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パリの窓から : 原子力は気候も人類も救わない
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 第79回・2021年12月21日掲載

原子力は気候も人類も救わない


*「原子力は気候を救わない」 写真はすべて RESEAU SORTIR DU NUCLEAIREさん(11月30日、パリ郊外で開催された国際原子力見本市の初日)

 気候変動による災害が世界各地で頻発し、温暖化問題に対する市民とメディアの関心が高まる中、フランスでは「原子力は温暖化対策に不可欠なクリーンエネルギー」と吹聴する原子力推進派の攻勢が激しくなっている。

 マクロン政権は2020年に稼働中フランス最古のフェッセンナイム原発2基をようやく廃炉にし、原子炉の数は56基になったが、2020年4月21日(コロナ第1波のロックダウン中!)に可決された「長期ネルギー計画PPE2019-2028年」の中に、他の原発の廃炉は記されなかった。政府は2017年11月からすでに、電力供給における原子力の割合を50%に減らす期限2025年を2035年に延長すると告知していた。(2015年オランド政権時に採択されたエネルギー転換法による期限。しかしオランドは公約のフェッセンナイムさえ閉めなかった)長期計画には、寿命40年を想定して造られた原子炉を50年まで、いくつかは60年まで稼働延長させる思惑が示されている。そればかりか、マクロン大統領は2021年の秋以降、新たに原発を建設する意思を何度も語った。

●原子力再開への攻勢

 去る10月25日、RTE(フランス電力EDFを大株主とする送電網社)は「エネルギーの未来、2050年」報告書を発表した。電力安定供給と2015年パリ協定の目標「2050年カーボンニュートラル(炭素中立)*」を前提に、化石燃料から脱したエネルギー供給の長期シナリオ6種類を計算したものだ。再生可能エネルギーを100%〜50%に想定した6シナリオのうち、原子力ゼロ案は1つで、5案は電力消費量に対する原子力の割合が13%から50%(現在の割合は67%)。多くのメディアは、再生エネルギー100%を達成するにはコストがかかりすぎると解説し、新たな原発建設を想定した原子力50%案をRTEが推奨しているかのように紹介した。(OVNIの記事参照:https://ovninavi.com/futurs-energetiques-2050/)

 マクロンは我が意を得たりと11月9日、新型EPR(欧州加圧水型原子炉)6基の建設とSMR(小型モジュール原子炉)の開発を告知した。もっとも2018年にすでに政府はEPR6基の建設計画案の作成をEDFに命じており、2020年11月に出た報告によると、その予算472億ユーロ(後に640億ユーロに増額)の半分以上を国家が出資する計画だった。この新たなEPR建設について議会や国民の討論は行われないまま、EDFは2021年1月、フラマトム社に部品を発注した。そして、マクロンは去る10月、「フランス2030年投資計画」という先端技術への国の投資10目標の1つ目にSMR開発を掲げ、10億ユーロをあてると発表した。

 フランスの原子力政策は原初から現在までずっと、民主的な討論なしに(あってもまやかしの「討論」、反対意見が過半数で強力でも無視)国の政治・技術エリート指導者たちの独断で決定され進められてきた。正式に政令が出される前に部品製造や工事を開始して計画が既成事実となり、市民の反対運動はテロや組織犯罪と同等に扱われて弾圧されてきた。反対市民に限らず、会計検査院や環境アセスメント監査局など国の独立監査機関は毎年、政府の原子力政策について様々な弱点・難点を厳しく指摘しているが、ことごとく無視される。環境・社会生活・国土整備に関する重要な決定への公衆の参加を促進する「公開討論審議会CNDP」も、公開討論なしに原子力の再開発を決めるのは「環境憲章」(憲法に準ずる)に反すると、12月2日に抗議した。

*二酸化炭素(温室効果ガスGHG)排出量を自然の光合成による吸収で削減できないため、植樹その他の方法で埋め合わせて、排出量を実質ゼロにすること。

●温暖化対策シナリオ


*「原子力産業の破綻 むだ金を使うのはやめよう」

 RTEの長期シナリオは、現在のフランスのエネルギー消費量1600TWh(テラワットアワー、多少少なく設定されている)を2050年までに約4割減らして930 TWhにする仮説に基づく。しかし、現在の消費量の約25%を占める電力は55%に増える(512TWh)と仮定する。それでも、3種のシナリオでは新たな原発をつくらずに大幅な省エネを想定しているのだが、メディアはその点を報道しなかった。メディアや政府、推進派政治家のシナリオ「解釈」には、原子力への最大依存案のみを強調するバイアスがかかっていたと言えよう。

 一方、省エネ、効率化、再生可能エネルギーへの転換を目的に2001年から活動する市民団体ネガワット(https://negawatt.org/)は、RTEシナリオ発表の翌日、エネルギー消費量全体を2050年までに64%減らす独自のシナリオを発表した。各分野の専門家などの共同作業による綿密な研究の産物で、電力の割合は増える(45%)が量は354TWhに抑えられ、2050 年までにカーボンニュートラルを達成するだけでなく、2030年までに温室効果ガスGHGの排出を55%減らすEUの目標もクリアしている。そして何より、化石燃料だけでなく原子力発電も止める。なぜなら、2015年に採択された国連「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」の17目標を考慮すると、すべての人々の健康的な生活、水と衛生の利用可能性と管理、持続可能なネネルギーへのアクセス、働きがいのある人間らしい雇用、持続可能な生産・消費形態、生態系の保護、各国内・各国間の不平等の是正といった多くの目標面で、原子力の使用は劣っているからだ。

 また、エネルギー消費の全部門(交通、住居、工業と消費材、農林業・食品供給)について、具体的にどのように省エネとエネルギー転換を行えるか、原料(とりわけレアメタル)をどのように持続するかなどについても詳しく計算・提案し、輸入品のGHG排出量も考慮した、非常に充実した内容だ。詳しくは述べないが、トラック輸送から鉄道輸送への転換、ガソリン・ディーゼル車の廃止、航空交通の課税と航空便の削減、住居の大規模な耐熱改修政策、動物性蛋白質消費の縮減、少規模畜産と有機農業への転換、プラスチック削減と修理可能な商品開発など、多分野の政策を提案している。

 原子力に代わる再生エネルギー源としてネガワットは、大幅に開発が遅れた風力(とりわけ洋上)、太陽光、バイオマスなどを早急に発展させる必要を強調する。フランスではEPR建設など原子力へ多額の出資を続けたため、再生可能エネルギーの開発と普及が遅れてしまったのだ(シェアは最終ネネルギー消費量の17%、電力消費の10%、2019年)。消費量に対する再生可能エネルギーの割合がEUの中で高い(40%以上)国はスウェーデン、フィンランド、ラトヴィアだが、フランスより少しマシなドイツでも電力生産量に対する再生可能エネルギーの割合は45,4%に達している(フランス24,1%、2020年)。たとえば、現在のドイツの風力発電機数29600に対してフランスは8000機で、「景観を損ない騒音の害がある」と風力発電に反対する運動がある。オイルショック後に大量の原発建設を進めた故ジスカールデスタン大統領(任期1974年-81年)が風力発電反対運動を組織したことを踏まえると、原子力推進派は風力発電の発展を妨げてきたのだろう。

●原発推進の旗手マクロンの欺瞞とEUへの働きかけ


*「原子力を救うために、どこまでいつまで生命を脅かすのか?」

 2015年のパリ協定に基づく欧州気候法(2030年の温室効果ガスGHG排出量を1990年の量に対し40%削減)は、その後に温暖化が加速したため、2021年7月設定の新気候法では55%削減になった。グレタ・トゥーンベリなど、とりわけ若い世代の大規模な市民運動による圧力のおかげで、EU諸国は気候対策に力を入れざるをえなくなってきたのだ。口先三寸の権化であるマクロン大統領も、気候対策の促進を国際舞台で派手に謳いながら、その実、フランスの温暖化防止政策は全く不十分で、GHG排出量の削減は遅々として進まない(2018年の減少率0,9%、2019年1,9%)。オックスファムやグリンピースなどフランスの複数の環境団体は、国家の無為に対して2018年12月に抗議の署名を始めた(230万人の市民が署名)。これら複数のNGOは2019年の3月、パリ行政裁判所に国家を訴えた。同じ趣旨でオランダで2015年、国家が気候対策の無為で有罪になった例に倣ったもので、フランス国家も2021年2月、温暖化防止対策の無為を咎められる判決を受けた。環境団体はさらに、国家にその非を償うよう求める訴訟を起こし、去る10月14日の判決でパリ行政裁判所は国家に、2022年12月31日までに気候対策の修復をせよと言い渡したのだ(こうした歴史的な判決をメディアはもっと大々的に報道するべきだろう)。

 ところで、フランスは2022年前半期に欧州連合理事会議長国を務める。マクロンはEUの「気候対策促進」を強調する裏で、EUタクソノミー(環境に配慮した持続可能な産業・業種の仕分け)のグリーンな産業に原子力を入れ込もうと働きかけている。二酸化炭素の排出量が少ない点のみで原子力は「グリーン」だと喧伝し、温暖化対策の一部として原子力産業を維持・促進しようという魂胆だ(グリーン産業なら投資の優先など特典が得られる)。温暖化防止対策を本気でやらずに、原子力への投資を気候対策に偽装する、一石二鳥のいかさまである。

 これにはドイツ、オーストリア、デンマーク、リュクセンブルク、ポルトガルの5か国が反対し、11月のCOP26で「原子力なしのタクソノミー」の共同声明を発表したが、フランスはポーランドやハンガリア、チェコに圧力をかけている。原子力を入れることに賛成させる代わり、天然ガス(化石燃料)もタクソノミーに含めるという破廉恥なディールだ。EUタクソノミーの決断は、この年内に欧州委員会長が発表する予定だ。

●原子力は気候を救わない(1)低迷する原子力産業

 原子力が気候を救わないことは、エネルギー問題を世界規模で考えればすぐわかる。フランスは電力消費における原子力への依存率が67%と世界で最も高いが、それは世界的には例外であり、原子力発電を行うのは33か国だけだ(現在稼働中の原子炉は合計415基)。2020年の世界の電力生産に対する原子力のシェアは10,1%。ピークの1996年でも17,5%で、不幸中の幸いといおうか、原発は世界に広く開発・普及できなかった技術なのだ(現在、生産量の多い順にUSA、中国、フランス、ロシア、韓国)。ちなみに、世界のエネルギー消費における原子力のシェアは4,3%にすぎない(2014年以降)。

 毎年、世界の原子力発電・原発建設の変遷を分析している「原子力産業情勢報告WNISR」(マイクル・シュナイダー代表 https://www.worldnuclearreport.org/)の近年の報告を見ると、原発建設・稼動開始のピーク期は1970年代半ば〜1980年代半ばで、スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマ事故後はぐっと低迷したことがわかる。フクシマ後に新稼動した原子炉63基(うち37基は中国)の建設開始から稼動までの平均年数は、9,9年と長い(最短例は中国4,1年、最長例はアメリカ42,8年)。フランスのフラマンヴィルで建設中のEPRは、2007年の工事開始以来トラブルが続き、稼動予定の2012年から11年延期されると見積もられている。建設費は当初の33億ユーロから190億ユーロ(約2兆4400億円)に膨くれ上がり、稼動できるかどうかもわからない(後述)。少数の例外(中国、韓国)を除いて、原発の建設は5〜10年を超えるほど長い。さらに、1951年以降に建設が始まった原子炉783基のうち、2021年7月までに建設中・完成後に稼動が放棄されたものは、19か国で93 基、12%近くに及ぶ(アメリカ42基、ロシア12基、ドイツとウクライナ各6基)。この事実からも、原子力発電は市民の反対運動を引き起こすだけでなく、技術と経済面からも産業として難しいことがうかがえるのではないだろうか。温暖化対策が緊急に求められる今、大量の原発を迅速かつあちこちにつくれると思う人たちは、原子力産業の実態を理解していない。

●原子力は気候を救わない(2)原子力産業の破綻

 フランス・フラマンヴィルとフィンランド・オルキルオト原発(後者は2021年12月21日運転開始、稼働予定12年遅れて2022年3月から本格運転。建設開始は2005年)でのEPR建設の大失敗は、原子力産業の破綻を端的に表している。EPR建設中の多々のトラブルの中でも重大なのは、2015年に原子炉容器の蓋と底の部分に鋼鉄中の炭素濃度が高すぎる箇所(炭素偏折)があり、耐性の欠陥(壊れやすい)が発覚したことだ。そして、フランス原子力安全局ASNが、この欠陥部品を作ったクルゾー社工場(旧フラマトムからアレヴァNPに、その後フランス電力EDF傘下に入り再びフラマトムに改名)の製造について過去にさかのぼる全体的・徹底的な調査をEDFとアレヴァ(後オラノに改名)に要求したところ、フラマトムと日本の鋳鍛鋼株式会社(JCFC)が生産した部品について多数の「不正」が発見されたとASNは2016年に発表した。フランスで稼働中の原子炉18基の蒸気発生器の底などにも、炭素偏折のある部品が使われていたのだ。

 さらに、第三者機関による監査によって、部品テストなどの報告書に400以上の偽造(悪い結果を正常値に近づけるなど)があったことが発覚した。2016年にはノルマンディー地方パリュエル原発の2号基で、老朽化した蒸気発生器の取り替え作業中の墜落という、原発業界では「想定外」とされていた事故が起きた。こうした技術的欠陥は原子力産業の技法ノウハウの喪失を表す、と原子炉物理学者でエネルギー効率化・省エネの専門家、ベルナール・ラポンシュは憂慮する。フランスの加圧水型原子炉PWRはすべてアメリカのウェスティングハウス社と合併したフラマトムが製造したが、稼働中最新の原子炉が1999年に完成して以後、同社は建設中のEPR以外、一基も原子炉を製造していない。製造部門にかかわらず、EDFでも原子力分野の熟練技術者の世代は引退してノウハウが失われ、現場では下請け労働者が多数、劣悪な労働条件で雇用されている。さらに、国家が筆頭株主であっても近年、原子力産業の指導陣は市場経済論理のみを優先し、技術的な知識や安全性に対する意識が大きく後退している。

 EPRについてはさらに今年の6月、世界で最初に2基稼働できた中国の台山(タイシャン)原発の1号基で原子炉内に放射能漏れが起き、7月末に稼働が停止された。これについて11月末、事情を知るエンジニアが内部告発をした。情報を受けたフランスの独立放射能測定所CRIIRADクリラッドは、フランスの原子力安全局ASNに公開質問状を送って事実を確認するように要請した。内部告発によると、燃料被覆菅の破損による放射能漏れは2020年10月から既に既定値を超えていた。そして、おそらくEPRの原子炉容器の構造自体に欠陥があるために、加圧水が注入される際に振動が起きて、その振動が燃料棒を破損させたらしいとのこと。さらにこの欠陥は、クルゾー工場(フラマトム)での2007-08年の模型実験でわかっていたらしい。したがって、この欠陥がタイシャン2(稼働中)、フィンランドとフランスのEPRにも共通する可能性は高い。(https://www.youtube.com/watch?v=T1bn5ZKQuM0

 そこでASNは12月、EDFにタイシャン1号の事故の原因を追求し、燃料棒破損の危険がある場合はその対策を明確にせよと要求した。脱原発の市民団体と政党(緑の党、屈服しないフランス)は当然ながら、フラマンヴィルEPRの中止を求めている。

 稼働中の原発でも頻繁に問題が起きている。12月16日、ASNはシヴォー原発で一次冷却水の非常冷却装置の配管に腐食・亀裂が確認されたと発表した。EDFは調査と部品交換など修復のため、同じ製造の原子炉を持つシヴォー原発2基とショー原発2基(いずれも1450メガワット=145万キロワット)の停止を決定した。稼働中の原発のうち最新の大型原子炉で、安全面で最も重要な箇所に欠陥が確認されたとは、深刻な事態だ。また、コロナ危機以来、定期検査期間延長などで停止中の原子炉が増えていたが、冬季にさらに大型原子炉4基が止まると、厳寒の際には電力が不足して他のEU国から輸入しなければならなくなる。大量に原発を建設した時代、電力消費を増やすために電気暖房の住宅も多数建設したフランスは、これまでも冬のピーク時に電力を輸入で補ってきた。「原子力によるエネルギー独立」は妄想にすぎない。

 こうした状況で原子力発電を拡大するのは自殺行為だが、既存の施設を止めるためにも、廃炉や廃棄物処理を最大限安全に行い、労働者と原発施設近くの住民の被曝を最小限に抑えるためには、技術と放射能管理の確実なノウハウの長期にわたる維持が必要である(現在、廃炉作業が行われているのは1996年に止まった高速増殖炉スーパーフェニックスのみで、2030年頃まで続く予定)。その認識は全くなしに、原子力産業と国際的な推進勢力は「ローコストの原発」SMRを量産しようと必死だ。「小型であろうと、原発の安全性管理と事故や異常事態に対応できるノウハウは、ごく少数の国にしかない。核拡散の危険も考えずに量産など、無責任極まる」と、原子炉物理の専門家ベルナール・ラポンシュは厳しく指摘する。

●原子力は気候を救わない(3)良心なき科学(知識)は魂の廃墟にすぎない

 老朽化が進むフランスの原発(56基中17が稼働40年超)では中小規模の事故や異常、放射能漏れや労働者の被災は(日本と同じく)頻繁に起きるが、EDFからASN原子力安全局への報告にはいつも時間がかかり、事象は必ず矮小化される。これらの原発を50年〜60年稼働延長するための「大修復」には1000億ユーロ必要だとみられている。また、温暖化によってまさに、干害による水不足で近年は夏季、河川の水で冷却する複数の原発を止めざるをえない。洪水でも1999年末、ブライエ原発が大事故寸前の危険に陥った。気候変動で頻度が高まった災害に対して、原発は耐性がなく脆いのである。

 こうした危険に推進派が不感症な理由の一つは、原子力は安全だ、たとえ事故が起きても大した影響はないという妄想に、いまだ囚われているからだろう。彼らはチェルノブイリや福島事故は、発達の遅れた共産国や大津波(自然災害)のせいだと片づけ、人間の過失・不完全さと複数の要素が生み出す複合的な過酷事故は制御できないという事実を否認する。そして何より彼らは、放射性物質が大量に拡散されて環境を末長く汚染し、人間や生物の健康を何世代にもわたって損なうという事実を軽視・否認している。原子力を推進する国際的な勢力は広島・長崎への原爆投下の当初から、内部被曝の実態を隠蔽して核兵器の開発と原子力産業を発展させてきた。チェルノブイリ事故後は「公式に」子どもの甲状腺がんしか健康被害として認めず、疫学調査や研究を妨害さえして最小限に抑え、「科学的に有意な証拠がない」と主張し続けた。福島第一事故後も行政は、たとえば甲状腺の初期被曝や土壌の放射能測定などを広く体系的に行わず、最初から「風評被害」という言葉を頻発して公式な調査・データ作成の道を塞いだ。

 しかし、放射能は危険だと内心ではわかっているから、原発を都会から遠い場所につくり、すぐ隣に四つ星のホテルを建てたりはしない。フランスの核廃棄物最終処理所には、過疎地のビュールが選ばれた。市民の反対意見・運動と国の独立機関の批判を無視・弾圧し、今年の9〜10月には国の「公益該当調査」が行われ、建設計画が進められている。原子力政策が反民主主義的であることは明らかだが、ウラン採掘や原子力施設の労働者、近辺の住民の被曝や事故の危険の軽視には、辺境(国)・地方に対する中央の植民地主義、階級差別の構造と権力者の奢りが表れている。つまり、原子力政策を決定・推進する国の政治・技術エリート指導者やそれに追随する人たちは(温暖化に対しても同じだが)、何か起きても自分が被害を受けることはないと思っているのだ。死んだり病気になったり、故郷から追われて苦しむ人々がいても知ったことはないと無視できるのは、被害を受ける民衆を同等の人間・市民とみなしていないからだろう。

 原子力については「クリーン」という言葉も使われる。現場で働く人を被ばくさせ、想像不可能な未来永劫まで核廃棄物を残すのに、「クリーン」にも推進派の倫理の欠落が表れている。「原子力はトイレのないマンションだ」と小出裕章氏がよく言っているが、原子力政策を進めてきたエリート指導者たちは、自分でトイレの掃除やおむつの取り替え、老人・病人の世話を一度もしたことがなく、自宅の台所と床は使用人がピカピカに磨き、おそらく自分でゴミ捨てもしないのだろう。原子力に限らず、産業の発展と生産主義は権力志向の支配的男性優位主義思考のもとに行われてきた。

 彼らは核のゴミをどうするか考えずに原発を増やし続け、解決できないので「核燃料サイクル(再処理)」というからくりでごまかそうとした(フランスの場合、リサイクルされる核廃棄物は1%以下)。増え続ける長期高レベル放射性廃棄物は、海底に捨てたり外国の過疎地に捨てたりもしたが、問題が意識されてきたので地中深くに埋めて「見えないから存在しない」ことにしようとしている。原子力についてもまさに、ルネッサンスの人文主義者ラブレーの言葉「良心なき科学(知識)は魂の廃墟にすぎない」があてはまる。前述のネガワットのように「持続可能な開発のための」目標に沿った倫理にもとづいて、原子力を止めるエネルギー転換をしなければ、気候も人類も救えない。

2021年12月21日 飛幡祐規


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