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米国労働運動 : 拡大するビッグ・スリーでのUAWストライキ
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【解説】全米自動車労組UAWの史上初めてのビッグ・スリー同時ストライキは、スト対象拠点を拡大しながら第四週に入っている。一週ごとにストライキ対象職場を増やし、今では全米20州に拡大している。9月26日にはバイデン大統領が部品配送センターでのピケ・ラインに激励のために訪れ、史上初めてストライキのピケに参加した大統領となった。他労組はもちろん、国民一般からの支持も広がりつつある。世界各国の自動車労組からの連帯のメッセージや行動も報告されている。レイバー・ノーツの10月号が最新情報を伝えているので翻訳した。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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拡大するビッグ・スリーでのUAWストライキ

2023年9月29日 ルイス・フェリス・レオン (レイバー・ノーツ スタッフ/オーガナイザー)

*「我々はUAWと労働運動全体に闘いを取り戻そうと闘っている」とフェイン会長は語る。「力の均衡を取り戻すためには、ストライキを復活させなければならない」。

 全米自動車労組UAWのショーン・フェイン会長は9月29日朝、フェイスブックでライブ出演し、2つの組立工場で働く7,000人の自動車労働者が29日正午(米国東部時間)に新たにストライキに加わると発表した。ストライキに参加するのは、フォードのシカゴ組立工場とゼネラル・モーターズGMのミシガン州ランシング・デルタ・タウンシップ組立工場である。

 フェイン会長はステランティスは今回スト追加対象から外すと発表した。UAWは本日、三社すべてでストライキを拡大すると予想されていた。しかし、フェイン会長がフェイスブックライブに出る予定だった3分前、ステランティス社から緊急のメールを受け取ったと、デトロイトを管轄するUAWリージョン1会長のラショーン・イングリッシュは語る。フェイン会長によると、ステランティス社は賃金の生計費調整、ピケットラインを越えない権利、工場閉鎖をめぐるストライキの権利について「大きな進展」を見せた。「我々はステランティス社のこの動きを歓迎しており、この勢いが続くことを願っている」とフェインは語った。

 三社すべてとの交渉が進行中であると、フェイン会長は明言した。「過去10年間に組合員が払ってきたとてつもない犠牲と貢献を反映するような合意に達することができると、私はまだ強く期待している」と、フェイスブックで6万人の視聴者に向けて語った。「しかし、交渉の席で何を勝ち取るかは、職場で築いてきた力に掛かっていることも知っている。今こそその力を使うときだ」。

「また来週。ストにならなければね」

 28日の午後、UAWローカル551組合員のマルセリーナ・ペドラザは、シカゴ組立工場の同僚たちはストの次のターゲットのニュースを心待ちにしていると語った。

 改革派にコーカス「ユナイト・オール・ワーカーズ・フォー・デモクラシー(UAWD)」のメンバーでもあるペドラザは、「みんなハラハラしている。アメリカン・フットボールのNFLのドラフト指名のような感じだ。次のスト対象工場は私たちなのか?それとも暫定協約が合意されるだろうか?」

 労働者はフェイン会長のフェイスブックでの交渉経過報告を楽しみにしており、改革派指導部がより透明性を高め、情報を共有していると評価していると彼女は語る。

「私が経験した過去2回の協約交渉では、執行部は『交渉は順調に進んでいる』というが、最終的には、クソみたいな協約案を示して、賛成票を投じて欲しい、というだけだった」と彼女は続ける。

 ペドラザが28日に退勤するとき、彼女と熟練工の仲間たちは上司に冗談を言って別れた、 「また来週。ストにならなければね」。

 新たに2工場がストに加わることで、ビッグ3のUAW組合員146,000人のうち、このスタンド・アップ(立ち上がろう)ストライキのピケに立つ自動車労働者は25,000人となる。 GMのランシング工場のローカル602組合員であるコディ・ザレンバは、彼の工場がストライキに参加するというニュースが流れた後、「仲間たちはずっと前からストライキを打ちたいと言っていた。」と語る。「準備はできている。組合員全員が、本当にそう信じている。みんな、本当に、全員がストを支持している。」

 9月15日にミシガン州、オハイオ州、ミズーリ州にある3つの組立工場で13,000人がまずストライキに立ち上がった。続いて22日からは21州にある38の部品配送センターの5000人が加わっていた。(ストライキが行われている全施設の地図はこちら)。

ディーラーへの訪問活動

 UAWは現在、ビッグ3の自動車やトラックを販売・修理しているディーラーを訪問する小チームを組織するよう、地域の支援者に呼びかけている。26日、UAWは指示書、チラシ、プレス・リリース、論点のまとめを盛り込んだ訪問活動のツール・キットを発表し配布した。

 フォードとGMとの交渉で、UAWはいくつかの重要な譲歩を獲得した。そのうちの一つは、両社の現行協約にある数多くの賃金階層 のうち少なくとも一つを廃止し、いくつかの部品工場での賃金を組立労働者と同じ賃金水準に戻すことで合意したことである。ビッグ・スリーの組立労働者の最高時給は現在約32ドルである。

 フォード、GM、ステランティスはいずれも、労働者が最高賃金に到達するまでの期間を8年から4年に短縮することを提案している。UAWは依然として、採用された90日後には最高賃金を受け取ることを要求している。

 フォードは先週のスト対象拡大を免れたが、それはフォードの交渉担当者が労働者の要求をさらに受け入れたからである。

 しかし本日、UAWは再びフォードとGMの労働者をストライキに追加参加させて、大胆な要求(大幅賃上げ、週労働時間の短縮、階層賃金の撤廃、インフレに連動した生計費調整、工場閉鎖の制限、臨時労働者の正規化、全労働者への退職者医療保険と給付型年金の回復)をさらに突きつけた。

経営側を疑心暗鬼に陥れる

 UAWの旧執行部はストライキと協約交渉での勝利を切り離していたので、2019年には46,000人のGM労働者が40日間ストライキを行ったが、わずかな賃上げに終わってしまった。

「私たちはUAWと労働運動全体に闘いを取り戻そうと闘っている」とフェイン会長は言う。「勝つためにストライキをする用意のない労働組合は、片手を後ろに縛られた戦士のようなものだ。ストライキという武器がなければ、労働者は一方的に負けるだけだ。何十年もの間、同じことが繰り返されてきた。すなわち、無制限の企業権力による労働者の力の喪失である。その結果、社会全体に大きな不平等が生じている。力の均衡を取り戻すためには、ストライキを復活させなければならない」。

 今年、UAWは最近の歴史上初めて、自動車大手三社に対して同時にストライキを打ち、三社を相互に闘わせた。対象企業を一社選んで闘い、その後に他の二社と同様の協約を結ぶというこれまでパターン交渉戦略から脱却した。

 このスタンド・アップ・ストライキ戦略は、1993年にアラスカ航空の客室乗務員組合が編み出したCHAOS(混乱を引き起こそう)と呼ばれるスト戦略からヒントを得ている。客室乗務員組合は2ヵ月間に7便をストライキしただけであったが、アラスカ航空は万一に備えてすべての飛行機にスト破り要員を派遣しなければならなかった。予測不可能な事態はメディアの注目を集め、経営陣を追い詰めた。一方、組合は体力を温存し、リスクを最小限に抑えることができた。

 企業はUAWが最初にストライキを起こす場所を誤算し、エンジンを備蓄して、間違った施設に輸送した。自動車労働者たちは、UAWのフェイスブックグループやその他のソーシャル・メディア・プラットフォームで、会社が自ら招いたサプライチェーンの混乱を楽しんだ。

 ストライキを指示されていない工場の労働者たちの間では、任意的な時間外労働を拒否しようという草の根の闘いにより士気が高まっている。フェイン会長と改革コーカスUAWDの両方からの支援を受けて、労働者たちは時間外労働を断って会社側を困らせるよう、互いに励まし合っている。

 ステランティスのマック工場のローカル51副会長ルイジ・ジョカジは、「工場での仕事の割り振りや部品の移動など、どんな小さな変更にも抵抗している。」と言う。「ちょっとでも平常と違うことがあると、何でも反発する。懲罰にも厳しく対処しており、以前は口頭注意で済んでいたのに、文書による警告や停職を与えていないかチェックしている。職場委員たちは厳戒態勢を敷いている。ストライキ委員会のメンバーもとても熱心に活動している。」
「経営側は今週は本当に静かだ。今はびくびくしている。」

国民の多数が支持

 ビジネス情報会社キャリバーが実施した新しい世論調査によると、アメリカ国民の大多数がUAWのストライキ参加者を支持しており、ビッグスリーはストライキ開始以来、会社イメージを傷つけられている。

「回答者の87%がストライキについて知っていると答えた。ストライキは商業的な影響だけでなく、会社イメージも傷つけている。」とキャリパー者のCEOは語っている。

 会社イメージへの打撃は悪化の一途をたどっている。9月26日午後、ミシガン州スワーツクリークにあるGM部品センターを出た車に5人のスト参加者がはねられた。マサチューセッツ州とカリフォルニア州のスト参加者からも、ピケットライン上での暴力事件が報告されている。

 GMは今週、部品配送センターにスト破りを配置した。三社の中で知る限りではGMだけがスト破りを使っている。ステランティスは、部品の流れを維持するためにスト破りを送り込んだが、実際に働き始めたかどうかは不明である。

 スト破りが出勤する前日にレイバー・ノーツがコメントを求めたところ、GMは通常の業務を遂行するために他部署から職員を派遣しているだけだと答えた。同社は、ストライキ中の自動車労働者の仕事をさせるために、時給14ドルのスト破りの求人情報を求人サイトに掲載していることは認めなかった。

 GMの非組合員の一人がレイバー・ノーツに語ったところによると、同社は他部署の職員を部品配送センターにスト破りとして配備する準備のため、アンケートを回覧しているという。質問項目には、「ストライキ中にスト職場で2週間/3週間/全スト期間、働けますか?」「モバイル機器の訓練を受け、資格を持っていますか?」「10メールまでの高所で働くことに抵抗はありませんか?」などが含まれているという。この要請を断る方法について相談し合っている職員もいると言う。

政府は味方か?それとも敵か?

 26日、ジョー・バイデン大統領は自動車労働者とともにピケ・ラインに参加した。現職のアメリカ大統領がピケ・ラインに参加したのまは初めてである。レイバー・ノーツの読者は当然で、大したことではないと思うかもしれない。しかし、昨年12月、バイデン大統領と議会は全国的な鉄道ストライキを阻止するために介入している。今回のこの大統領の行動は大企業幹部を怒らせたに違いない。

 ドナルド・トランプ前大統領も今週ミシガン州を訪れ、組合のない自動車部品工場で演説した。「ミシガン州に来て組合のない企業で演説し、ビッグスリーとのUAWの闘いとなんか関係があるかのように装うのは、前大統領の口先話の一つに過ぎない」とUAWのマイク・ブース副会長は語った。

 政府の権力が組合の存続を左右することもある。1936年から37年にかけてのUAWのフリント工場座り込みストライキの際、ミシガン州知事のフランク・マーフィーは、44日間にわたる座り込みを鎮圧するために州兵を使うことを拒否した。その結果、GMはUAWを認めざるをえなくなった。これとは対照的に、1981年にロナルド・レーガン大統領が航空管制官を解雇するという決定を下した。これは1980年代から1990年代に掛けてストを組織しようとする試みを鎮圧する効果があった。

 労働史家のネルソン・リクテンスタインは、社会的混乱は民主党の大統領の再選の見込みを危うくするという通説に反対し、このストライキの拡大は2024年の選挙に向けてバイデン再選の力になると評価している。「リンドン・B・ジョンソン大統領は1964年の選挙の数ヶ月前に、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアにこう言った。公民権運動のデモは私の再選には不利になる、と。しかし、彼は間違っていた。今日では、労働者の力と連帯のデモが必要なのだ。もしバイデンが自分にとって何が良いかを知っているのなら、自動車労働者のピケットラインを訪れたように、自動車労働者を支援し続けるだろう。このストライキは労働組合を代表して、膨大な数の労働者階級の人々を動員できる社会運動となっており、政治家たちもUAWや他の組合との連帯を示すべきである」。

 経営者がぼろもうけする一方で、労働者はこき使われ、賃金の価値がどんどん下がっていくのを目の当たりにしている。その結果、私たちの期待が変化しているだけでなく、ビッグスリーとの闘いのような大争議が、資本主義に対する信認投票のような闘いになる機会をも生み出している。

我々は作り変えることができる

 フェイン会長はバイデンの後に発言して、第二次世界大戦中にB-24「リベレーター」爆撃機を製造した自動車労働者と、今日ストライキに参加している自動車労働者の歴史的な比較について語った。

 第二次世界大戦から80年後、「我々が戦っている戦争は異なる種類のものだ。今日、敵は何マイルも離れた外国ではない。目の前の企業の強欲が敵だ。そして、その敵と戦うために我々が作り出している武器は、リベレーター、解放者たちだ。真の解放者たち、すなわち労働者階級の人々だ。」

「そして我々とやつらの違いは、労働歌『ソリダリティー・フォーエバー』の歌詞にあるように、『我々の頭脳と筋肉なしに、車輪はひとつとして回らない』ということだ。」 「それが労働者階級の存在意義だ。自動車やトラックを製造していようが、部品配送センターで働いていようが、映画の脚本を執筆していようが、テレビ番組を放映していようが、スターバックスでコーヒーを淹れていようが、病院で看護していようが、幼稚園から大学までの学生を教育していようが、力仕事をしているのは我々だ。真の仕事をするのは我々だ。CEOでも幹部でもない、我々労働者だ。

 そして、気づいていないかも知れないが、それこそが力なのだ。我々には力がある。世界は我々が作っている。経済は我々が作っている。自動車産業は我々が作っている。 そして今回示したように、我々が労働を拒否することにより、我々はそれを作り変えることができるのだ。」


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