本文の先頭へ
LNJ Logo 「ジャーナリスト青木美希」が体を張った本『なぜ日本は原発を止められないのか?』
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1204hon
Status: published
View


「ジャーナリスト青木美希」が体を張った本〜『なぜ日本は原発を止められないのか?』

松原 明
 2020年3月11日、『日刊ゲンダイ』は朝日新聞社会部の女性記者Aさんが現場から外され、4月から広報部門の「記事審査室」への異動を命じられたと報じた。このAさんとは青木美希さんのことだった。原発問題や社会的弱者を丁寧に取材した青木記者が、一行も新聞に書けない部署へ飛ばされる。その措置に対して、当時、多くの市民からも「朝日新聞」に抗議の声が上がった。

 それから3年半後の2023年11月、青木さんは文藝春秋から『なぜ日本は原発を止められないのか?』を発刊した。記者職を外されてからは、勤務時間外に自費で、会社の記者でなく「個人ジャーナリスト」として取材を重ね今回の出版にこぎつけた。福島第一原発事故を目の当たりにした青木さん。事故がひとたび起きれば取り返しのつかない事態を招く、それを防ぐためにどうしたらいいのか。まだ12年しか経っていないのに「原発回帰」する岸田政権への怒りは大きかった。

 本書は、福島避難者の現状、原子力専門家の話、原発開発の歴史、核兵器問題など内容 は多岐にわたるが、原発問題のエッセンスがつまっていて、しかも読みやすい。筆者が一 番興味をもったのは、第四章「原子力ムラの人々」だった。原発を推進する勢力として上 げられる「政・官・業・学・メディア」だが、青木さんはその「原子力ムラの村長は、歴 代総理大臣だ」と断言する。かれらが「原発に税金を使い、国策で推し進め、原発を守る 仕組みを作ってきた」と。

 関西電力内藤副社長の政界工作の話が生々しい。歴代首相七人(中曽根康弘、田中角栄 、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、竹下登)に盆暮れに1000万円ずつ献金してきたという。三木さんはニコニコして「お元気で何より」、福田さんは玄関まで見送り「ありがとう!」、太平さんは「いやあ、お疲れさん」、中曽根さんは「ありがとうございます」とさっと受け取った。その原資は電気料金だった。原発マネーはあらゆるところにばらまかれ、「政・官・業・学・メディア」が「原発推進」にどっぷり浸かることになった。

 その結果、現在、保有するプルトニウムは原爆6000発分になり、高速増殖炉「もんじゅ」の維持費は1日5000万円もかかっている。ニッチもサッチもいかない原発をめぐる状況。「原発推進の姿勢は間違いだった」と反省する元自民党幹部の中川秀直氏は、原発を止められない理由をこう語る。「巨大システムに携わっている人たちがたくさんいて、それが経済の大きなビジネスチャンスで、それを守っていくのが国益というのが推進側の論理。だが、それは昔の時代遅れの大艦巨砲の“戦艦大和”にしがみついているのと同じだ」と痛烈に批判する。


*レイバーネットTVに出演した青木美希さん(2021年)番組録画

 本書の帯には「マスコミの大罪」とあるが、原子力ムラの中でも一番の問題はメディア であると青木さんは指摘する。じつは最初に「安全神話」に先鞭をつけたの朝日新聞で、 1974年から始まった「原子力PR広告」だった。朝日に続けと「読売」「地方紙」が追随 していった。原発に対する朝日の当初の姿勢は「イエス・バット」(是々非々)であった が、その後「原発容認」に舵を切った。

 朝日が青木記者を煙たがり記者職を外したのは、そんな背景があるのだろう。だが青木 さんはひるまない。「原発問題は、声を大きく伝えてこなかった報道機関、原子力ムラの 一角だったマスコミにも重い責任がある。長く新聞社にいる一員としても、ここで声をあ げることに躊躇してはならない。忘れれば、政府は再び同じ道を歩む。微力でも伝え続け ていくしかない」。この言葉にジャーナリズムの原点を見る思いだ。

 本書には、「朝日新聞」という社名は一切出てこないが、出版にあたっての上司とのや りとりもしっかり記録している。そして青木さんはあとがきでこう書く。「結果的に社を 去ることになるかもしれない。それでも、事実を届ける方が大事だと思って出版に踏み切 った」と。まさしくこの本は、「ジャーナリスト青木美希」の体を張った本だった。

*文春新書『なぜ日本は原発を止(や)められないのか?』(青木美希)、1100円+税、 2023年11月17日刊。


Created by staff01. Last modified on 2023-12-04 08:51:55 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について