〔週刊 本の発見〕『多数決を疑う〜社会的選択理論とは何か』 | |||||||
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毎木曜掲載・第252回(2022/5/5) 多数決以外の様々な「決め方」を考える『多数決を疑う〜社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴・著、岩波新書、720円+税、2015年4月)評者:黒鉄好レイバーネットに日常的に接している人の中には、長い人生で「一度も多数派になんてなれたことがない」という方や、それ以前に「自分は明確にマイノリティであり、多数派になりたくてもそもそもなれない」という方も多いだろう。そんな人たちを含む多種多様な人たちを漏れなく包摂していく社会はどうしたら作れるのか。モヤモヤを抱きつつも、解決策がないままあきらめを抱いている人は本書を手にとってほしい。 著者・坂井は「政治家や有権者が悪いのではなく、多数決が悪い」と指摘する。多数決を「他の方式と比べて優れているから採用されているわけではない」として「文化的奇習」とまで言い切る。多数決を当然の前提として、野党共闘でどう自民党と闘うかという思考から抜け出せないでいる「反自民陣営」をも、坂井はひらりと飛び越えていく。 坂井は、現行制度に代わるものとして、ボルダルールなどいくつか世界で採用例のある意見集約ルールを紹介する。ボルダルールとは、例えば5人の候補者がいる場合、1位としたい候補者に5点、2位に4点……というふうに点数付けをし、最下位を1点とする。有権者が付けた合計点を算出し、定数3の選挙区の場合、上位3人を当選とする。スロベニア(旧ユーゴスラビアから独立)が採用している。 ボルダルール以外にも、様々な意見集約ルールがある。坂井がそれらに基づいて試行すると、すべて異なる結果が導き出された。民意などというものが「本当にあるのか疑わしく思えてくる」(本書P.49)。あるのは意見集約ルールが与えた結果のみなのではないか――坂井が導き出した大胆な結論である。 現在の小選挙区制も「政権交代可能な二大政党制を作り出す」という目的を持って行われたことを想起されたい。目的が初めにあり、そこに向かっていくために意識的に意見集約ルールを変える。「改革」は狙い通りの結果をもたらすどころか、自民1強という最悪の結末を生んだ。 「現行制度が与える固定観念がいかに強くとも、それは幻の鉄鎖に過ぎない」と本書はいう。そもそも労働者は鎖の他に失うものはなく、人が作ったルールは変えられる。小選挙区制はもちろん、多数決自体を疑ってみよう。今までと違う新たな光景が見えるに違いない。 本書の第5章では、坂井が関わった東京・小平市の国道328号線問題が突如として登場する。政策決定過程に一般市民がまったく関われないことを問題視し、市民が行政の決定過程に民主的に関与する道を開くべきだという指摘は当然すぎ、重要である。だが社会的選択理論を主題とする著書に唐突にこの問題を紛れ込ませているのには違和感がある。これはこれで十分、1冊の本にするだけの重要問題だと思うので、本書からは独立させ、別書として論じるべきではないだろうか。 だが、その点を割り引いても、本書は「多数決がすべてではない」との希望を読者に与えてくれる。多くの人に読まれるべき好著との評価を変える必要はない。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2022-05-05 16:13:33 Copyright: Default |