本文の先頭へ
投稿:追い詰められるイスラエル、アメリカ、ドイツ
Home 検索
投稿者:吉原 真次
追い詰められるイスラエル、アメリカ、ドイツ

 ハマス、イスラム聖戦をはじめとする抵抗勢力が敢行したイスラエルへの越境攻撃「アクサ―の嵐」から8か月が過ぎた。幾度打ちのめされようとも立ち上がる抵抗勢力の底力を思い知らされたイスラエルはパレスチナ自治区ガザ地区(ガザ地区)、パレスチナ自治区西岸地区(西岸地区)でジェノサイド(大量虐殺)を行っている。

 6月12日にガザ保健省は3万7551人がイスラエル軍の攻撃により殺されたと発表した。5月12日の発表によると負傷者は7万8755人、同11日の発表では行方不明者は1万人を超える。

 行方不明者の大半がイスラエル軍の攻撃で破壊された建物の瓦礫に埋もれていることを考えれば、人口約220万のガザ地区で5万人近くのパレスチナ人が殺されたことになる。死者の約70%は女性と子供だが、行方不明者も同様で6月24日に国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は少なくとも4000人以上の子供が瓦礫の下に埋もれている可能性があると発表している。
 
 生き残った住民たちは飢餓に苛まれる日々を送っている。6月26日発表の国連が支援する「総合的食料安全保障レベル分類」の最新報告書は、ガザ地区で壊滅的な飢餓に直面している人は3月報告書の67万7000人から49万5000人に減少したが、依然としてガザ地区で壊滅的な飢餓の危険性が継続していると警告を発し、6月初旬に世界保健機関は栄養不良で32人が死亡しうち28人が5歳以下の子供だと発表した。
 
 イスラエル軍の攻撃によりガザ地区住民の社会・経済基盤は大きな打撃を受けた。5月2日に公表された国連開発計画の試算によれば、昨年10月からガザ地区で始まった戦闘による経済的損失は半年間で69億ドル(約1兆1000億円)、戦闘が9か月に及んだ場合には76億ドルに拡大して戦前の状態に戻るのは最短で2040年になり、戦闘開始前の経済予測との比較では2024年に域内総生産の約26%を失う恐れがあり、失業率は約26%から約46%に悪化して貧困に喘ぐ人が167万人増えた。また5月2日、国連訓練調査研究所はガザ地区で学校の85%が砲弾の直撃による破壊や損傷により何らかの被害を受けているとの分析を発表した。

 西岸地区と東エルサレムでは、イスラエル軍・入植者により6月6日までに125人の子供を含む513人のパレスチナ人が殺され、住宅が破壊されるもう一つの戦争が行われている。西岸地区の約61%を占めるC地区では家庭や学校等の建築に際してイスラエル軍の許可が必要だが、ほとんど許可されず、さらに2018年の布告により異議申し立てがなければ司法手続きを省略してイスラエル軍は「違法」と見なす建築物を撤去できるようなった。

 国連等は「アクサ―の嵐」以降5月下旬まで推定でガザ地区では4000人、西岸地区では9000人以上のパレスチナ人がイスラエル軍に拘束され、劣悪な環境の下で性的な暴行や銃や棒による殴打等の拷問、犬をけしかけるなどの脅迫を受けているとする報告書を公表して徹底的な調査と再発防止の為の措置を求めた。

 ガザ地区と西岸地区で行われているイスラエル軍の蛮行は植民地主義の結果だ。パレスチナ人を殺しつくし、経済・社会的基盤を破壊しつくし、暴行と脅迫を加えて屈服させるやり方はかつて日本と欧米諸国が行った植民地支配と同じ、その背景には力で奪った物は力で奪い返され、パレスチナ人に課した血の債務が今度は自分たちに及ぶという恐怖がある。さらにユダヤ人のパレスチナ入植とイスラエル建国=パレスチナ人にとってナクバ(大災厄)、そして今に至る歴史を考えれば帝国主義の結果だ。

 イスラエルの蛮行はアメリカとドイツにより支えられている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究はイスラエルに供給される弾薬の7割以上がアメリカ、3割弱がドイツから提供されて両地区での殺戮に使われていると公表している。

 しかしジェノサイドを行うイスラエル、イスラエルを軍事的に支えるアメリカとドイツは追い詰められている。4月9日、トルコ政府はイスラエルに対して軍事転用が可能な鉄鋼、アルミニウム等の工業製品54品目の輸出を停止した。さらに5月2日、トルコ商務省はガザ地区での人道的悲劇の悪化を理由にイスラエルとの輸出入を全面的に停止する経済制裁を行うと発表した。トルコ政府の統計では2023年の両国の貿易額は68億ドル(約1兆円)、約76%がトルコからの輸出でイスラエルにとってトルコは国別で5位の輸入国、品目では輸入額の27%を占める金属の他に農産物や建築資材、自動車、電化製品と多岐にわたり、イスラエルで使われる電化製品の大半はトルコで製造され、セメントの40%をトルコに頼っている。

 イスラエルは貿易停止の他国への波及を懸念しているが、5月1日に比較的親イスラエルとされたコロンビアが国交断絶を宣言し、6月5日に商工・観光省がイスラエルへの石炭輸出制限を検討していると発表した。コロンビアはイスラエルにとり最大の石炭供給国でその影響は大きい。他国から代替品を輸入することはできるが、価格も高くなり輸送費用も余計にかかってイスラエルが受ける経済的な打撃は大きい。

 5月20日、ICC(国際刑事裁判所)のカーン主任検察官は戦争犯罪や人道に対する容疑でイスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相に逮捕状を請求した。ICCは2021年にパレスチナ自治区での戦争犯罪にICCの管轄権が及ぶと表明しイスラエルの戦争犯罪について操作を開始、「アクサ―の嵐」以降、カーン検察官はイスラエルとハマス双方の戦争犯罪についても捜査の対象になるとの考え方を示した。4月29日にはICCの検察官がガザ北部ガザ市のシファ病院と南部ハンユニスの病院の関係者から事情聴取を行ったが、ハンユニスのナセル病院では集団墓地が見つかり400人近くの遺体が回収され、その中には手錠をかけられた遺体もあった。集団墓地はシファ病院でも見つかったと伝えられている。カーン検察官はハマスのシンワル指導者をはじめとする3人にも逮捕状を請求する誤りを犯したが、イスラエルにとり大きな打撃になったのは間違いない。

 逮捕状請求に対しネタニヤフ首相は「歴史的暴挙」、バイデン米大統領は「言語道断」と非難したが、これは殺人犯とその幇助者が裁判官を脅迫する言語道断の歴史的暴挙に他ならない。

 5月24日、ICJ(国際司法裁判所)はイスラエルに対しガザ南部ラファへの軍事攻撃停止を勧告した。ICJは1月にイスラエルに対しジェノサイドを防ぐ対応を求め、3月にガザ地区の飢餓を防ぐ為の早急な対応を採るよう命じたが、今回の勧告は3度目でラファ検問所の封鎖解除を命じる踏み込んだ内容となっている。

 5月10日、国連総会(193ヵ国)は緊急特別会合を開いてパレスチナの国連正式加盟を支持し国連安全保障理事会(安保理)に加盟の再検討を求める決議を日本も含めた143ヵ国の賛成で可決した。同22日にスペイン、ノルウェー、アイスランドがパレスチナを国家として承認すると発表したが、およそ140ヵ国がパレスチナを国家として承認しているにもかかわらずオブザーバー参加に止まるパレスチナにとって正式加盟への後押しとなる。

 この間、アメリカとイスラエルとの齟齬とイスラエル国内の対立が明らかになった。6月10日に安保理はガザ地区での即時停戦を支持する決議を採択したが、この背景には5月8日にイスラエルへの弾薬供給を一時停止、同31日の記者会見ではイスラエルの使い走りとなり停戦案を明らかにしたにもかかわらずイスラエル側から否定的な反応を返されたバイデン米大統領、そしてアメリカの焦りがある。6月19日にイスラエル軍のハガリ報道官がイスラエルのテレビ局の取材でハマスは人々の心に根付いており、ハマスを根絶できると思うのは誤りとする考えを示したが、これはハマスの殲滅を目指すネタニヤフ首相の考えとは大きく異なるものだ。

 「アクサ―の嵐」以降、アメリカの大学ではパレスチナを支持するデモが行われてきた。学生たちは今年4月下旬から即時停戦と大学基金の投資先の公表、イスラエル軍が使う武器を製造する企業への基金の投資停止を求めて構内を占拠した。占拠活動は多くの市民の共感と参加を呼んで4月30日、ニューヨーク市はコロンビア大学、市立ニューヨーク大学で逮捕したデモ参加者282名の約半分が市民と発表、私立ニューヨーク大学では逮捕から学生を守る為に多数の教職員が手をつなぎ「人間の鎖」を作り、5月15日にコロンビア大学教職員が開催した「人々の卒業式」には学生等550人が参加した。学生たちの占拠行動はかつての公民権運動、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」と同様にアメリカのあり方を問うものだ。

 もう一つの幇助者ドイツも追い詰められている。4月30日、ICJはドイツに対し軍事支援停止等の暫定措置を求めるニカラグアの請求を退けたが、ドイツが求める訴訟の全面的取り下げを拒否して引き続き双方の主張を審理することを認めた。

 蛇足だが、ハガリ報道官の話で50年前に大学の中国語の授業で聞いた教授の話を思い出した。戦前に研究の為に留学、現地の中国人学生と親しくなり当局に目をつけられて逮捕の危機に瀕した彼に学友はこう言った。「『私は八路軍(華北で活動していた中国共産党軍)だ!』と叫んで街中に飛び出しなさい、必ず誰かが君を助けてくれます。」             (7月3日)

Created by staff01. Last modified on 2024-07-03 22:26:08 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について