なぜ、ブラジル最高裁はXを禁止したのか?/超富豪イーロン・マスクの野望 | |||||||
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なぜ、ブラジル最高裁はXを禁止したのか?〜超富豪イーロン・マスクの野望印鑰 智哉(いんやくともや・ジャーナリスト)
ブラジル最高裁判所がブラジルにおけるX(Twitter)社の操業を禁止し、ブラジルでのXの利用は8月30日に禁止となった。VPNを通じたアクセスも禁止され、VPNを使ってXを使えば5万レアル(今日のレートで約126.5万円)の罰金が科される。個人的にもブラジルの民衆運動の動きをXを使って追ってきたが、現在は海外に拠点のある団体を除き、投稿は止まった。今、XなどのSNSがどのような影響を社会に与えているか、改めて振り返る必要がある。 なぜ、ブラジル最高裁はXを禁止したか? 直接的には偽情報を出し続けるアカウントの規制の要求にX側が一切応じてこなかったことで、ブラジルの法制を無視したとして禁止されることになったと報道されているが、その情報だけでは、問題の全体像は見えてこない。 イーロン・マスクがTwitterを買収して以降、イーロン・マスクがTwitterをどのように位置づけてきたかをみるべきだろう。イーロン・マスクはブラジル政権だけでなく、隣国ボリビア政権に対してもXを使って攻撃をしかけている。 ボリビアはイーロン・マスクが所有するテスラ社が喉から手が出るほどほしがるバッテリーの原料となるリチウムの最大の埋蔵量を持つ。ボリビア政府はその乱開発には応じようとしない。イーロン・マスクは彼の邪魔をするものは誰でも攻撃するとXに投稿している。政権が覆れば、彼は自由にボリビアからリチウムを搾り取れるからだろう。安く搾り取られて荒れ果てた荒野だけが残るというシナリオはボリビア政権もボリビアの民衆も望んではいない。 ボリビアだけではない。ブラジルでのアマゾン破壊も止まらない。そこで威力を発揮しているのがイーロン・マスクのスターリンクだ。非合法の採掘業者がこのスターリンクを使って、アマゾンの先住民族保護地域で盗掘行為を行っている。 南米大陸の地下資源を自由にしたいイーロン・マスク、それに対して生態系やそこで生きる人びとの権利を守る政権が彼にとっては邪魔。だからXを使って、攻撃する。でもそんなことをすればXというサービスの評判は地に落ちる。実際、Xの広告収入は激減している。イーロン・マスクにとって、Xの採算などどうでもよくて、Xは自分の他の事業の利益を拡大するための道具に過ぎない。メディアとしてのXの発展なども考えていないだろう。 そして2023年1月に起きたブラジル連邦議会、大統領府、最高裁判所への襲撃。Xはその扇動の場となった。 他国の民衆が選んだ大統領を、米国の一人の超富豪が倒そうとする、こんなことが人類史の中であっただろうか。 しかし実はXだけではない。そもそもボルソナロが大統領になったのもSNSの存在を抜いては考えられない。かつて労働者党政権は貧困者対策を掲げ、飢餓ゼロを大きな政策目標に掲げた。それは長く同党が掲げていた政策であったが、政権を取ると数々の貧困者対策を打ち出し、飢餓人口が消滅して国連FAOからも表彰されるほとの成果を上げた。直接選挙で行われる大統領選挙に民衆側の大統領が選出されるまでに至ったブラジルだが、しかし、富裕層が保持する権力は強大で、富裕層からの増税などには踏み込めなかった。貧困層は生活レベルが改善したが、中間層は変わらない。その矛盾に労働者党政権への憎悪を募らせる偽の情報がWhatsAppやFacebookを通じて大量に流された。これがなければそもそもボルソナロが大統領に選出されることもなかっただろう。 ボルソナロ前政権が生まれたのは人類の不幸だった。アマゾンの森林破壊は急ピッチで進んだ。アマゾン森林の砂漠化・サバンナ化が懸念される中、保護政策を強化しなければならない決定的な時期に、その逆に森林を破壊し、農地に転換したり、鉱山資源を採掘するという最悪の破壊行為がボルソナロ政権下で行われたのだから。この夏、アマゾンでは日本の農地の半分におよぶ森林が消失してしまったが、もしボルソナロ政権が誕生しなかったら、状況は大きく違っていただろう。ボルソナロのせいで人類の生存はさらに危険になった。 Twitterは画期的なメディアだった。スマホ一つさえあれば情報発信ができる。ブラジルは社会的格差が大きく、特に貧困層が住むファベラは麻薬組織に牛耳られ、軍警察と麻薬組織の両方に住民は苦しめられる。僕自身、リオデジャネイロに滞在していた1990年代前半、住んでいたアパート近くで、夜通し銃撃の音が鳴り止まない夜もあった。そこで何が起きているかは報道されず、翌日の新聞で何人死んだと報道されてお終いだった。しかしTwitterの登場で、それが変わった。住民が情報発信できるようになったからだ。 小さな市民団体がつながり、大きなうねりを作り出していく、そんな動きも地球の裏からも知ることもできた。Twitterなしにそれは不可能だった。こんな画期的なメディアが誕生したのは初めてのことだろう。 しかし、このすばらしいメディアの命脈も長く続かなかった。市民にとっては重要でも、大企業にとって都合の悪い情報を発信することには制約が設けられる一方、市民を惑わして企業を利するアカウントは野放しになった。そしてイーロン・マスクが買収して以降はXは、よりヘイトの場となった。 ナチスドイツは少数であったにも関わらず、あたかも自分たちが多数派であるかのように装うことでその影響力を拡大したと言われるが、このXも同様に、数少ない少数の差別者がアカウントを多数作って、マイノリティを攻撃することで、差別が当たり前であるかのようなおぞましい言論空間を作り出した。 社会にはいつも、ヘイトに与するよりも与さない人の方が多いと思うが、ヘイトしだした人を止めようと動ける人は多くない。そんな空間ができてしまうと、多数は黙ったままになる。その結果、マイノリティはさらに孤立し、差別・ヘイトが蔓延し、ヘイトが普通という恐ろしい場へと変わっていってしまう。実際、影響され変わっていく自分の知人を見かけると、本当に暗澹たる気分にならざるをえない。 だからこそ、このようなプラットフォーム運営者は、そのような投稿を止めさせなければならないのだが、イーロン・マスク自身がヘイト投稿を続けるのだから、X社が止めることは期待できない。 さらに、イーロン・マスクによる技術者大量解雇でXのバグは放置され、Xのイノベーションも止まった。広告収入も激減し、Xのサービスはさらに悪化する以外ないだろう。もはやXは死んだも同様だ。 ブラジル最高裁が全会一致でX禁止を決めたことはこうした背景を考えていけば合理的な判断であったと言えるだろう。しかし、Xで個人的な関係、さらにはビジネスを築いてきた人にとっては、それがいきなり消失するということになる。自身が築いた社会的関係を奪われた人にとっては理不尽な決定に感じられてしまう。実際、ブラジルでは半数を超える人がこの決定に不満で、この決定の提案を行ったアレシャンドレ・ジ・モライス判事が攻撃されている。その攻撃と共にまたボルソナロ一派の政治勢力が息を吹き返している。もはやこれはX社の問題を超えた政治問題になっている。 しかし、死んだものは死んだのだ。もはやXを使い続けることには合理性がないし、正当化が困難な状況になってきている。それではどうするのか? ブラジルではこの決定後、旧Twitter社の技術者が立ち上げたBuleskyに多くの人が移行している。ブラジルだけでなく、世界の多くの市民団体もBlueskyを使い始めているようだ。 ということで、TwitterからBlueskyへの移行を今後、今後進めることを考えたいと思っている。Twitterでしかつながっていない人たちのことを考えると、すぐに断ち切ることはできないけれども、時間をかけて移行したいと思う。 *本記事は、印鑰さんのFBから転載紹介しました。 Created by staff01. Last modified on 2024-09-15 22:30:19 Copyright: Default |