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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『介護ヘルパーはデリヘルじゃないー在宅の実態とハラスメント』
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毎木曜掲載・第146回(2020/2/13)

介護労働者へのリスペクトを

『介護ヘルパーはデリヘルじゃないー在宅の実態とハラスメント』(藤原るか、幻冬舎新書)評者:渡辺照子

 あまたある「介護本」の中で嫌でも目につくタイトルだ。だが、数字、つまり売上というシビアな闘いをどこよりも強いられる幻冬舎ならではのエグい戦略だな、と思ったら大間違いだ。介護へルパーの仕事がいかに過酷かを表すものなのだ。

 著者(写真下)は訪問ヘルパーとして20年のキャリアを持ち、介護問題についての社会的発言も多い活動家でもある人物。肉体的なきつさは無論のこと、感情労働の極みである介護の仕事について、これでもかとばかりにインパクトあるエピソードを繰り広げる。

 「デリヘル」とは「店舗がなく、客のいる自宅やホテルなどに風俗嬢を派遣し性的サービスを行う業態」(ウィキペディアによる)のこと。訪問介護の男性利用者から、女性訪問介護労働者が、後ろから抱きつかれたり、ベッドから抱き起こす際に胸やお尻を触られる、キスをされるなどのセクハラ、わいせつ行為をされることは日常茶飯事。利用者の中には「お金を払うから、やらせろ」と言ってくる男性もいるという。そんなことから、このタイトルをつけたのだ。

 利用者の自宅で、他に人がいない状況で、セクハラを受けながらも介護サービスをしなければならないという理不尽さが横行し、若い女性介護労働者は、ショックで精神を病み、仕事を続けられないという。賃金は低く、社会的評価も低い中、やりがいの搾取すらも成立しない介護労働の現場の過酷さが、これでもかとばかりに綴られる。

  さらに驚愕するのは、そのセクハラよりもパワハラのほうが深刻だという事実だ。日本介護クラフトユニオンのアンケート調査によると女性ヘルパーの7割が利用者や利用者の家族からパワハラを受けているという。

 しかし、読む者に不快感や負担感を与えないのは著者が介護労働に意義や生きがいを見出し、本当に好きだからなのだろう。そして、自分を含む介護労働者の実態を冷静に見つめ、社会的問題としてとらえ、その解決方法の提言にまで至っている意識の高さによるところが大きい。閉塞感はなく、具体的な展望を提示してくれる姿勢は実務家の力量に他ならない。

 私も高齢の母の家族介護をしている。感情のコントロールがきかず、「以前のまともな時」の母とは別人のように暴言や暴力もある。訪問介護ヘルパーは、その何倍もの「行為」を赤の他人の様々な利用者から受け、それでもなんとか限られた時間の中で、契約で定められたサービスを淡々とこなす。その様は、今どきの言葉を借りるならばまさに「神対応」だ。

 認知症の進んだ利用者に対し「こうあるべきだ」との正論をぶつけても解決にはならない。仕事に対するプライドと誠実さにより柔軟性を持って仕事を続けるその姿に私はただただ敬服する。

 介護労働は全産業平均の32万9600円より約11万円低いというが、訪問介護はさらに低い賃金だ。訪問時間が45分と短縮され、その中で業務をこなさないとならないという矛盾も抱える。

 著者はホームヘルパーの仲間2人と共に、訪問介護の現場では長年にわたり、労働基準法が守られていないこと、そのため、訪問介護労働者が、正当な賃金を受けられずに不利益を被っていることが介護保険制度自体に内包する問題であるとし、国を相手に国家賠償訴訟を提起している。

 現場の実態とかけ離れた数合わせに拘泥した介護行政を施す官僚、庶民の生活感覚とは程遠い日々を送る閣僚に、数日間でいいから、訪問介護ヘルパーの仕事を経験させたい。権力の中枢にある者が、介護を「女性がタダでやってきた、誰でもできる仕事だから、賃金は低くて良い」ととらえる差別と偏見により介護労働者の社会的評価を貶めているだから。

 高齢社会の日本で、AIでは代替できないのが介護労働ではないか。介護労働なくして、人々の生活は成り立たない。

 本書はそんな介護労働者へのリスペクトを醸成する、情にも理にも訴えるパワーあふれる良書だ。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。


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