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米国労働運動 : 移民労働者の雇用の場としての労働者協同組合
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【解説】日本でも労働者協同組合法の施行により労働者協同組合の設立が続いているが、アメリカで移民労働者の雇用保障の手段としての役割が注目されている。アメリカで一番労働者協同組合が集中しているニューヨーク市ブルックリンの状況を報道する記事を翻訳した。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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移民労働者の雇用の場としての労働者協同組合

2024年8月27日
タレック・サギー
(フリージャーナリスト/レストラン機会センター・ニューヨークのオーガナイザー/クレイグ・ニューマーク・ジャーナリズム大学院生)


*ブルックリンで保育労働者協同組合を立ち上げたマルゲリータ・バスケス理事長 (左)

 就労許可を持たない移民は、どうすれば搾取されることを避けて、労働条件を引き上げる集団的な力を持ち、自主管理できる仕事を見つけることができるのだろうか?ニューヨーク市ブルックリンのサンセット・パークで始まったある運動が、その答えを提示してくれるかもしれない。サンセット・パークは、全米でも有数の労働者協同組合が多い地域である。

 センター・フォー・ファミリーライフはこの地域で始めた労働者協同組合であり、すべての組合員に標準的かつ合法的な賃金、事業の経営における発言権、勤務スケジュールの管理権を保証している。

「在留資格も宗教も問いません。私たちは働きたい組合員を求めています」と、ビヨンド・ケア・チャイルドケア協同組合の創立メンバーで理事長に選出されたメキシコ出身のマルガリータ・バスケスは言う。

 ニューヨーク市が雇用を禁じられた人々の流入を受け入れようと苦闘するなかで、労働者協同組合は生活できる収入を得、富を築く方法を提示している。

「以前は12時間働いて収入は1日40ドルでした」と、現在家事代行サービスを行うブライトリー協同組合の組合員であるマージュリ・アバート・ペラルタは言う。「労働者協同組合のおかげで、アメリカで安心して暮らせます。」

虐待を防ぎ賃金を引き上げる

 ペラルタは労働者協同組合のことを知ったとき、家庭内暴力のシェルターで暮らしていた。20年前にニカラグアから入国して以来、夫と息子と3人でやっとの思いで暮らしてきた彼女は、もはやどんな形の虐待にも耐えられなかった。

「毎日働かなくてもいい、命令されて働くこともない、と言われたんです」とペラルタは言う。彼女は息子と過ごす時間を増やせるというアイデアが気に入ったのだ。移民の家事労働者は一般的に、虐待的な環境と最低賃金以下の賃金に直面している。

 労働者協同組合の設立には1年間のトレーニングと準備が必要だった。しかしペラルタは、より高い賃金、勤務スケジュールの管理、労働者協同組合を通して享受するコミュニティは、その努力に値するものだったと言う。

「同僚との関係において、より尊重されていると感じます。虐待的な労働条件を経験した場合、労働者協同組合は私をサポートしてくれます。例えば、弁護士を雇うこともできます」と彼女は語る。「労働者協同組合は最近到着した移民のための解決策になるかもしれない。しかし、そのためには主体的な関わりが求められる」と彼女は言う。

450の雇用を作る

 労働者協同組合とは、労働者一人ひとりがオーナーとなり、事業の意思決定に対等な発言権を持つ事業形態である。アメリカには約1,000の労働者協同組合がある。通常、ハウスクリーニングや保育のようなサービスを提供する労働者協同組合では、労働者は顧客から直接報酬を受け取る。組合員は労働者協同組合を通じて顧客を見つけ、労働者協同組合は倫理的な労働基準を義務づけ、妥当な賃金で契約する。労働者は独立した請負業者であるため、顧客は就労許可を確認したり、納税申告書を収集したりする必要はない。

 センター・フォー・ファミリーライフは労働者の協同組合設立を支援し、経営、紛争解決、マーケティングに関する研修や、法的構造、税金、ブランディングなどに関するコンサルティングを提供している。2006年以来、同センターは22の労働者協同組合を設立し、450人(そのほとんどが移民女性)が信頼できる仕事と労働者保護を獲得している。

 アメリカン・コミュニティ・サーベイ5年推計によると、サンセット・パークの住民のほぼ半数は移民で、その大半は市民権を持たない。

「労働者協同組合に加入している99%の人々にとって、労働者協同組合は資産形成への唯一の道なのでしょう」と、センター・フォー・ファミリーライフの共同エグゼクティブ・ディレクター、ジュリア・ジャン=フランソワは言う。「社会的セーフティーネットのないアメリカでは、労働者協同組合のおかげで経済的に安定した生活を送ることができるのです」。

自分で作る

 労働者協同組合は通常、開設までに1年以上の準備が必要で、開設後は組合員が運営を管理する必要がある。しかも、その管理業務は無償労働になる場合も多い。

 労働者協同組合は定期的に会議を開き、管理職の選挙を行う。意思決定の仕組みは様々で、ブライトリー協同組合では多数決方式で運営されているが、コンセンサス方式で運営されている協同組合もある。ブライトリー協同組合やビヨンド・ケア協同組合では、意思決定をより効率的に行うため、組合員が委員会や役職を選出し、運営の特定の側面について権限を与えている。

 ブラッド・ランダー・ニューヨーク市会計監査官の報告書によると、労働者協同組合では離職率は低く、労働者は一旦事業を始めると概ね満足している。労働組合のある職場での離職率は組合がない職場より低いのと同様に、労働者協同組合では労働者は生活賃金と連帯感のために職にとどまる。

デメリット

 米国労働者協同組合連盟の調査によると、組合員の60%が、健康保険を提供することが最も困難な人事上の課題であると回答している。これまでに紹介した労働者協同組合のうち、健康保険や有給休暇を提供しているところはなかった。

 労働者協同組合はまた、財政的に安定した大企業で働くのと同じような雇用保障を提供することもできない。組合員の賃金は仕事の量に連動するため、組合員は不況の影響を受けやすい。また、労働者オーナーは、職場問題の解決や政治活動において、大労組のような支援を受けることができない。

 しかし、多くの移民労働者にとって、これらの妥協は取る価値がある。特に資格外移民労働者は、職場の虐待や労働違反に直面する割合が著しく高いという調査結果が一貫して示されている。労働者協同組合はなんの保障も受けられない労働者に支援を提供する。

「移民として働くとみじめな思いをすることが多いが、ここではストレスの少ない生活を送っています。」とメキシコからの移民で、ブライトリー協同組合の一員であるコンセプシオン・ポリカオは言う。「労働者協同組合での仕事は正当な報酬が支払われるので好きです。」


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