尹錫悦（ユン・ソンニョル）大統領の「非常戒厳」宣言（ハンギョレ新聞は「12・3内乱事態」と命名）。「弾劾決議案」が廃案（7日）になる前、石破茂首相は「尹大統領が日韓関係の改善を進めてきた」と尹氏を評価しました（5日の衆院予算委員会）。
日本のメディアや一部「識者」も、戒厳令宣言を批判する一方で、「改善されてきた日韓関係」（NHKニュース）、「改善が進んできた日韓関係」（木村幹・神戸大大学院教授、7日付朝日新聞デジタル）など、尹氏よって「日韓関係は改善された」という論調を繰り返しています。
これはきわめて無責任で誤った危険な論調と言わねばなりません。
「日韓関係は改善」とは何をもって言っているのでしょうか。朝日新聞はこう書いています。
「尹氏は、これまでになく対日関係重視を鮮明にしてきたリーダーだ。2023年3月に岸田文雄前首相と尹氏のもと、懸案だった元徴用工の問題が政治決着。停滞していたシャトル外交が再開し、日米韓の安全保障協力も進んできた。歴史認識の解決や防衛当局間の連携といった日韓に横たわる長年の課題にも着手できるタイミングだった」（7日付朝日新聞デジタル）
これは「改善」論者に共通した論旨といえるでしょう。その「論拠」は、�仝議�用工問題の政治決着�▲轡礇肇覲宛鮑導��Ｆ�米韓「安全保障」協力進展―の3点です。
「元徴用工問題の政治決着」（23年3月）とは、日本側に代わって韓国側が被害者に補償金を支払うという「第三者弁済」です。これは、加害者の日本企業に賠償を命じた韓国の最高裁判決に反し、なによりも日本の植民地支配の加害責任を隠蔽するものです（23年3月7日のブログ参照）。
さらにこの「政治決着」は、米バイデン政権の意向に従って、日韓米の軍事同盟関係を強化するための布石にほかなりませんでした（23年3月18日のブログ参照）。
この「政治決着」を踏まえ、日韓米首脳は23年8月19日、米キャンプデービッドで会談し、「日米韓の安全保障協力を新たな高みへ引き上げる」という「共同声明」を発表したのです（23年8月23日のブログ参照、写真中）。
尹氏が進めてきた「韓日関係の改善」とは、日本の植民地支配の加害責任を棚上げし、米政権の意向に従って、3国の軍事協力を強化することにほかなりません。
これが「改善」と言えるでしょうか。
「日韓関係の改善」とは、なによりも主権者である両国市民の判断によるべきです。
尹氏が強行した「元徴用工問題」の「政治決着」が、被害者や遺族はじめ韓国市民の厳しい批判を浴びていることは韓国メディアが報じている通りです。
今回の尹氏の「非常戒厳」宣言の根底には、10％台という極めて低い支持率があります。その超低支持率は、「元徴用工問題」の「政治決着」や対米追随の軍事政策が韓国市民の支持を得ていないことの表れにほかなりません。
「非常戒厳」を許さなかった市民の力によって（写真右）、尹氏は「死に体」となりました。これを機に、日本、韓国双方が、日本の植民地支配の加害責任を明確にした「元徴用工」＝強制動員・労働被害の解決、軍事力・軍事同盟によらない平和の構築へ舵を切り直してこそ、真の「日韓関係の改善」へ向かえるのではないでしょうか。