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必ず責任を取らせよう!ヒューマンチェーン300人〜東電刑事訴訟控訴審はじまる黒鉄 好
2019年9月、福島原発事故を起こした東電旧経営陣3被告(勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長)に対する無罪判決から2年2か月。検察官役指定弁護士の控訴を受けて控訴審初公判が開かれる11月2日の東京高裁前には、秋晴れの下、約300人が朝早くから集まった。 東京高裁前では参加者がヒューマンチェーンをつなぐ中、告訴人を代表して武藤類子さん(福島原発告訴団長・福島原発刑事訴訟支援団副団長)が「福島県民に未曾有の苦しみを強いたこの事故の責任を誰も取らないなどということはあってはならない。必ず責任を取らせよう」と決意を述べる。 この裁判に先立って審理が進む東電株主代表訴訟では、3日前の10月29日、福島第1原発敷地内に裁判官が直接立ち入りしての現場検証が行われている。事故被害者が国・東電に賠償を求めた民事訴訟で、裁判官が帰還困難区域で現場検証をした例はあるが、福島第1原発敷地内にまで裁判官が立ち入るのはこの株主代表訴訟が初めてである。みずからも株主側代理人として、裁判官とともに敷地内に入った海渡雄一弁護士は「民事でさえ裁判官が原発に入り現場検証しているのに、経営陣の責任を問う刑事訴訟で裁判官が現場検証もせずに判決を書くなどということがあってはならない。必ず現場検証を勝ち取ろう」とあいさつした。 午後1時半から始まった法廷では、まず検察官役の指定弁護士が、控訴趣意書を約30分にわたって読み上げた。指定弁護士は、原判決(2019年9月の東京地裁判決)の「4つの誤り」を指摘。(1)政府機関である地震本部の長期評価の信頼性を否定したこと、(2)原子炉の安全性に関する社会通念への理解が誤っていること、(3)経営陣の責任を福島第1原発の運転上の責任だけに限定して狭く捉えすぎており、事故の予見可能性に対する責任を無視したこと、(4)現場検証の要求に応じなかったこと——であるとした。 これに対する弁護側(3被告人の弁護人)の反論は、約10分程度と短いものだった。「東日本大震災は、指定弁護士が証拠提出した明治三陸沖地震などとは比較にならない巨大地震であり、その対策をしようとすれば、はるかに長期間を要する大がかりなものとなる」として結果回避は不可能だったと弁解。「過失犯の成立には予見可能性、結果回避可能性、結果回避義務違反の3要件が揃うことが必要であり、結果回避が不可能だった今回の事故では過失犯の成立要件を満たしていない」との形式論で控訴棄却を求めた。 1審・東京地裁判決で、永渕健一裁判長の出した判決は今思い出してもひどいものだった。「原発事故を回避するための唯一の手段は運転停止」であり、それ以外の安全対策は取り得ないと一方的に決めつけるものだった。弁護側はこの判決を引き合いに「指定弁護士側も運転停止を主張していたのだから、それに沿って書かれた原判決に誤りはない」と主張した。 だが、この主張は曲解といわざるを得ない。実際には、1審で指定弁護士側は「建物の水密化、防潮堤設置、非常用ディーゼル発電装置の高台移動など、運転停止に至るまでに取り得る何段階もの結果回避措置があり、それらを尽くしてもなお運転停止以外に事故を回避する措置がない場合の最終手段」として運転停止を主張していたに過ぎない。「あらゆる安全対策を尽くした上で、それでもなお事故を防ぐことができないと判断した上で、原子炉を止める」と「安全対策を何もせず、原子炉を止めるしか安全対策はない」という2つの主張に大きな隔たりがあることはご理解いただけるだろう。 こうした「安全対策の諸段階」をスキップした1審判決がこのまま確定すれば「原発を止める以外に事故回避の手段はなく、社会的影響力の大きな原発停止もできない以上、危険でも動かす」か「事故は起こせないので、原発は止める」かの二者択一しか存在しないことになる。市民、利用者の期待に応えるため、少しでも安全な原発にしようと日夜、現場で奮闘してきた原発関係者をも愚弄するものであり、私たち原発反対派はもとより、原発推進派の中の心ある人々のためにも根本的見直しが必要だというのが、1審判決からずっとこの刑事訴訟に関わってきた私の感想である。それほどまでに1審判決はひどいものだった。 被告人側代理人の声が、陳述が進むにつれ次第に小さくなっていくのがわかった。閉廷後の報告集会では、この日の裁判を傍聴した人が異口同音に「3被告人の弁護士が自信がなさそうに見えた」と述べたが、私も同じ感想を持った。付け加えておくと、今回の法廷で最も許しがたいのは被告人側代理人が「控訴審は事後審の性格を持っており、そこでの新たな事実取調は刑事訴訟法では予定されていない」を控訴棄却の根拠としたことだ。 そんなことが刑事訴訟法に書かれているとは私は承知していないし、1審終了後に裁判に影響を与え得るような新しい証拠や事実が出てきたとき、控訴審でその採用を求める権利は誰にでもある。こうした主張をすること自体、三審制を真っ向から否定するものだ。「自分たちの気に食わない法律など蹴飛ばしてやればいい」——こうした傲慢な企業体質こそが破局的事故を引き起こしたという事実に、10年たってもまだ気づいていない。この主張を聞いただけでも、この会社の再生の道はないと感じざるを得なかった。 「本日をもって結審します。次回判決を言い渡します」——私を含め、逆転有罪を求める被害者が最も恐れていたのは裁判長からこの言葉が出ることだった。だがその最悪の結末は回避された。「指定弁護士側から追加提出された証拠の扱い等は、次回までに合議で決めます」と細田啓介裁判長は述べ、わずか1時間でこの日の控訴審初公判は終わった。 次回の公判期日は明けて2022年2月9日14時開廷と決まった。なんと3か月も先だ。裁判所が「こんな裁判、実質審理もせずさっさと結審にすればいい」と思っているならこんなに先の期日は指定しないだろう。「年末年始の休みも返上して、自分たちは証拠資料と格闘し、事実をしっかり検証したい」という裁判所の意思表示と私は受け止めた。実質審理、現場検証を勝ち取る上で今後に希望をつないだ。少なくともその程度の手応えはつかんだこの日の法廷だった。 同時に、ボールは再び裁判所から私たちに投げ返されたのだという思いもこみ上げてきた。私たちは裁判所を見ているが、裁判所も私たちを見ている。向こう3か月、私たちがきちんとやるべきことを最大限やりきることが今後の裁判の行方を決める。覚悟を持って逆転勝訴へ向け進んでいきたいと決意を新たにした。 Created by staff01. Last modified on 2021-11-04 11:17:58 Copyright: Default |