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三上智恵さんの『戦雲(いくさふむ)』は素晴らしいドキュメンタリーだった
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新たに学び、行動に活かして行きたい

小泉雅英

 もうすぐ終了と聞き、久しぶりにポレポレ東中野に行き、滑り込みで観ることができた。 三上智恵さんの『戦雲(いくさふむ)』。いろいろと耳にしていたが、やはり素晴らしいド キュメンタリーだった。

 始まって間もなく、涙がじわっと出て来てしまった。
 この国の政府のやっていることの理不尽さと暴力性、それに対称的な、ごく当たり前の生 活者の言葉を、根気強く投げ続ける島の人々。届かぬ抗議の声。それでもあきらめず、訴 え続ける人々。自分たちの住む部落の中に、戦車や弾薬庫や、ミサイルなど、そんな危な いものは要らない、こんな当たり前のことを、説得するように、投げ続けている。

 戦争になったら、どうなるのか、沖縄を戦場にされ、多くの犠牲を強いられた経験と記憶 も持つ人々が、未だたくさん居るのだ。それほどの時間しか経っていない、ということだ 。それでも再び戦争の犠牲を感受せよ、と言うのか。武力が自分たちを守らないことは、 既に明らかではないか。戦争になったら、私たちは逃げても、あなたたち軍人は逃げられ ないんだよ。それで良いの。良いわけないさね。

 この映画は、島に住む人々のごく当たり前の暮らしの中に、軍隊や、基地や、戦車が入り 込み、村や町が変貌していく様を、風景の中に描いている。政治的に保守的な人々が、さ すがに許せないと、変わって行く。静かな音楽に乗せて、雄大な海、山にかかる雲が映さ れる。

 カジキ漁のオジイが、カジキに身体を刺され、一命を取り留めながら、回復後、また海に 出て、カジキに挑み、遂に巨大カジキを仕留め、満面の笑みで戯けて写真に収まる姿に、 坂田明の抑え気味の、歓びに満ちたサックスが重なる。こんな漁師の暮らしが、戦争で失 われて良いのか。誰もがそんな風に感じるのではないか。

 漁師だけではなく、ヤギを世話する下地さんの家族、牛飼の人、沖縄本島の米軍基地建設 で追われて島に辿り着き、開拓農民として生きる人、エーサーなど伝統的な祭りに興じる 人々、その中には、今や自衛隊員の家族もいる。無邪気な子どものインタヴューが素晴らし い。父親が自衛隊員と判るが、大きくなったらボクサーになりたい、また島に戻って来た いと、目を輝かせて答えていた。こんな少年の未来を塞いではならない。

 全編を通して登場するオバア(山里節子さん)の静かな語りと訴え、三上さんのナレーショ ン、アニメによる適切な解説、背景に流れる静かな音楽などが、島々の暮らしと基地建設 、軍事化の状況とそれに抗う人々の物語を際立たせ、重層的なドキュメンタリーと成って いる。

 与那国、石垣、宮古など、どの島にも行ったことはないが、この映画を観終わって、これ ら島々が、とても身近な気持ちになった。この作品から多くの貴重な認識を得ることがで きた。これを起点に、これからも新たに学び、行動に活かして行きたいと強く思う。 (2024/5/09)


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