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オーマイニュース記事 : 尾沢孝司さんインタビュー、解雇された韓国人のために闘って逮捕された日本人
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<オーマイニュース インタビュー記事>
 韓国のインターネット新聞「オーマイニュース」に韓国サンケン労組支援のインタビュー記事が掲載されました。さっそく、萩原恵美さんが翻訳してくれました。以下、紹介します。
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解雇された韓国人のために闘って逮捕された日本人
彼を突き動かしたものは

〔インタビュー〕尾沢孝司さん−724日間にわたる韓国サンケン闘争に連帯
 2022.7.29 オーマイニュース ユン・ソンヒョ (翻訳:萩原恵美)

▲「韓国サンケン労組を支援する会」の尾沢孝司事務局次長と妻の尾沢邦子さん ⓒ 韓国サンケン労組

「日本から韓国に進出した企業の横暴は、とりもなおさず日本の労働者の置かれた状況であり問題なのです。(中略)韓国サンケン労組の闘いから韓国の労働者の闘いの精神を学ぶことができました。むしろこちらが感謝したいくらいです」

親会社のサンケン電気(本社・埼玉県新座市)による一方的な清算・解散の発表に対して韓国サンケンの労働者が廃業撤回を求める闘いを始めると、それに呼応して日本で連帯活動に取り組んだ尾沢孝司さん(74)のことばだ。

サンケン電気は2020年7月、本社ホームページで昌原(チャンウォン)馬山(マサン)自由貿易地域所在の子会社・韓国サンケンを清算・解散すると発表した。金属労組韓国サンケン支会は工場やソウル営業所の前にテントを設けるなどしてハンスト座り込み闘争などを繰り広げた。

その結果、韓国サンケン支会と会社側(清算人)は2022年7月6日に合意書に署名した。具体的な合意内容は非公開だが、組合は合意内容を受け入れた。724日もの長期間に及ぶ闘いをしめくくったのだ。 この闘いには多くの日本人も連帯した。会社側の一方的な廃業方針の発表に、組合は日本への「遠征闘争」も考えたものの、コロナ下では実現できなかった。すると日本の労働団体や市民団体、それに個人が連帯を申し出た。東京を中心に「韓国サンケン労組を支援する会(以下、支援する会)」が、サンケン電気本社のある埼玉では「韓国サンケン労組と連帯する埼玉市民の会(以下、埼玉市民の会)」が結成された。支援する会は毎週木曜日にサンケン電気本社前で抗議行動と最寄り駅前で連帯の街宣活動を、埼玉市民の会は隔週月曜日に本社前で抗議行動を繰り広げた。参加者それぞれがメッセージを記したボードを掲げ、韓国サンケン労働者の似顔絵で作ったプラカードを手に街角に立った。

そのさなかに尾沢さんは逮捕された。本社前での抗議行動中に暴行容疑で連行され、さらに威力業務妨害の容疑も追加、起訴された。現在も裁判は進行中だ。妻の尾澤邦子さんは6月のサンケン電気の株主総会に株主として出席、韓国サンケン労働者の厳しい闘いを訴えて「直接交渉に臨んでほしい」と要求した。

尾沢さんは「労働者には国境はない」とし、連帯闘争に取り組んだ理由を説明した。以下は本紙が尾沢孝司さんと交わした書面によるインタビューの内容である。

「日本で連帯しなければならないと考えた」

− どうして支援する会を結成したのですか。

韓国サンケンの労働者が解雇されたと聞き、じっとしていられませんでした。同じ会社の同じ労働者に対する解雇問題でした。5年前に連帯して闘った「解雇撤回闘争」の2次争議です。(記者注:韓国サンケン支会は2016年にもリストラに遭い、日本で遠征闘争を繰り広げて解雇を撤回させている)

− 韓国サンケンが解散・清算されることはどうやって知りましたか。

数年前からサンケン電気の動きを注視してきました。2020年7月6日、サンケン電気は事前に何の相談もなく、ホームページで一方的に韓国サンケンの解散・清算を発表しました。その事実を確認して即座に韓国サンケン労組との連帯に取り組みました。

− 解散・清算の発表に韓国サンケンの労働者もすぐに闘いを始めたそうですが。

韓国で闘いを始めたとの連絡を受け、日本でも連帯しなければならないと考えました。1次争議の際に行動に参加した団体・労組と話し合い、2020年9月3日に支援する会を結成しました。主に東京の労組と市民団体が参加しました。サンケン電気本社のある埼玉でも動きがあり、支援する会とは別個に、1次争議の際に中心的な役割を果たし、3年前に亡くなった元新座市議の故・大矢道子さんの精神を受け継ぎ、新座市とその周辺地域を中心に埼玉市民の会が結成されました。


▲「韓国サンケン労組を支援する会」の尾沢孝司事務局次長の妻である尾沢邦子さん ⓒ 韓国サンケン労組

− 韓国の労働者への連帯闘争のさなかに逮捕されました。経緯をお聞かせください。

逮捕されたのは2021年5月10日です。埼玉市民の会の月曜抗議行動に参加していて連行されました。慶尚(キョンサン)南道地方労働委員会が最終判定の前に、解雇問題について労使で話し合って解決すべく1週間の期間を設けて和解を勧告しました。なのに韓国サンケン側は交渉に誠意ある対応を示しませんでした。

和解を勧告されたからには、本社が労組とじかに話し合ってほしいと要求するつもりでした。そこで責任ある部署と話すために構内に立ち入ろうとしました。ところが警備員に制止されて追い出されたのです。そのことを暴行罪に問われて逮捕されました。さらに威力業務妨害罪が追加、起訴されました。

− 長期にわたって拘留されたそうですが。

やっと保釈されたのは12月27日でした。現在も裁判は進行中です。拘留中は弁護士の接見しか許されず、家族にも会わせてもらえない「面会禁止」の不当な処遇でした。また、逮捕後には家宅捜索も行われました。当時、妻は癌で闘病中でした。警察は玄関の錠を2か所も壊して家に押し入り、13人で6時間かけて捜索したそうです。事件と関係のあるなしにかかわらず、癌で闘病中の妻の部屋まで捜索されました。反人道、反人権のふるまいです。

− 奥さまはたいへんな思いをされたでしょうね。

妻は癌の手術を控えており、今後の問題について相談する必要があって面会禁止の一部解除を求めましたが、検察は「妻が面会室にひそかに小型レコーダーを持ち込んで録音し、証拠隠滅を企てる」などという荒唐無稽な理由で面会を禁じました。また、拘留中に何度も保釈を申請しましたが、その都度、埼玉市民の会からの資金援助で逃亡しようとするとか、活動をともにする妻と示し合わせて逃亡しようとするとかいう理由で却下されました。

− 検察側の主張は事実ですか。

埼玉市民の会はたいした資金もない団体です。妻は病気の身ゆえ逃げるなどありえません。ひとことで言って、まったくもって不当な長期拘留でした。逮捕起訴は、6月下旬に開かれるサンケン電気の株主総会に出席させまいとする意図もあったのではないでしょうか。私は株主総会で韓国サンケンの解雇問題を提起するつもりで株主になっていたのです。

これまでの一連の動きを見ると、逮捕起訴で恫喝したつもりなのでしょう。日韓の国際連帯の分断を図ったのかもしれません。また長期拘留は、グローバル企業に歯向かうとひどい目に遭うぞという見せしめの側面もあったようです。

「韓国の労働者の問題は、とりもなおさず日本の労働者の問題」


▲「韓国サンケン労組を支援する会」の尾沢孝司事務局次長ⓒ 韓国サンケン労組

− 日本で韓国の労働者の支援活動をするうえで苦労はありませんか。

サンケン電気本社前は住宅街で道も狭いのです。本社前で抗議行動をすると、拡声器の音がうるさいというクレームがご近所から出ることがよくありました。それがいちばん困りました。地元の人が通報して警官がやってくることもありました。音量を落とせと言われて対応するのがたいへんでした。でも私たちの訴えを聞いて「たいへんですね」、「頑張ってくださいね」と激励してくれる人もいました。飲み物やお菓子を差し入れてくれる人もずいぶんいました。

抗議行動の日は早朝から動きだします。週1回ですが雨の日も寒い日も毎週欠かさずです。家の遠い人は朝3時4時起きで電車を乗り継いでやってきました。また、毎週ニュースを発行しました。巨大資本への怒りと「労働者に国境はない」という国際連帯の精神で、支援活動に臨んできました。

− 韓日の労働者・市民との連帯闘争の意味するものは何でしょう。

まず、韓国サンケンは日系企業だということです。韓国の労働者との連帯闘争は「労働者に国境はない」という国際連帯であり、まさに日本の労働者・民衆の問題なのです。現代は新自由主義のグローバル経済の時代です。人とカネが自由に国境を移動します。資本は自由なのに労働者・民衆は分断されています。外資企業や海外進出企業の問題はどの国でも起きています。日本から韓国に進出した企業の横暴は、とりもなおさず日本の労働者の置かれた状況であり問題なのです。

− 韓国サンケン労働者の闘いに身をもって触れて何を思いましたか。 本当に 粘り強く、しかも命懸けで闘ったと思います。組合員数こそ少数ですが、団結してとことん闘い抜きました。さまざまな困難の中で精いっぱい闘ったことは尊敬に値します。

− 合意には至りましたが、廃業を撤回させることはできませんでした。

100%の勝利ではありませんが、敗北したわけでもありません。日本であれ韓国であれ世界のどの企業であれ、一方的に労働者をクビにしたらどんな闘い・抵抗を招くことになるのか見せつけました。企業側に思い知らせることができたと考えています。韓国サンケン労組の闘いから韓国の労働者の闘いの精神を学ぶことができました。むしろこちらが感謝したいくらいです。

− とりわけ印象に残っている方はいますか。

韓国サンケン組合員で民主労総副委員長のキム・ウニョンさんのことばを思い出します。「韓国サンケン労組と日本のみなさんの支援組織はお互いを必要とする存在」と言ってくれました。また、私たちのことを「同志」と呼んでくれさえしました。実に望外の評価で、うれしく思います。私が逮捕拘留など弾圧されたとき、韓国で保釈金を募金して送ってくれ、わがことのように行動してくれました。感謝にたえません。

− 日本政府やサンケン電気に言いたいことは何ですか。

韓国サンケン労組は、ソウルの日本大使館や釜山(プサン)の領事館前を毎日のように訪れて解雇問題について訴えていたので、日本政府もこの問題のことはよく知っていたはずです。けれど日本政府が問題解決に乗り出すことはありませんでした。日本政府は、日系企業が「OECD多国籍企業行動指針」といった国際的なガイドラインおよび進出国の法律や社会規範、労働協約をきちんと守るよう、適切に指導・監督しなければなりません。

オーマイニュース原文
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002853081&fbclid=IwAR2MR6c5ll9bSAn6drfHYLpg2AdUio--xRfps2gfIt3E8vBKta36ND7uMkM


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