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レイバーネットTV206号詳細報告〈どん底から立ち上がった強さ―家族と仲間の支えがあってこそ〉
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 放送が始まった直後、夫を失った当事者がなんでこんなに明るく笑顔で話せるのか不思議だった。でも聞くうちに、どん底まで落ちたところから立ち直れたのは、当時6年生の息子の一言であり、仲間の支えだった。そして今は、同じ思いの人々を同志として共に…という希望に向かう笑顔だった。

 報告:笠原眞弓

<郵政職場に蔓延する「過労死・自死・パワハラ」〜郵便局員過労死家族会は訴える>

2024/10/09 レイバーネットTV第206号

視聴サイト(YouTube配信 https://youtube.com/live/KkTGLPBDwm8?feature=share

出席者:小林明美:郵便局過労死家族とその仲間たち代表(当事者小林孝司さんの妻) 倉林 浩:同事務局長 青龍美和子:小林孝司さん過労自死裁判担当弁護士

◆最初に、9月19日郵政本社前でのアピール映像が流れた。  小林明美さんの夫孝司さんの事件解決後(2010年12月に自死 解決は2023年)にも次々と亡くなった職場の仲間と、その働く現場の様子をマイクに向かって力一杯訴えている仲間たち。

◆「郵便局過労死家族とその仲間たち(略称:郵便局員過労死家族会)」発足の経緯 ・近年の過労死・自死の紹介

 郵便局員過労死家族会が把握している突然死、自死の事例を前後の事情を交えて、2001年以降の中から、25例をピックアップして紹介していく。  1990年代後半から非正規雇用者が40万人の半数にまでになり、犠牲者も非正規にも広がったこと、「トヨタ方式」が2003年に導入された以降は、地方にも見られてきたという。  ここで述べられた方たちは、ほんの一部であり、訴えている方もさらに少ないとか。

◆典型的事例の埼玉新都心郵便局事件を解説 ・トヨタ方式とは何か  2023年に導入されたトヨタ生産方式とは、全ての作業から「無理・無駄・むら」をなくすということで、ストップウォッチで作業の管理も平然と行われた上、この3つに反した労働者を「お立ち台」に上げて全出勤者の前で管理職がつるし上げた。  それに加え、トヨタ生産方式では、全ての作業を「立ってする」として椅子を撤廃した。それによって出勤すると、1500通ほどの郵便物を配達順に仕分けする作業から立ちっぱなしとなり、そのまま配達に出ていた。

 小林明美さんは夫孝司さんの自死の原因は「勤務先郵便局にある」と気づく

 当時47歳の小林孝司さんは、業務が厳しいと有名な「さいたま新都心郵便局」への転勤に戸惑っていた。移動後も「トヨタ生産方式」になじめず、4年間に3回の病気休暇を経、2010年12月8日に職場4階から飛び降りて亡くなった。  亡くなった当時は勤務が辛いのを分かっていたのに、小学生3人の子どもがいるので「辞めていいよ」と言えず「ごめんなさい」と自分を責めていたが、時と共に、転勤してから病気になったのだから原因はさいたま新都心郵便局だと思い至った。そこで郵政産業労働者ユニオンの倉林さんと繋がった。最初に相談した弁護士には、本人が病気で何回か長期休暇をとっているので、形の上では長時間労働というより、メンタル面での闘いとなるため、それでは勝利は難しいということで断られた。

・「お父さんはうちらのことを見捨てたんだよ」思わず出た言葉に子どもは……

 頼みの弁護士に断られ、つい子どもに漏らした言葉に当時6年生だった上の子が「なんでそんなこと言うの?お父さんがかわいそう!謝ってよ」と半泣きで抗議をされる。確かに、その通りなのだが、自分でもとても辛い時期だったと振り返る。

◆「安全配慮義務違反」裁判で勝利的和解

・人のつながりで新たな局面へ

 そんな中で、医師の過労死家族の会の方と出会い、小林弁護士、青龍弁護士と繋がっていく。「安全配慮義務違反」での裁判へと進み、勝利的和解となる。その後労災へと進む。労基署段階ではいろいろあったが、結果的には労働局での労災認定を受ける。

・「決してお父さんが悪いわけではない」との謝罪の言葉

 一番うれしかったのは、日本郵便の管理者が弁護士と共に来訪した際「決してお父さんが悪いわけではない」と謝罪したこと。その言葉を子どもたちに伝えられたことだったという。一人ではここまでこられなかったと、しみじみ語った。

◆精神障害での労災を勝ち取るのは難しかったが(青龍弁護士)

 弁護士1年目の新人の時に、担当した案件だという青龍弁護士は、当時を思い出して語る。先ずしたことは「証拠保全」。突然会社に行ってお立ち台やその他、証拠になるものを抑えた。その後会社はお立ち台をやめる。2013年12月の時効ギリギリに提訴。その後の社前行動など様々な行動の中で、社員の中から情報が集まった。

 2016年に和解成立。その後労災手続きを本格的に始め、本社人事部長が謝罪した。

◆裁判中もその後もなくならなかった悲劇を防ぐために

 裁判中も和解後も新たに発生する事例に、そのようなことを防ぐ回路は出来ないものか相談していたと倉林さん。それが今回の「郵便局過労死家族とその仲間たち」の発足となったという。

◆ジョニーと乱のコーナー

〇川柳 過労死もパワハラもノー声束ね   乱鬼龍

    精も根も尽きた職場に朝が来る   奥徒

   ○ジョニーHの歌のコーナー

    憲法21条27条11条を歌う

◆なぜ突然死や自死が民営化後増えたのか

・民営化が職場環境をどう変えたか (倉林さん)

 公共企業体だった郵便局職場が、2001年から2007年までに段階的に民営化された。それと歩調を合わせるように突然死や自死が各地で発生。同時に雇用構造自体が変り、半数が非正規雇用となった。

 働く者は正規、非正規に関係なく、郵便局の仕事として「きちんと相手に届ける」という使命感が強調される。正社員の場合は、守られている処遇も非正規職員は、期間が来ると雇止めになる不安や、ミスによる賃金査定が低くなるという規則があり、そのプレッシャーで緊張感にさらされていた。  「ミスるな・事故るな・残業するな」というスローガンの下、事故があっても職場環境の見直しというより、個人への責任追及となっていた。

・民営化によって個人の尊厳より求められるのは会社の利益 (青龍弁護士・倉林さん)

 郵政だけではないが、民営化されると利益を上げることが最優先になる。そのためには少人数で安く働かせるという方向になる。

 倉林さんは続けて、小林さんの事件以降、ハラスメント対策の冊子も発行されている。証拠保全のために当該職場に突然乗り込んだことで、翌月からお立ち台はなくなった。定例記者会見では、社長は「つるし上げはあってはならない」と表明している。なのに、実態は変わらないという矛盾があると言う。

・ジェンダー問題に言及

 男性が多い職場だと青龍弁護士。男性は小さいときから競争させられてきて、その中でどう勝ち残るかという意識がある。そういうジェンダー的な構造が背景にあると思うと。

 倉林さんも、確かに女性も役職者になっているが、非常に苦労しているということは、よく分かると。

◆会場・視聴者からの質問

問:官僚的で軍隊そのもののようだが…。古い男性中心の社会が残っていると感じた。郵政は有名な労組、全逓があったが、いまどうなのか?

答:倉林さんは、1978年頃、郵便局に入局したが、当時定年制が敷かれていなくて、軍隊経験もあるような80歳くらいの先輩もいたし、多少歩行困難な人もいた。男女雇用機会均等法の施行前なので、全くの男職場だったが、内容が豊かだった。当時は労組がしっかりしていて、日刊の組合紙が門前で配られていた。そのため、管理者と労働者間でのいい意味での緊張感があったという。今でもそういう職場にしようと頑張っている組合はあるが、実態としてはこのような事件が起きてくる。

問:郵政は待遇改善を一番進めているが、その影響はあるのか?

答:現在は、非正規の仲間が労働組合の担い手になってきている。小林さんの時も、社前行動・裁判傍聴でも非正規の彼らが、自分のこととして集まってきていた。

問:今後、どう取り組んでいくか 答:「郵便局員過労死家族会」は4月1日に発足していたが、正式発表は9月19日だった。そしてすぐに3件が寄せられている。しかも、本人あるいは、そのご遺族を想定していたにもかかわらず、亡くなった方の職場や、自分は転職しが、残った友人が被害にあっているから資料を…など当事者以外の方の相談が入っている。しかもその方は、遺族に訴訟を起こせというのではなく、自分ですら友人の死に動揺して、職場を休んだのだから、どんなにご遺族は辛いだろう。だから「こういう場があり、悩みを聞いてくれますよ」と伝えたいということだった。

問:訴訟が起きた時に、どういう準備が必要か。 答:なんといっても「証拠の保全」。ハラスメントは直接の証拠が残りにくいので、なるべく音声の記録や直後の詳細なメモ、日記など残すようにと青龍弁護士。例えば小林さんの場合は、連日遅い時間にLINEで「帰るよ」と家族に送っていた。それらも証拠になる。

問:小林さんは、自分が変わったそうだが、どういうときにどのように変わったのか。 答:裁判や活動を通して、大勢の人が顔出しして頑張っている。そういう姿を見たとき、私も堂々とみんなに理解してもらいたいという気持ちになって行った。子どもに相談したところ「何も悪いことをしている訳ではないのだから」と言ってくれたので、こういう場にも出させていただくようになり、たくさんの人に応援してもらっていると思えるようになった。

問:一方でSNSでの悪口などは? 答:見ないようにしている(笑)。以前に倉林さんに「いう人はいくらでもいる。そういう人は自信がないから言う」と言われていたので、気にしていません。

問:トヨタ方式は、今でも行われているのか? 答:1、徹底的な時間管理、2、立たせて作業をする、3、責任追及をするこの3本柱が根幹。導入の際、何年間はトヨタの常駐部隊が張り付いているたが、今は撤退した。個人責任追及のお立ち台は、撤去。立作業は99%廃止された。ただ残っているのは、職場風土としての個人責任追及。そのことからも、人々の「意識」を変えるのは困難だということが分かる。とはいえ、必ずやれると思っている。

◆出席者からの一言 青龍:労働組合の枠を超えての支援が集まって勝利した例だったと思う。力を寄せて集団で闘うことで成果も上げられるし、本人の闘い続ける原動力にもなると実感した。郵政関係7で困っていることがあったら、この家族会の窓口に相談してほしい。

◆小林:当事者や遺族は孤独を感じる。たくさんの方に支えられて闘ってきて、一人ではないと思えるようになった。今苦しんでいる方も相談に来てほしいと思う。

◆倉林:二人の言葉に尽きる。「郵便職員過労死家族会」で検索すれば、HPに行きつきます。何も「全て闘って勝ち取る」を目標にしていない。当事者の方が、ひとまず「孤立していない」と実感してほしい。そこからどうしていくかが始まる。  郵便事業という枠組みを超えてキャッチ出来ていない問題まで解決していきたい。ひょっとしたら同様の問題が、他でも起こっているかもしれない。どんな雇用形態の方でも、あるいは管理職の方でも、我々はすべての垣根を取り払って話を聞いて解決に向けて機能していきたい。


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