米国労働運動 : 全米自動車労組(UAW)役員選挙、全組合員による直接投票始まる | |
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【解説】史上初めての全組合員による直接選挙で、全米自動車労組UAW指導部が決められようとしている。小さくなったとはいえなお40万人を組織するUAWでの民主化の進展はアメリカの労働組合運動の方向性に大きな影響を与える。11月号のレイバーノーツ誌に創設者の一人ジェーン・スローターが報告しているので翻訳した。(レイバーネット国際部 山崎精一)
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。 全米自動車労組(UAW)、全組合員による直接投票始まる2022年10月19日 / バリー・エイドリン、ジェーン・スローター*イリノイ州モリーンの選挙イベント会場の外で、談笑するUAWメンバーズ・ユナイテッド候補者リストの支持者たち 全米自動車労組(UAW)では、役員選挙で2つの正反対の方向性を持つグループが争っていて、決戦を迎えている。10月17日にUAWの全組合員に投票用紙が送られ、初の直接投票が実施された。 UAWがこれまで行ってきたように、ごく少人数の大会代議員が役員を選出するのではなく、全組合員の直接投票制度に切り替えることが昨年秋の全組合員投票により決まったのである。UAWの露骨な腐敗の是正を監督するために2021年に設置された司法省の監視官が組合員の投票による決定を命じたのだ。過去5年間で、2人の会長を含む10人以上のUAW幹部が横領などの罪で有罪を認め、刑務所に収監されている。 例えば、デニス・ウィリアムズ前会長は、引退後の生活を楽にするために、110万ドルの湖畔の「山小屋」を組合費で建てさせた。FBI捜査官が4州6カ所を家宅捜索したところ、ゲーリー・ジョーンズ元会長のガレージで「札束」を発見した。ジョーンズとその取り巻きは、特に葉巻とゴルフクラブに執着していた。ジョーンズはたった一日で13,000ドルの組合費を葉巻に費やしたのである。ゴルフや豪華なディナー、パームスプリングスの別荘のレンタルなども、組合員が負担したものだった。ある幹部は、UAWとGM社の協調を記念した背広5万着などのUAWグッズを納品した業者から199万ドルのリベートを受け取ったことを認めた。 これらの失脚した指導者たちの後継者たちは、同じ管理コーカス(注1)のメンバーとして、今日もUAWを率い、再選をめざしている。その対抗馬は、ユナイト・オール・ワーカーズ・フォー・デモクラシーUAWD(注2)が支持するUAWメンバーズ・ユナイテッド候補者リストである。UAWDのスローガンは「腐敗なし、譲歩なし、二層賃金なし」である。7月の組合大会でUAWDの組合員は、多層賃金を認める労働協約の廃止、電気自動車EV産業の組織化、ストライキ補償の引き上げを約束するなど、連帯の構築と組合の交渉力強化を目指した提案を行ったが、ほとんどすべてが管理コーカスにより否決または骨抜きにされた。 UAWは決定的に重要40 万人の現役組合員と 60 万人の退職者で構成される UAW(注2)は、1970 年代の全盛期の 4 分の 1 の規模にすぎないが、依然として戦略的重要性を保っている。歴史的に、UAWは座り込みストライキのような戦術的革新や、生活費調整(COLA) のような斬新な交渉要求の先駆者であり、それによって何百万人もの労働者の労働条件を改善してきた。しかし、UAWは協約上の譲歩を行い、労働者の力を弱める労使協調プログラムに飛び込んだ張本人でもある。1980年代、特にビッグスリーとの協約において、またその他の協約においても、UAWは譲歩の手本を示し、その後多くの組合がその後を追い、悲惨な結果に終わり、労働者は今日もその被害を受けている。UAWは労働運動の大きな動向を決定する象徴的な役割を果たすだけでなく、米国の製造業の中心部に位置するため、構造的に重要な組合であり続けている。自動車産業だけで、アメリカの国内総生産の3%以上を占めている。自動車産業の総雇用数は1983年の996,452人よりも2021年の1,333,916人の方が実際に多いが、この間に組合員総数は586,319人から157,334人に減少した。また、自動車製造が中西部から南部へややシフトし、各社が新たに未組織の工場を開設したため、自動車産業をいかに組織化するかという問題は、南部の組織化の必要性と絡み合ってきた。 強力な労働運動を構築するための実行可能な計画は、強力で活性化したUAWと、その中核産業である自動車、部品、トラック、農機具、航空機および関連製造業の200万人の労働者の組織化を含まなければならない。現在のUAW指導部はその任務を果たしていない。 失敗、譲歩、腐敗1980 年代に、高速化、自動化、海外移転、さらにアジアやドイツのメーカーの米国進出により組織化されていない工場との競争により、組合員が減少し始めると、管理コーカスはリ―ン生産様式、協約譲歩(同じ会社内の組合ローカル同士が仕事を取るために労働条件引き下げ競争を迫られること)、多層賃金協約、労使協調路線を採用した。その結果、労働者は壊滅的な打撃を受け、今日に至っている。2007年、不況が迫っていると考えたUAWトップは、ビッグ3の自動車メーカーと二層賃金体系を含む譲歩的な協約を先取りして締結した。この協約により、新規採用の賃金はすでに働いている者の文字通り半分となり、健康保険や年金も劣悪なものとなった。 このひどい協約が続いている間、元からいる従業員は10年間も昇給しなかった。ビッグスリーの従業員の中には二層賃金により賃金格差が広がり、高齢のUAW組合員がかつて行っていた軽作業を下請けに出すことによっても賃金格差は拡大した。低賃金の「臨時従業員」が導入され、高賃金の同僚と同じ仕事をし、賃金が低く、雇用の保障も残業を拒否する権利もないことだけが違いだった。その結果、自動車労働者の中に、これまでの賃金には決して到達しない、恒久的な下層労働者が形成され、労働組合の中でも二流市民のように感じている。 1990年以降民間部門の時間当たり賃金が全体として17%以上増加したにもかかわらず、ビッグスリー協約の賃金低下と自動車産業全体の組合密度低下が相まって、自動車労働者の実質時間当たり賃金は20%以上減少している。 階層化は自動車労働者の懐を痛めただけでなく、労働組合の連帯も弱体化させた。長年にわたってUAWローカルのリーダーを務め、組合改革活動家でもあるビル・パーカーは、「二層賃金は働く仲間に分裂をもたらす」と指摘する。クライスラーの二層賃金労働者であるシャロン・チェンバースは、ブルームバーグの記事で「同一労働同一賃金はどうなったのか」と質問している。「私たちの士気は非常に低い」。 同様に、労使協調とリーン生産様式は、組合の基本原則を掘り崩しており、労働者は他社の労働者よりも「自分たちの」会社に親近感を持つようになり、経営者は「競争力」の名の下に、すべての労働者を底辺への競争へと導いているのである。ビッグスリーとUAWは、腐敗の温床となる「労使協調」プログラムに何億ドルもの資金を注ぎ込んだ。 UAWの指導者は結局、組合員数の減少を穴埋めするために大学新卒従業員の組織化に転じ、何十年もの間、未組織の自動車工場を組織化しようとさえしなかった。組合が組織化を試みても、加入希望者が「組合の利点」をほとんど見いだせず、惨憺たる結果に終わった。反組合勢力は、テネシー州チャタヌーガのフォルクスワーゲン社で起こったように、下位層の賃金と上位層の賃金凍結をネタにして、組織化運動を打ち負かしたのである。現在、UAW組合員の約75%が製造業労働者であり、残りの大部分は大学関連の労働者である。 組合員の間で懐疑的な感情が広がっているのは、「納得いくまで投票しよう」という戦術が頻繁に使われているからだ。組合員が譲歩的な協約を拒否しても交渉のテーブルに戻る代わりに、組合幹部は類似または同一の協約を投票にかけ続け、労働者を諦めさせ、その協約内容が得られる最善のものだと信じ込ませようとする。このように一貫して期待を打ち砕こうとする試みの中でも、クライスラーでの2015年の協約妥結の拒否や、ボルボ・トラックやジョン・ディアでのUAW本部に対する最近の反抗のように、現場労働者が抵抗を続けているのは驚くべきことである。 さらに、UAW指導部は裏金による労使協調プログラムに依存し、完全な腐敗に陥っていた。連邦政府の調査によって、何百万ドルもの組合費をめぐる横領、贈収賄、職権乱用の大スキャンダルが明らかになった。これまでにUAW幹部13人とフィアット・クライスラー社(現ステランティス)幹部2人が服役し、UAWの業務を監督する連邦政府の監視役が任命されるに至っている。調査の結果、汚職の組合費の不正使用を伴うだけでなく、UAW幹部が協約上の譲歩と引き換えに報酬を受け取ったため、労働組合の交渉力を直接的に弱めることになった。 このスキャンダル、そしてそれを引き起こした譲歩と労使協調の受け入れの中心には、ある組織、管理コーカスが存在する。 支配は根深い1947年にウォルター・ルーサー会長が組合内の権威を固め、反対意見を抑圧するために結成した管理コーカスは、それ以来、UAWの一党独裁国家における支配党として機能してきた。1947年以降、UAW執行委員会のほぼすべてのメンバーが管理コーカスに所属しており、ほとんどのローカル役員・スタッフもそうである。ローカル役員から本部代表、地域委員長補佐、地域委員長へと、組合組織の階層を上がっていくためには、コーカス加入が必須条件となる。自動車、農機具、その他の部門では、管理コーカスは職場の最下層選出役員にまで及んでおり、全員が忠誠を誓うことが期待されている。出世主義と公然の服従が奨励されている。ルーサーはUAWを戦後の進歩主義の砦として築いたが、そのうわべは時とともに薄れていった。1960 年代、管理コーカスは黒人労働者革命連盟と戦い、1970 年代にはユナイテッド・ナショナル・コーカスと戦って山猫ストライキを鎮圧し、1980 年代には職場の戦闘性を主張するニュー・ディレクション運動と戦った。 UAW最高幹部である今日の管理コーカス幹部は、「労働組合の仕事は経営側を守ることではなく、経営側と戦うことである」という労働組合の基本的な考え方にあまり関心を示さず、理解もしない。彼らの目標は、役職にとどまり、役得を享受することである。管理コーカスの指導に対するいかなる挑戦も、致命的な脅威として認識され、反対意見を抑制するための強引でむき出しの抑圧的な反撃に会う。 数十年にわたるこのような労働運動、さらに言えば企業との全面的な協調関係は、一般組合員が職場で直属の上司と闘うのを妨げ、さらには大企業と対抗するためのあらゆる構造を掘り崩してきた。 結論を言えば、管理コーカスはUAWを改革し、労働者の力を構築するための手段に変えるための唯一最大の障害である。UAWに対する管理コーカスの支配力を弱めるか排除することを目指さない運動は、必ず失敗するだろう。 今がチャンス史上初の役員の直接投票が実施されたため、UAW組合員は今、管理コーカスの支配力を弱めるための絶好の機会を得ている。昨年、「一人一票」を求めるキャンペーンの原動力となったのは、UAWDコーカスであった。これに対し、管理コーカスは、自らの投票権を否定するように投票することを組合員に訴えた。 今年、UAWDはUAWメンバーズ・ユナイテッドという候補者リスト(14枠中7枠)を募集・支持・推薦した。代表者はショーン・フェインで、UAW本部のスタッフであり、管理コーカスと対立して脱退した経験がある。UAWメンバーズ・ユナイテッドの候補者は全員UAWDのメンバーであり、UAWDが主体となって選挙活動を行っている。 UAWDは自動車労働者によって設立され、運営委員10人のうち7人が自動車関係者であり、ジョン・ディア社からも1人参加している。しかし、大学教育労働者や法律サービス労働者も大挙してUAWDに加わっている。特に東海岸のホワイトカラー主体のUAW第9A地区からの代議員は、7月のUAW大会で重要な役割を果たし、工場労働者にも関連するUAWDの提案を実現するために闘った。UAWDは、ブルーカラー労働者とホワイトカラー労働者の間に強い連帯を築き、この連携は労働運動全体に拡大されるべきものである。 大会直前にUAW執行委員会は、ストライキ補償を週275ドルから400ドルに引き上げるというUAWDの大会提案を先取りし、議場での議論を避けようとして、受け入れた。これはUAWDにとって大勝利であった。(3月段階でのストライキ積立基金は8.26億ドルだった。) さらに代議員は、ストライキ補償を現行の8日目からではなく、ストライキの初日から支給するというUAWDの提案を承認した。ストライキ中のある代議員(UAWDメンバーではない)がストライキ手当をさらに引き上げて500ドルにするよう提案すると、代議員は賛成票を投じたが、大会最終日に管理コーカスが反撃し、ストライキ保障を400ドルに引き下げたのである。 UAWDのおかげで、今年の大会では、代議員は二層賃金協約という大きな問題を含め、これまで管理コーカスが承認していなかった項目について討議し、投票する機会を得ることができた。これは、これまで常に議題を決めてきた管理コーカスが支配する大会運営委員会で動議を承認するのに必要な代議員の15%の票を、UAWDが何度も大幅に上回ったからである。 いくつかの例外を除き、代議員はUAWDの提案を否決した。重要なことは、これはUAW組合員が管理コーカスの方針を支持していることを示すものではないことだ。代議員の多くは、組合組織のヒエラルキーでの出世を視野に入れ、管理コーカスに忠誠を誓ったローカル役員である。例えば2018年、代議員はウィリアムズ会長(当時)のための退職用「山小屋」建設の動議を何の議論もなく承認した。大会の結果は、管理コーカスが、一般組合員ではなく、ローカル役員をどの程度支配しているかを示している。実際、これまでUAW内部で寄らば大樹の陰が支配的だったことを考えれば、UAWDがこれほど多くの代議員から賛成票を得られたことは二重に驚くべきことである。 その腐敗がさらに露呈し、組合員の懸念とはますますかけ離れたものになっているにもかかわらず、管理コーカスは自らを改革しようとすることにほとんど関心を示していない。実際、管理コーカスのメンバーの傲慢さには驚かされる。彼らは、司法省の監視役への協力を何度も拒否している。重大な倫理違反を犯し、自分たちの仲間がかなりの数の重罪で有罪になった後でも、組合の倫理委員会の委員の選出方法を、無作為に選ばれるのではなく、地区責任者によって任命されるように、悪い方向に変えてしまった。 管理コーカスの実績と最近の行動は、同コーカスが喜んで権力を手放さないことを示唆している。その候補者たちは現在口実を設けてローカルを訪れて選挙運動を行っており、組合資源を利用して選挙運動を行ってはならない、という選挙規則や連邦法に反している。 しかし、組合員は今、管理コーカスに代わる真の選択肢を持っている。UAWDの前進はUAWを組合員のための組織に変えるための最良の希望である。今秋の選挙で管理コーカスがもし勝利したとしても、UAWDは各ローカル内での組織化・教育活動に力を入れるだろう。 それには時間がかかるだろう。TDU(注3)は設立から15年後に初めてチームスター会長に候補者を出して勝利し、その後挫折を味わい、組合員が再びホッファ会長を放り出すまでさらに16年の組織化を要した。 UAW組合員はより短期間で組織化しようとしている。 (バリー・エイドリンはカリフォルニア州のUAW第2865ローカルの元職場委員。ジェーン・スローターはレイバー・ノーツの元編集者。) 注1) Administrative Caucus UAWを75年にわたって支配してきた主流派コーカス。コーカスとは組合員の団結権を保障するために認められている組合内の独自組織。役員選挙の際の候補者リストもコーカスである。 Created by staff01. 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