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投稿者:吉原 真次

戦禍は終わらない/シベリア抑留死亡者名簿読み上げを終えて

 敗戦後の1945年、スターリンが元日本軍兵士や民間人をシベリア等に抑留する命令を出した8月23日から26日まで、シベリア抑留体験者の故村山常雄さんが10年の歳月をかけて作成したシベリア抑留死亡者名簿に記された4万6306名、一人一人の名前を48時間かけて読み上げる集いが開催された。今年で読み上げは5回目となるがコロナ禍の2020年から始まった集いは回を追うごとに参加者が増え、最初の40数人から今年は9歳から99歳の抑留体験者と在日ウクライナ人、ロシアからの参加を含めた112人となった。私が初めて集いに参加した2023年には24・25日の2回にわたり計1000人の名前を読み上げることができたが昨年には1回の500名となり、今年は一人30分500名の枠では収まり切れず15分250名の読み上げとなった方もいた。これは全て実行委員会の努力の賜物である。

 昨年からユーチューブで配信される読み上げを視聴し、その度に死亡者一人一人に語りかけるように名前を読み上げる参加者の誠実さと読み上げ後の感想に胸を打たれている。ある参加者は名前を読み上げた後に「私のおじさんです。」と呟き、読み上げをきっかけに様々な資料を集めておじの死について知ることができたと読み上げ後に報告したが、私が読み上げの前に話を聞いた方も同じで、その方は抑留中に亡くなった伯父さんをお母さんから教えられたことをきっかけに軍歴簿をはじめとする様々な資料を集めた。話を聞くきっかけとなった今年の年賀状には「伯父を呼び戻してくれたように思えた。」と記されていたが、読み上げた人もおじさんと亡くなられた方々を呼び戻す気持ちで参加したに違いない。生前に村山常雄さんが言っていたように無名戦士という名はなく、一人一人に名前を付けた父と母、学友や職場の同僚そして恋人さらに家族がいたことを忘れてはならない。

 姿を見たことのない伯父さんのことを思う人がいるのに実際に兄さんを亡くしたお母さんの嘆きは大きかっただろう。読み上げの後でいただいた手紙に「母はあまり伯父のことを語らなかった」と書かれていたが、オランダ軍に抑留された時のことを兄と私には一切語らず世を去った父の様に悲しみが抑えきれなかったからと思う。今『硫黄島上陸―友軍ハ地下に在リ』(酒井聡平著、講談社)を再読しているが、その中に70歳を超えて硫黄島で戦死した父の遺骨収集団に何度も参加する人が出てくる。父を亡くしたその方は戦後がむしゃらになって働いたが、抑留中に一家の大黒柱の父親を亡くした家族、両親を失い天涯孤独となった孤児たちの生活の困難さは想像を絶するものがあっただろう。戦争が終わっても戦争がもたらした禍・戦禍は終わらずに世代を超えて引き継がれていく。だからこそ戦争を引き起こしてはならず、戦争を起こさないことが最大の慰霊になると思えてならない。その思いを胸に刻み来年も読み上げに参加したい。(9月6日)


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