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〔週刊 本の発見〕「特別の教科 道徳」ってなんだ?
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毎木曜掲載・第144回(2020/1/30)

道徳問題は学校だけの問題か?

『「特別の教科 道徳」ってなんだ?−子どもの内面に介入しない授業・評価の実践例』(宮澤弘道・池田賢市編著 現代書館 1500円+税)評者:杜 海樹

 2019年度から道徳が中学校まで教科化された。そして、子どもたちの内面をも評価されかねない方向へと舵が切られた。これまでの学校教育では、戦前の修身の反省に立ち、内面を評価することは行わないとの立場が貫かれてきたが、ついに?と言うか、とうとう?と言うか、風穴が開けられる結果となった。こうした事態に対し、『「特別の教科 道徳」ってなんだ?−子どもの内面に介入しない授業・評価の実践例』の著者は、個人的で多様であるはずの価値観を国家が規定し、国家から与えられる価値観で評価されることになれば、民主主義の否定であると強く警告している。また、各種法律の内部で起きているある変化についても非常に興味深い指摘をし、この本を通じて多様性を認め合う共生社会に向け何ができるかを考えて行きたいとしている。

 本の中ではいくつかの教材が具体的に紹介され、問題点等々が指摘されているので、そちらの方は本の中でお読みいただければと思うが、その中の一つとして、教材として有名な『星野君の二塁打』も紹介されている。『星野君の二塁打』とは、話を要約すると、少年が野球の試合に出た時の話で、監督からバントのサインが出されていた時、バッターボックスに立っていた星野君がバントではなくバットを振って二塁打を打ってしまった。その結果、試合には勝利したのだが、試合後、監督からサインはバントでありサインを無視してヒットを打った星野君は約束を破り和を乱したとして、そのままにしてはおけないと糾弾される場面で話が終わるものだ。

 この話はもちろん学校で教材として使われているので、義務教育を終えた大人達がこの教材で直接授業を受けることはもちろんないはずなのだが、どこかで『星野君の二塁打』と似たような話を、労働の現場で耳にしたことはないであろうか…? 例えば次のような感じの話として。

 星野君という社員が会社の営業で、上司から10件の保険契約ノルマ指示が出されていた時、契約にあたっていた星野君が保険契約ではなく定期預金の契約をとった。その結果、営業成績はあがったが、上司から、指示は保険契約であり指示を無視して営業成績を上げた星野君は約束を破り和を乱したとして、そのままにしてはおけないと糾弾されるといったような類いの話だ。どうであろうか? ちなみに厚生労働省は、職場内での服務規律について厚労省モデル就業規則第10条において「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない」と提示し、このモデル就業規則の例を参考にして就業規則を作成し届け出るよう促してもいる。

 道徳というと、学校に通っている子ども達と先生の話…と、どこか他人事のように受け止めている方が少なくないという気がしているが、実は本当の意味で既に内面まで介入されてしまっている?のは、労働の現場で働く大人達の方なのではないだろうか。この本は働く人々にとってこそ必要な本かも知れない。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。


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