〔週刊 本の発見〕『アンジェラ・デイヴィスの教えー自由とはたゆみなき闘い』 | |
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毎木曜掲載・第213回(2021/7/15) どんな苦労も惜しまずに『アンジェラ・デイヴィスの教えー自由とはたゆみなき闘い』(アンジェラ・デイヴィス著、フランク・バラット編、浅沼優子訳、河出書房新社、2021年2月刊、3300円)評者:志真秀弘 本書は数えきれない発見に満ちている。 本書の訳者・浅沼優子は「訳者まえがきー今アンジェラ・デイヴィスを知るべき理由」で、「日本語では驚くほど彼女のことは紹介されていない」と書いている。事実彼女の重要著作の多くが邦訳されていない。この「訳者まえがき」は77歳の今もたたかいの第一線にいるデイヴィスのプロフィールを極めて的確に紹介している。浅沼はベルリンを拠点に音楽イベントのプロデュースを主たる業にしているが、この原著(2016年刊)と出会ったのは2020年のコロナパンデミックのなかだった。同年4月、ミネアポリスでジョージ・フロイド殺害事件が起きBLMの運動が大きく広がっていく。6月にはミネアポリス市議会は市警察の解体、予算拠出の打ち切りが報じられた。それに浅沼は驚いたが、その時は〈アボリション〉=刑務所解体の考えも掴みきれずにいたという。そこから本書を是が非でも日本語読者に届けようと、翻訳し、出版社と交渉し、結局1年を経ず刊行された。運動圏内のひととは言えない訳者浅沼を駆り立てたのは、やはりデイヴィスを発見する喜びだったかもしれない。(*写真下=アンジェラ・デイヴィス) デイヴィスのフェミニズム理論で最も重要なのはインターセクショナリティ=「交差性」の概念である。70年代のフェミニズムを中産階級の白人中心主義でブルジョワ的と彼女は厳しく批判する。そこから除外された黒人、先住民はじめ有色人種の女性、貧困層の女性の経験する差別は人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティなどの複合的要因がもたらすものにほかならない。フェミニズムは「私たちを矛盾の中に存在させ、それらの矛盾の中で何が生産的かを発見するよう」促す。つまりフェミニズムは現代社会=グローバル資本主義と新自由主義によって縁取られる現実をとらえる有力な方法としてあるというのがデイヴィスの主張である。 同時に闘争におけるインターセクショナリティを彼女は強調する。当局の方が現実のつながりを捉えている。9・11後にアメリカで進んだ警察の軍事化は、実はイスラエル当局とアメリカ警察の共同訓練で成し遂げられていた。ファーガソン事件(2014年8月、18歳の黒人青年マイケル・ブラウンが買い物帰りに白人警官に殺害された)の舞台はミズーリ州セントルイス郡の小さな町だが、そこの警察署長はイスラエル現地でテロ対策の訓練を受けていて、しかも抗議行動に対して用いられた催涙ガス弾は占領下パレスチナで使われているものと全く同一であった。パレスチナの活動家が映像を見てこれを知り、SNSでファーガソンの活動家に伝え防御法をアドバイスした。あらゆる闘いはつながっているーそれが彼女の主張だ。 デイヴィスは「私たちは個人主義的に考え、英雄的な個人だけが歴史を変えることができると思い」込みがちだが「歴史が英雄的な個人の功績として記述されることに抵抗しなければなりません」とも語る。公民権運動はマルチン・ルーサー・キングに象徴されがちだが、黒人家政婦たちが人種隔離されたバスに乗ることを拒否することから始まったことを忘れるなと呼びかける。歴史を集団のそれとして、運動のそれとしてとらえることは今特に大切だと彼女はいう。新自由主義は個人主義を助長しているからだ。またオキュパイのテントが取り去られたからといって闘いの成果はなかったなどと考えてはならない。そこに出現した空間は運動に必ず引き継がれていると。 ぜひこの本を読んで欲しい。さらに多くのことが間違いなく見つかる。この紹介がその契機になってくれることを切実に願う。 アンジェラ・デイヴィスがトルコ・ボアズィチ大学で行ったユーモアがありウイットと連帯の精神に富むスピーチ(2015年1月9日)が本書終章に収められている。それはこう結ばれている。 「どんな苦労も惜しまず取り組まなければなりません。・・・私たちは結束した精神、集合的な知性、そしてたくさんの身体を使い、進んで立ち上がって『ノー』を突きつけなければならないのです。」 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2021-07-15 13:05:56 Copyright: Default |