『耐え難き現在に革命を!ーマイノリティと諸階級が世界を変える』
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毎木曜掲載・第331回(2024/1/11)

何故、私たちは資本主義に勝てないのか

『耐え難き現在に革命を!—マイノリティと諸階級が世界を変える―』マウリツィオ・ラッツァラート 著、杉村昌昭 訳、法政大学出版局)評者:根岸恵子

 何故、資本主義に打ち勝てないのだろう。先々月のこの欄で紹介したエドガー・モランも「目を覚ませ!」といっているように、アンドレア・マルムが「パイプライン爆破法」のなかで「何もしないことの言い訳などもうありえない」といっているように、私たちはもう限界のところまで来ているのではないか。「私たちはもう黙ってみている時ではない」。

 マウリツィオは本書によってその明確な方法を提示したわけではない。なぜなら打ち勝つのは私たちだからだ。本書はマルクスを基盤にドゥルーズやガタリを主に、多くの哲学者や思想家などが論じていることを取りあげながら、1967年を基軸に過去の革命とそれ以後50年にわたる資本主義の変遷と問題点を思想的に述べたものである。

 マウリツィオは1955年イタリア生まれの社会学者、哲学者。70年代のイタリアのアウトノミア運動の活動家でフランスに亡命し、現在はパリで非物質的労働、労働者の分裂、社会運動の研究を行っている。

 世界は1492年のコロンブスによる侵略以降、白人による非白人に対するレイシズムを生み、土地の収奪と先住民族の奴隷化を正当化し、先住民を殺戮するとアフリカ人を大量の奴隷として送り込んだ。また封建制度による農奴制や産業革命が資本とプロレタリアの階級差別を作り、労働者は資本家から搾取され、この構図は今も変わらず、差別はもっと複雑化し、家父長制の下で虐げられてきた特に女性に対する差別も顕在化した。そこに多様な階級闘争が生まれるが、資本がこれらに敗れることはない。なぜなら、資本主義はシステマティックに主導権を握り続けているからである。

 新自由主義は「生産と戦争」であり、自由とは無縁である。それは「労働の組織化と階級暴力」「行政国家と例外国家」に他ならない。

 資本は国家権力と結びつき、彼らは地球環境などに興味はなく、温暖化防止をお題目のように宣伝文句にしているが、実はどうでもいいことなのだ。アマゾンの樹木を伐採し続けるつもりだし、彼らは欲しいものを手に入れるために容赦なく兵器を使う。

 多国籍製薬企業は公衆衛生を私たちの健康の側面から奪い、産業化・金融化することによって「命」を利潤の論理に従属させてきた。パンデミックは「人々の生殺与奪の権力」が企業の特権になっていることを露わにした。私たちの生死さえ、彼らにはどうでもいいことなのだ。

 資本主義機械は、今破壊力と自己破壊的力を全面展開し、自由を踏みにじる権威主義的民主主義、例外国家と法治国家の共存、新型のファシズム・レイシズム・セクシズム、支配階級が仕掛ける階級戦争などが登場し、そこにあらゆる種類の破局(カタストロフ)が付け加わっている。

「ケインズは、唯一戦争だけが、資本主義の経済システムが妥当であるか確かめられると言った。戦争は生産力を極限までに推し進めるものだからである。「生産」と「破壊」は完全に符合し、戦争のための「生産的」努力が全社会的労働を組み込み、国家は科学と技術の発展を直接担うようになる。そのための労働の組織化が強制的に行われ、こうした全体の動きが、広島・長崎への原爆投下に行きついた」

「資本主義は、破壊様式であると同時に自己破壊様式でもないと、生産様式として成り立たない。これは破局に変容する脅威である。資本主義は、危機の中でその破壊的・自己破壊的力をフル発揮する。破壊は破局を迎えると無制限になる」

 こうして人類は滅んでいくのだろうか。何故私たちは資本主義に勝てないのか。本書の中では私たちの「無関心」について述べられている。生産者は自分が作っているものに興味はない。それが武器であっても。その「無関心」は労働組合や労働運動にも引き継がれている。資本主義が核家族を作り、私たちは今、あまりにも周りに無関心ではないのか。スマフォの世界、PCのなかに私たちは入り込んでいる代わりに、実世界を感じることができない。現実には何が起きているのか。

 ここ十年足らずでいろいろな運動が起きた。「アラブの春」「オキュパイ運動」「黄色いベストの運動」「気候に対する運動」「Black Lives Matter」、あげればきりがない、民衆は怒っているのだ。この個々の運動は素晴らしい。

 マルクス主義者の白人は、かつて劣勢民族の東洋人に「革命」など起こせないと思って革命を後押しすることはなかった。しかし、いま運動は世界をまたいでいる。水平的な世界を構築できなければ、大きな力にはならない。私たちは多種多様な民族や文化や思想の中で地球の上に一緒に暮らしていることを容認し、互いに手を携えることは難しいことだろうか。

 マウリツィオは本書の最後で「今や革命が人類にとって最後のチャンス」だと言っている。訳者の杉村さんはあとがきで、「その導火線とは何か。それはさまざまなマイノリティや諸階級のミクロな運動が体制の切断としての〈革命〉の伝統と結びつくことである」と述べている。マイノリティや諸階級のミクロな運動はマクロな体制転覆運動と結合し、いわば細い血管と太い血管の合流点において〈予期せぬ激変〉が現出するだろうと。「現在の耐え難さから脱出する道はこれしかないかもしれないのだから」


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