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パリの窓から : 監禁日誌1 コロナウィルスが広がるフランス
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 第59回・2020年3月19日掲載

監禁日誌1 コロナウィルスが広がるフランス


*ピティエ・サルペトリエール病院前の垂れ幕「忘れられすぎている私たちの社会の英雄、病院の全スタッフありがとう!」

 このコラムの名称「パリの窓から」が文字どおりの状況になった。コロナウイルスCovid19感染の広がりを抑えるため、フランス全土が3月17日(火)正午から「監禁」状態に入ったのだ。各自の外出を必要最小限にとどめて、人と人との接触を減らすことが目的で、イタリアとスペインに次ぐ措置である。「監禁日誌」やビデオがネットで発信されているのを見て、私もフェイスブックで(できれば)毎日の記録をつけることにしたが、より多くの人に届くようにこのコラムでも少しずつ紹介していく。3月16日月曜、市町村選挙が行われた翌日の夜8時にマクロンがこの措置を告げたので、日誌はその日から始まる。

●3月16日(月)市町村選挙第1次投票、そして「監禁」

*強行された市町村選挙の投票所の一つ

 先週木曜3月12日の夜にマクロンは演説し、コロナウイルス対策のために保育園、学校、大学などを閉鎖すると告げた。14日土曜の夜にはフィリップ首相が感染は第3段階に入ったと告げ、その日の真夜中0時からレストランやバー、食料品など必需品を扱う店を除くすべての商店の閉鎖を命じた(憲法の49.3条項で年金改革法案を強行採決した時も土曜の夕方だったが、告知後数時間で全部店を閉めろって無茶なやり方だ)。ところが、翌日15日(日曜)の市町村選挙の第1次投票については木曜もやると言い、土曜も変えなかった・・・予想されたように棄権率は55%を上回り、前回より20ポイントも増えた。市町村選挙は1980年代まで70%以上の投票率だったのだ。その後徐々に下がったのは政治への幻滅があるが、今回はとにかくコロナウィルスの影響が大きいだろう。

 さて、16日月曜の20時、またマクロンが演説して、遂にフランスもイタリアと同様、全国「封じ込め」状態になる。17日火曜の正午から最低2週間。同じく17日の昼12時からEUの国境も封鎖される。市町村選挙の第二次投票は延期・・・木曜に感染が増え続けることは分かってただろうに、有権者を全く馬鹿にしている。

 すでに木曜の告知の後、フランスでもスーパーに殺到した人たちがいた(私が住む13区の南付近のスーパーでは、混雑やガラガラの棚はそれほど目立たなかったが)。土曜の告知の後は、生活に余裕があるブルジョワなどは田舎のセカンドハウスに大急ぎで移動したという。それって、ウイルスをまだあまり感染していない地方に拡散することになる(イルドフランス地方は感染数が多く、症状がなくても感染している可能性がある)ので、公共交通機関による移動はどうしても必要な場合以外はするなと指示が出ていたのだけれど。前からの予定で既にユー島(大西洋)の家に行っていた友人によると、県令が出て島の居住者以外には渡航を禁じた(船に乗る権利なし)という。

 16日現在、フランスの感染数は6683、死者148人。前日から1210件も増えた。ミュールーズ(アルザス地方)の状況は危機的で、イルドフランスの病院もかなり飽和状態に近づいてきているらしい。10年以上も公共病院の予算、人員、ベッド数を削ってきたネオリベラル政策の害がはっきり示されている。医師や看護スタッフ全員が労働条件の悪化によって疲弊し、1年前からストなどで訴えてきたのに、聞く耳を持たなかったマクロンは今、「公共サービスが大切、福祉国家を保つ必要」などと語るが、改心したとは思えない。

 これまでのネオリベ政策や初期対応の悪さのせいで、多くの死者が出てしまうであろうコロナウイルスの危機。切り抜けられたらこれを薬に、連帯と相互扶助、公共サービス、つまり「公益」に基づいた社会をつくっていかなければならない。メランションが言うように「古い世界は今崩れつつある」「エゴイズムではなく分かち合いの価値観が、強欲や略奪、我欲以外の才能を人間が伸ばせる社会を構築できる」。

 今晩の演説でマクロンは、年金改革法案の討議継続や失業改革措置(4月1日から施行)の延期を語り、経済的ダメージを受ける企業への支援措置も発表した。フランス経済を救わなくてはならない立場にあるから、これまでと逆のことをやるわけだ。全くヴィジョンが異なる別の社会をこの人がめざせるとは思えないので、なるべく早く退陣してもらわなければ。

●3月17日(火)監禁第1日


*「監禁」前の路上

 前健康大臣のアニエス・ビュザンは、コロナウイルスが広がると1月から知りながら、パリの市町村選挙が行われないとわかっていながら、選挙に出馬したという報道。


*「監禁」後に窓から撮ったゴミ回収トラックの人々

 フランス全土で「監禁」の第1日目。正午までスーパーや薬局には長蛇の列(1メートルずつ距離を取らない人もいる)。12時過ぎてしばらくはまだ道に人が出ていたが、夜までに街はどんどん静かになった。これから少なくとも2週間、証書(仕事、必需品の買い物、医療のため、弱者の援助のため、自宅の周りの身体運動など理由を書いてサインした紙)を持たないで外出したら罰金。コロナウイルスが広がるスピードを、人と人との接触を減らして抑えるのが目的。午前中に政府のサイトからこの書式をうまくダウンロードできないケースが続出(自筆も可)。月曜から始まったはずのネットを通した遠隔授業もうまくいっていないという。

 今日のショックはなんといっても、ル・モンド紙に掲載された前健康大臣アニエス・ビュザンの告白だ。1年前から医療部門従事者が病院の危機をストやデモで訴えてきたのに、ろくな回答をしなかった彼女。2月中旬に健康大臣を辞任し、パリの市町村選挙に出馬した。マクロン党(共和国前進)リストのトップだったグリヴォーが、猥褻スキャンダルで退いたからだ。ル・モンド紙の記事では、その時コロナウイルス感染が広がると懸念していたので「市町村選挙はないだろうとわかっていた」、そして「コロナウィルスの蔓延の危険を1月にマクロンと首相に伝えた」というのだ。

 フランスの最初の感染者(3人)は1月24日、武漢から集団帰国したフランス人は2週間隔離されて問題ないと言われたが、その後ゆっくり感染が増え2月25日に最初の死者が出た(その時感染者数は14か13)。2月29日には死者2人、感染が100件となり(ここで第2段階宣言)、3月に入るとどんどん増え続ける。選挙キャンペーンは始まっていたのだから(たくさん人と接触し、集会を開き、戸別訪問をし、ビラをまき、握手やビーズ(両頬にキス)する)、ここで選挙は取りやめるべきだったのだ。私も地元13区のキャンペーンの手伝いをしたし、12月からずっとたくさんデモや集会に行った(最後が福島9周年3月11日でこれは人数少なかったので許可されたが、3月8日の女性デモはパリ数万人、すごく大勢の人と接した)。


*窓から

 3月8日は死者19人、感染1126で1000人を超えている。それからすごい勢いで増えて17日現在死者175人、感染7730。イタリアは3月10日に全土「監禁」となり、その時すでに1万件以上で死者が631人。イタリアの状況を見ていたのだから(フランスも集中治療ベッド数が人口に対して足りない)、もっと早く手を打つべきだっただろう。選挙を強行した政府とマクロンの罪は大きい。(野党が反対したと政権は言うが、会派の長をよんだ会合で選挙の延期については意見を聞かなかった。この政権は他人の意見を聞いたためしはない)それに情報を持っているのは政府で、「科学者の意見にもとづき」といつも説明してきたのだ。現場の医者、看護スタッフはマスクや消毒液など最低限の必要なものが不足していることと、感染の広がりを訴え続けていた。

 イルドフランス地方の集中治療ベッドはあと200しかないという。危機的な東部地方には軍隊が野営病院を設置する。また、軍の緊急医療専用機やヘリコプターで重態患者を軍病院などに移動する。

 マクロンは演説で看護スタッフを「英雄」と讃えたが、予算追加も給料引き上げも一言もなかった。そこで市民たちが窓から夜19時や20時に一斉に拍手するアクションを考えた。看護スタッフも多く感染しているようだ、亡くなった医師もすでにいる。2019年に政府は4200ベッドを削除した。労組SUDの医療部門は今日、厳しいコミュニケを出した。マクロンは演説で「私たちは(コロナウイルスと)戦争中だ」と数度語ったが、コミュニケは「公共医療サービスは大砲ではなく予算削減によって破壊されている。戦争なんて耐えられない表現だ、私たちは敵と戦っているのではなく、人間を治療している。愛国心からではなく人道によって治療するのだ」と指摘する。まったくその通りだ。そして戦争ならば戦士のために物資や機材、医療器具を供給するのに、物資を削除し戦士の数も減らし続けたではないか、と。そして彼らは、必要でない企業や工場を閉鎖し(感染が広がらないように)、パリの路上にいるホームレスを保護する居場所を与えよと主張する。

●3月18日(水)監禁2日目

 工場労働者や他の従業員は「命や健康への危険により仕事に赴かない権利」を行使しなければならなくなる。中国からマスク100万が届く。フランスの軍隊省はようやく500万のマスクの提供を決定。コロナ死者264 (+89) 感染9137 (+1405) 重態931


* controle近所で外出者をチェックする警官たち

 2日目。晴れて暖かい日だから子どもは外で遊びたいだろう。「監禁」においても貧富の差(社会の不平等)は明らかに現れる。ブルジョワは田舎や南仏のセカンドハウスに「避難」し、まるでヴァカンス。狭いアパートに住み、仕事に通わなければならない人とは雲泥の差だ。さらに居場所のないホームレスや難民たちに、どんな「隔離」を提供できるというのだろうか。マクロンの演説を聞いて社会援助政策をとるかのような印象を持った人がいるかもしれないが、その実、彼が約束したのは主に銀行への融資や商店・企業の困難に対する援助で、医療部門従事者への経済援助は一言もなかったように、テレワークせよと言ったほかに勤労者に対する援助は語っていない。

 ジャーナリストで国会議員のフランソワ・リュファン(先日、彼の訳本を上梓した)は昨日第1日目から、アミアンの自宅からフェイスブックでライヴを行っているが、今日はアミアンの自動車部品工場ヴァレオの組合員へのインタビューがあった。3月初めに工場労働者に最初の感染が出て増え始めたので、4日間臨時失業の措置がとられた(960人正規雇用、非正規を入れるとさらに多数)。しかしその後のフィリップやマクロンの演説では「必要以外の仕事はやめよ」とは言わなかったので、経営者側はマクスを4000用意して製造を続けると告げた(そのマスク、まず医療部門に回されるはずではなかったのか?)。そこで、組合はじめ一部の労働者は「命や健康に対する危険がある場合」に仕事に赴かない権利を行使し、休業に入った。この工場はトラックなどのクランチを製造、食料品や必要な医療器具ではないのだから、感染が広がったのになぜ不必要な製造を続けるのか?と組合員は語る。工場労働を全く知らないマクロンやフィリップたちは、労働といえば「テレワーク」しか思いつかないのだ。

 病院や医療従事者(看護ヘルパーなど含め)にもマスクが不足しているが、スーパーのキャッシャー、出前など配達の人たち(最も不安定雇用)もほとんどマスクをしていない。今日、中国がフランスのために送ったマスク100万がベルギーに到着したが、夜になって軍隊省(防衛省からマクロンがこの名称に変えた)が500万マスクを提供すると決めたというニュースを読んだ。なぜ今まで軍隊は病院にそれを提供しなかったのか!

 マスクといえば警官、憲兵にも十分いきわたっていないようだ(感染者が増え約1000人の警官・憲兵が監禁状態)。

 明日から国会が再開する。今日の閣議で政府は「公衆衛生緊急事態」法案を作ることを決定、2015年のテロの後にも「緊急事態」が施行されてしまった。外出、集会などふだんは保証されている自由を制限したり、民間企業から物資を徴用したりなどの措置を首相が政令で取れるようにするためだ。この法案と緊急の予算措置などを国会(国民議会と元老院)で討議・採決し、政府への質問が続けられる。しかし国会議員の中にも感染者が出ているので、国民議会では各会派3人ずつ24人のみが参加、残りの議員たちとはネットでつながる。(水曜に出された法案を翌日に討議とは、夜中まで働けということだ)。

 「屈服しないフランス」のメランションはこういう危機的状況だからこそ、民主主義の機能を保ち続けなければならないと言う。フランスの第五共和政は大統領に権力が集中しすぎ、そのためこれまでもその弊害を被ってきたが、ごく少数派の野党であろうと、とにかく議会による政府のコントロールを保つことが肝心だ、と毎週のyoutube通信で語った。マクロンが言うような第一次大戦時に使われた「神聖な同盟」(戦争のための労働運動、社会主義者と政府の協力)ではなく、公益のために行動すること。優先されるべきは健康面・経済的な民衆(全体)の安楽、そして民主主義だと。

 知人で感染者3人。友人の知人に入院した人もいる。今日の夜、昨日より多くの人が医療スタッフに向かって拍手し、音を鳴らした。

             飛幡祐規(たかはたゆうき)


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