家事労働者過労死訴訟が逆転勝訴/労働条件の悪化に歯止めかける | |
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竹信三恵子(ジャーナリスト) 9月19日の家事労働者過労死訴訟の高裁判決は、1審 判決を覆し、全面勝訴ともいえる素晴らしいものになりました。2013年に 『家事労働ハラスメント』という本を書いて以来、家事労働の社会的な意味の重 さと怖さに強い関心を抱き、この裁判も支援してきました。そんな立場からも本 当にうれしく、原告の方々の踏ん張りと、弁護団の方々の精緻な立証力、支援労 組の粘り強さ、そして「トラツバ」の再来のような明快な水野有子裁判長ほか裁 判官 のみなさんの心意気に感謝します。 この事件は、1週間ほど個人家庭に寝泊まりして、朝5時から夜12時ごろまで 症状の重い高齢者を介護しつつ、その家族のために家事労働も担っていた60代 の家事労働者の女性が、勤務明けに急死した事件です。遺族の過労死申請が却下 され、その処分取り消しを求めた地裁判決は、全面敗訴となりました。 理由は、女性が家事サービス会社に雇われて担っていたのは介護部分だけで、そ の労働時間は1日4時間半程度にすぎず、労災の要件となる長時間労働を大幅に 下回る、というものです。残りの家事労働は家庭と個人契約を結んで家庭内で働 く「家事使用人」としてのものであり、労基法116条2項では、「家事使用人」 は労基法の対象外となっているため、労災の対象にならないというのでした。 一方、高裁判決は、女性の労働実態を丹念に検証し、家事と介護はこの場合、混 然一体となっており、一体の労働として家事サービス会社に雇われていため、会 社の仕事(つまり労基法の対象内)として、労災の対象になるとし、仕事の内容 も、被介護者と同室で寝泊まりを続け、個室がないため空いた時間も台所の椅子 で休むなど休憩がほとんどない過酷なものであり、その過酷さからも労災を引き 起こすには十分、として労災不支給処分を取り消しました。 1審は、家事なんだから家事使用人、といわんばかりの形式的な認定で、また、 家事・介護労働の負担をきわめて軽く見積もるものでした。それを、実態に即し て、しっかりと見直した判決でした。今回は116条の是非に踏み込むまでもな く、本来は116条の対象にならないような労働をその対象にしていたずさんさ を突いたものでしたので、116条の是非にまで言及する必要はなかったわけで す。言い換えれば、116条を放置すると、こうした誤った拡大解釈を通じて、 介護労働と家事の混合労働を任される家事労働者の労働条件を引き下げることに も利用されかねないということです。 このところ、介護と家事労働を一緒にして家事労働者に丸投げするような働かせ 方が増えています。介護保険では足りない部分が広がり、それが、こうした「家 政婦」の家庭内介護ニーズの拡大につながっているようです。そこでの労働条件 の悪化に歯止めをかけた点できわめて重要な判決ですし、さらに、116条の撤 廃、さらにはILOの家事労働者条約の批准要求にもはずみをつけるものと言えま す。 長くなりましたが、今回はこの程度にとどめ、今後、詳しい分析・論評をまとめ たらお知らせします。 Created by staff01. Last modified on 2024-09-22 10:46:24 Copyright: Default |