パリの窓から : 監禁日誌6/人の命はコストではない | |
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監禁日誌6 人の命はコストではない*「もうこんなことは絶対に起きてはならない、許さない」ネットデモと署名 マスクや検査について、マクロンと政府の言うことが大きく変わった。欠乏を隠すために「必要ない」と主張したのが明らかになったが、そうした過ちと責任、そしてコロナ感染状況の深刻さから人々の目を逸らすために、「外出禁止を守らない人たち」が槍玉にあげられる。 ●4月4日(土) 19日目。イルドフランス地方の集中治療室は満杯(2200人)で、すでに1日水曜にTGVでブルターニュ地方の病院に重症患者が移送されたが、3日金曜にはヘリコプターや航空機(軍用機も)によっていくつかの地方に移送が行われた。集中治療(蘇生)用の機器やスタッフはそう簡単に設置や移動できないのかもしれないが、TGVや航空を使う移送には多くの人員と費用がかかる。月曜までに合計216人が移送されるというが、セーヌ=サン=ドニ県やパリの緊急医組合は、「ヘリコプターやら大勢のスタッフを必要とする移送よりも、パリやサン=ドニで閉められた病棟に人工呼吸器を設置し、集中医療スタッフを呼んだ方がよい。閉めた病棟を再開せよ」と主張している。例えばパリのオテル・デュー病院は昨年5月、3分の1をプロモーターに譲渡(80年間、異常な安値で)したばかり(ガストロミー・レストランやホテル、店舗などが建設される予定)だが、これに反対した市議のダニエル・シモネもオテル・デューと廃病院になったヴァル・ド・グラース軍病院を再開せよと呼びかけている。パリ市長アニー・イダルゴもようやく、オテル・デューとヴァル・ド・グラース病院の再開に賛成したようだ。私は盲腸でオテル・デューの緊急病棟に入ったことがある(担当の科に空きベッドがないので郊外の病院に移送された、そういうのは救急車で簡単だが)が、今はその緊急病棟はない。 さて、マスクについてはアメリカのトランプも一般の人に「勧める」(任意)と意見を変えたことが大きく報道された。ドイツや他の国の例もあげて、フランスでも健康省の健康局長ジェローム・サロモンが「今製造中のオルタナティヴ・マスク(FFP2とサージカルマスクではない布製など)を一般もつけることを勧める」と発表、公式見解が変わった。検査にしても政府の立場は変わり、3月28日に健康大臣が500万できるようになる(4月中に毎日3万、5月に6万、6月に10万以上)と発表。ドイツで毎週50万以上すでにやっているが、フランスではようやく検査の輸入と生産のめどがついたので、立場が変わったわけだ(「ロックダウンを解く際に必要だから」と説明されている)。 製薬大企業でCovid19の検査がすぐ作られなかったことを3月31日の日誌で述べたが、フランスではブルターニュのNGBiotiqueという企業が最近、Covid19用の血液検査キットを開発したそうだ。血液1滴を垂らし、数分後にコロナウイルスの抗体があるかどうかわかるという。許可が下りて生産に入ったというから、そのうちお目にかかれるかもしれない。検査についてもフランスの遅れは明白だ。ドイツではベルリンのTIBMobiol研究所が1月9日にすでにPCR検査を作り、1月末から検査ができるようになった。フランスでも研究者が検査を作ったが、国の許可がなかなかおりなかったり、必要な反応体がフランスで生産されていなかったりなどで、大量生産ができなかったらしい。また、動物・植物の病気検査所もコロナ検査ができると申し出ているが、健康省からの返事が得られない。3月30日に医学アカデミーが「動物の検査所はCovid19の検査ができる」というコミュニケを出したにもかかわらず・・・ さて、毎晩20時、医療スタッフを励まし謝意を表すために、拍手や音を鳴らす儀式は続いているが、「それだけでは不十分、公共病院や医療スタッフの恒久的な待遇改良の要請を積極的に表明すべき」だと、バルコニー・デモを行う人たちもいる。
https://reporterre.net/Partout-en-France-les-manifs-de-confinement-prennent-de-l-ampleur 今日、4月4日の14時にはネットでの最初のデモが催され、7万以上のツイートがあった。今日はとても暖かく、春たけなわ。通常ならデモ日和の土曜日だったが。死者7560人(うちEHPAD2028人)、入院者数29143人(重態6836人) ●4月5日(日)
20日目。昨日よりさらに暑い初夏の陽気。13区南端のこの辺りは団地(高層を含む)が建ち並び人口が多いので、大中小の公園がいくつもあるが、すべて閉鎖されていて土や芝生の上には行けない。子どもはコンクリの上でしか遊べない。それにしても、いつの間にベンチを「お一人さま」に変えてしまったのか。3月13日までやっていた市町村選挙キャンペーンで、私たちは「pour une ville solidaire, pas solitaire(孤独ではなく連帯する街のために)」というスローガンを作り、お一人さまベンチを問題にするビデオを撮ったりした。 孤独といえば、道を歩いていると、ベンチや階段などに座っている孤独な老人を見かける。ホームレスの人々も歩いている。政府は街に出ている人が多すぎると自宅待機をさらに強く呼びかけているが、人口から考えるとほとんどの人が我慢して「1日1時間半径1キロ」をだいたい守っているのではないかと思う。こんなお天気の日曜だったら通常、公園やセーヌ河岸はすごい人出になるだろうが、そんな人数が道を歩いているわけではない。一方で、必要不可欠でない経済部門で、従業員に休みをとらせずに再開した企業や工場も多いというが(マスクや1メートルの距離を保証できない環境で)、政府は以前も今も(おそらく今後も)企業を責めることはなく、抗議するのは労働組合や野党のみだ。
死亡が15000人を超えたイタリアでは、死亡数だけでなく集中治療室の重症患者が減り出したという。スペインの日ごとの死亡者数も減り始めた。フランスは5日夜の発表で病院での死者5889人、EHPADが2189人(まだ全部の統計ではない)、合計で8078人。入院者数28891(重態6978人)。Coronavictimes(コロナ被害者)という市民団体が立ち上がり、様々な状況に応じて訴訟を起こす準備を始めた。すでに医師など医療スタッフの団体が首相と(前)健康大臣を訴えたが、「コロナ被害者」はその賛同署名をしている。また、EHPAD(医療つき老人ホーム)の高齢者や自宅待機の患者が、集中治療など本来なら受けられるはずの病院治療を受けられない不平等を問題にしている。「公共衛生緊急事態法」には、そうした高齢者の治療について言及されていないが、実際には集中治療ベッドが足りないため、病院ではすでにトリアージュ(治療の優先決定)が行われており、EHPADは見捨てられている。この状況について「コロナ被害者」と「ジュシユー反アスベスト委員会」は、首相と健康大臣に対して指令と決定方法を明確に要請するよう(医師だけに責任をおしつけるのでなく、そして患者や患者家族の意思も尊重されるべき)、行政裁判所に急速審理を提出した。これは受理され、6日午前中に回答が得られる予定だ。 高齢者や医療(公衆衛生)は、マクロンの大統領キャンペーンの綱領から忘れられていた。前健康大臣はコロナウイルスが広がり始めた2月半ば(後から自分は危険がわかっていたと告白した)、大臣を辞任してパリ市長選に出馬した。マクロンの健康・高齢者対策部門の顧問の女性も1月末、夫の市長選選挙を手伝うために辞任して大統領官邸を去った。次の顧問の就任まで1か月近くそのポストはあいたままだったそうだ。フランスはなぜか女性の平均寿命が高い国だったが、近年はもはや延びず(女性)、とりわけ「健康で過ごせる平均寿命」は短くなってきた(男女とも)。近年の公共医療の劣化、EHPADでの待遇の悪化も関係しているのかもしれない。 ●4月6日(月) 21日目。久しぶりに雨が降った。3月8日の「女性の権利デモ」ですごく雨に濡れたのが遠い昔のことのようだ。 2日前に、動物・植物の病気検査所laboratoires vétérinairesがコロナウイルス検査を申し出ても政府から回答がないと書いたが、今日ようやく許可がおりた。この検査はPCR検査ではなくて血液検査(Covid19に対する抗体があるかどうかを見る)だ。政府はなぜすぐ許可を出さないのか(ロックダウンからもう3週間)と、医師や研究者からの批判が高まったからだろうか。いずれにせよ、2日前に紹介した企業(軍が多額の援助を決定)だけでなく、各地の検査所が検査キットを作って早く大量の血液検査ができるようにすることが重要だ。EHPADの住人・スタッフ、医療スタッフの検査は必須だし、ロックダウンを解く段階でウイルスに既に感染したかどうか、この血液検査が必要になる。 「屈服しないフランス」の議員たちによる調査委員会のヒアリングは、様々な分野の専門家や現場の人々の話がビデオで聞けるので本当に興味深い。公衆衛生と労働者の健康について研究し、アスベストなど産業公害、殺虫剤や被曝労働の被害者(犠牲者)の側で長年訴訟などを闘ってきた社会学者(国立健康・医学研究所)のアニー・テボー=モニーのヒアリングでは、今回の公衆衛生危機における問題点が明確に指摘された。簡単に紹介しよう。 まず10年来、国がパンデミックへの備えを放棄して備品の在庫がなかったこと。そして、コロナウイルス感染が広がり始めた時にすぐ対処しなかったことだ。マスクなど備品もPCR検査も欠乏している状況で感染が爆発し始めたので、やむなくロックダウンになった。本来なら、早期に検査で感染者を発見し、隔離して感染の広がりを抑えるべきだった。ロックダウン後も必要な措置がとられず、必要不可欠な医療物資が今も不足、薬品も在庫がなくなってきた。 ロックダウンの場合、必要不可欠の最小限の活動(医療、食品の供給、それに伴う運輸などと清掃、郵便などの公共サービス)にとどめるべきだが、その分野で働く人々の安全を検査で保障しなければならないのに、検査どころか防護用品さえ足りない。とりわけ、スーパーの従業員や配達の人などふだんから不安定雇用の人々の安全が、まったく軽視されている(実際、スーパーや配達会社、パリ交通公団などの従業員が亡くなっている)。食品の供給においても、政府は屋外のマルシェ(市場)を禁止した(県や自治体による例外措置あり)が、地域の小生産者からの供給の方が多数の人が仲介しないから安全性は高い。スーパー・ハイパーでも必要不可欠ではない商品売り場は閉鎖されず、感染の危険を抑える意思が感じられない。 これについては「屈服しないフランス」が国会で何度も必要不可欠な分野は何かと聞いても回答はなく、それを規定して不必要な分野の経済活動は中止せよと訴えても聞き入れられない。エアバスやミシュランは工場を再開した。また、原発の下請け労働者が語ったように、ただでさえ悪い条件の労働者たちに、緊急事態法でさらに長時間労働(週に60時間まで、休みの短縮)と感染のストレスが加わったら、労働者自身と原子力施設双方の安全が損なわれやすい。 インドやアルジェリアで結核予防の実地調査をしたアニーは、公衆衛生の基本はまず町医者による予防や対処が大切であり、すべて病院に集中させたフランスの現在のシステムは脆弱だと指摘する。疫病についても、まず町医者が検査して無症状の感染者を病気休暇にして容態を観察するといった措置ができれば、救急への集中も防げるのだ(それには、町医者、自宅訪問する看護師その他医療スタッフにマスクその他が必要だが)。そしてヒドロキシクロロキンも最初の症状の段階で使用すれば、重症化が防げるのではないかと。そして大切なのは、疫病の時に働かなくてはならない人すべての健康をフォローするという考え方だ。 アニーとは原発の被曝労働の問題で知り合ったが、彼女は昨年4月に起きたノートルダム大聖堂火災による鉛汚染の際、そして9月のルーアンのルブリゾル化学工場による汚染の際、声をはりあげた数少ない知識人(そして行動する市民)の一人だった。フランスでは1年のうちに、実に3つの大きな公衆衛生危機(スキャンダル)が起きたわけだ。この三つに共通するのは、当局による事実の否認(「問題は何もない、ちゃんと管理している。直ちに危険はない」)である。産業公害は放射能と同じで健康被害が何年、何十年も後に出てくるからフォローが必要だが、フォローしなければ原因がわからず責任を問われない。だから健康被害を矮小化し、何よりまず経済への影響を人々の健康・命より優先する。それはネオリベラリズムに限らず、産業革命以来、国家がとってきた政策だった。しかし今、人間の命を「コスト」と見る考え方を捨てて、健康と命を中心に据えた社会を考えときだとアニーは言う。彼女は2014年に『La science asservie(隷属させられた科学)』という本を書いた。 他の科学者のヒアリングでも興味深い指摘がたくさんあった。命と公衆衛生が大切だと考える科学者たちはまだ存在する。それについてはまた明日。 死亡者数8911(病院6494人、EHPAD2419人)、入院者数20722 (重態7072人)先週の木曜から毎日、ものすごく死者が増え続けた(病院だけでも)のだが、「この24時間に集中治療室に入った人の数は94人でロックダウンが始まって以来最少」とル・モンド紙は表現する。よくなって別の病棟に移ったか、あるいは亡くなった人の数が多いのかもしれないので、状況は分からない。今やスペインとイタリアを抜いて、アメリカに次いで死者数の増加ではフランスが世界で2番目だ。 ●4月7日(火) 22日目、ロックダウン4週目に入る。今日は、アジアの台湾や韓国にならってフランスでもスマホによるジオロケーションを政府がやるつもり(感染者のトラッキングのため)だとか、パリ市がパリ警視庁と共に、ジョギングなどスポーツを10時〜19時禁止する条例を明日8日から施行、などという報道が大きくとりあげられた。ジオロケーションについてはむろんブーイングで、マクロンの与党内でさえとんでもないと反対の声が上がっている。 外出のさらなる規制については、「例外的外出」の証明書に「個人のスポーツ・身体運動、散歩(同居人となら一緒でもよい)、ペットの散歩のために1日1時間以内、自宅から半径1キロ以内の短い移動」という項目がある。新たな禁止は公共の場に人が多すぎるのが理由だと報道されたので、日中の散歩も禁止だと解釈する友人もいて、しばらくテレグラムのグループで意見が交換された。なにしろ、(戦争や占領下じゃないのに)これほど細かく自由を制限されるのは前代未聞のことだ。「黄色いベスト」運動以来、デモの自由がどんどん制限されたのを経験しているため、「公共衛生緊急事態を利用して国家の監視を強化し、独裁的警察国家に突き進めるかどうか、こういう条例でテストしているのだ」と憤慨する人も。「キャッシャーや配達人に防護マスクをつけさせずに働かせる経営者は咎められず、独りで走る人が無責任だと言われ、仕事に行くために交通機関に複数の人が一緒に乗るのは安全なわけ?」警官による職務質問(と罰金)の濫用はロックダウン下でも頻発しているため、「曖昧だから、警官の解釈によってイチャモンつけられるかも」という危惧も故なきことではない。明日から様子を見ないと。(4月8日追記:「散歩」は禁止ではないとはっきりした。ジョギングの取り締まりに大勢の警官が動員されたが(!)、違反者はほとんどいなかったらしい。) 「もうこんなことは絶対に起きないように(許さない)!」(広島・長崎、チェルノブイリ、福島事故などについて使われるスローガン)という呼びかけに署名した。コロナウイルス危機を生んだ、環境を破壊し人類を脅かすネオリベラル政策と決別しなくてはならない。民主的で環境を保護し、社会不平等を是正し、真に男女平等な明日の社会を一緒につくろう、という趣旨の市民団体、環境団体、労働組合による呼びかけだ(具体的な政策を要請)。 毎夜の健康省健康局長の発表により、フランスの死者数は1万を超えた。病院での死者とEHPAD(医療つき老人ホーム)の死者を合計したもので、後者についてはまだ統計からもれているところもある。死者の統計は国により状況が異なり、自宅や老人ホームでの死者は把握されていない場合もあるだろうから、おそらくどこも実数はもっと多いのだろう。しかし、今やフランスはスペイン、イタリアよりも増え方がひどい状況なのに、「回復者の数がどんどん増えている」とつけ加えているのは、厳しい現実を和らげようとしているのだろう。主要メディアの報道にも、人々の気を逸らそうとしているような印象を受ける。というのも、フランスの回復者はまだ2万に及ばず、イタリアやスペイン(そしてドイツ)より少ない。人口に対する検査数は「西」ヨーロッパ諸国で最も少ない(日本ほどではないが)。ロックダウン4週目に入っても検査がこれほど追いつかないのは、嘆かわしい。死者数10328(病院7091人、EHPAD3237人)入院者数30027(重態7131人) 飛幡祐規(たかはたゆうき) Created by staff01. Last modified on 2020-04-09 10:20:59 Copyright: Default |