〔週刊 本の発見〕『楽園をめぐる闘い―災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ』 | |||||||
Menu
おしらせ
・レイバーフェスタ2024(12/25) ・レイバーネットTV(12/11) ・あるくラジオ(10/10) ・川柳班 ・ブッククラブ(2025/1/11) ・シネクラブ(9/1) ・ねりまの会(10/12) ・フィールドワーク(足尾報告) ・三多摩レイバー映画祭 ・夏期合宿(8/24) ・レイバーネット動画 ●「太田昌国のコラム」第97回(2024/12/10) ●〔週刊 本の発見〕第370回(2024/12/12) ●「根津公子の都教委傍聴記」(2024/12/19) ●川柳「笑い茸」NO.158(2024/10/26) ●フランス発・グローバルニュース第14回(2024/10/20) ●「飛幡祐規 パリの窓から」第96回(2024/12/5) ●「美術館めぐり」第5回(2024/11/25) ★カンパのお願い ■メディア系サイト 原子力資料情報室・たんぽぽ舎・岩上チャンネル(IWJ)・福島事故緊急会議・OurPlanet-TV・経産省前テントひろば・フクロウFoEチャンネル・田中龍作ジャーナル・UPLAN動画・NO HATE TV・なにぬねノンちゃんねる・市民メディア放送局・ニュース打破配信プロジェクト・デモクラシータイムス・The Interschool Journal・湯本雅典HP・アリの一言・デモリサTV・ボトムアップCH・共同テーブル・反貧困ネットワーク・JAL青空チャンネル・川島進ch・独立言論フォーラム・ポリタスTV・choose life project・一月万冊・ArcTimes・ちきゅう座・総がかり行動・市民連合・NPA-TV・こばと通信
|
毎木曜掲載・第140回(2020/1/2) 「ショックドクトリン」に抗する人たち『楽園をめぐる闘い―災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ』(ナオミ・クライン、堀之内出版)評者:根岸恵子プエルトリコのことを多くの人が関心を持ったのは、2017年のハリケーン・マリアによる甚大な被害を目の当たりにした時だったと思う。それまでプエルトリコが米国の植民地で大統領選挙の投票権もなく、アメリカ資本によって食い物にされているという事実も知ることもなかった。米国はハリケーン・マリアの被害を過少に報告し、この楽園はさらに素晴らしくユートピアに生まれ変わるのだと喧伝をした。本書は小冊子だが、書かれている内容はあまりにアコギな事実だ。しかし、この本には私たちが今世界を最もゆがませている原因である新自由主義に対抗できる力を与えてくれるものが示唆されているようにも思う。 私にはプエルトリコの知人が一人いる。すべてのプエルトリコ人が彼のようだとは思わないが、彼のストイックさは彼が生まれ持つある種の客観的視点の上にあるのだと思う。生まれも育ちもニューヨークであるにもかかわらず、自分はプエルトリコ人であり、アメリカ人ではないという彼の心の奥底にあるプエルトリコとはいったい何だろう。 プエルトリコは米国資本が「楽園」と宣伝するように、コロンブスがやってくる前は本当に楽園であっただろう。もともとのプエルトリコの原住民であったタイノ族はスペイン人がやってくると奴隷となり死ぬまで働かされ絶滅してしまった。その後スペイン人入植者は他地域のインディヘナの先住民やアフリカの人々を連れてきて奴隷にし、今のプエルトルコ人というのは様々な民族の血を受け継いだ人々なのだという。コロンブス以後の歴史はヨーロッパ人に翻弄されるものだったが、その地に根付いたプエルトリコ人というのはその土地と結びついた一つの民族的なものなのだと思う。しかし、プエルトリコは1900年にアメリカの植民地となり、プエルトリコ人は念願だった主権を持つことはできずに、今その土地でさえ追われているのである。 ナオミ・クライン(写真)が『ショック・ドクトリン』を発表したのは2007年だが、邦訳が出たのは2011年9月だった。これは東北で地震が起き、福島の原発が爆発した後だった。『ショック・ドクトリン』は「惨事便乗型資本主義」といわれ、新自由主義がいかに危機的状況を狡猾に利用しているのかを批判している。市場原理主義提唱者ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派が、世界各地で惨事を利用して金儲けをしていることがいくつもの例を挙げて述べられている。日本の竹中も彼らの一派だが、彼らは人の命や生活を一切考慮しないという徹底した冷酷さをもって金をむさぼっているのだ。米国という国はチリでクーデーターを起こす前からそういう国だったと思う。 私は昔、軍都だった新宿の歴史を調べていて、戸山の一帯が1945年5月に空襲で焼けた後、GHQが焼け出された人々のためにと木造の住宅地を造らせたという話をずっと美談だと思ってきた。しかし、空襲の前にアメリカが木材の買い占めを行っていたという話を聞いて、金儲けのために焼き殺された日本人のために嘆き悲しむことになった。 今回クラインがこの小冊子を書いた理由は、彼女がプエルトリコの現状を見て書かずにはいられなかったのだろう。プエルトリコ人というのは、実はプエルトリコに住んでいる人より米国本土にいる人のほうが多い。長年にわたり、アメリカはプエルトリコをプエルトリコ人から奪うために、プエルトリコ人の本土移住計画を進めてきた。その代わり、プエルトリコをタックス‐ヘイブンにして、塀で囲われた一大リゾートに富裕層が税金逃れでどんどんと移り住んでくる。ハリケーン・マリアはプエルトリコ人には悲劇だったが、資本にとっては金儲けの機会を与えてくれたありがたいものになった。「われわれは危機を変革のための好機だと捉えているのです」。銀行、不動産開発業者、暗号通貨トレーダー、選挙を経ずに選ばれた7人の絶対的な影響力を持つ者にとっては金儲けの大チャンスとなった。これを機に民営化を進めようという政治的な勢力も人々から福祉やエネルギー、教育を奪おう迅速に決定を下そうとした。しかし、それに抗う勢力は必ずいるのだ。ただ、問題は、資本とは違い、運動の動きは遅い傾向にあるというのだ。民主的な決定には時間がかかる。 それでも、プエルトリコの各地で起こり始めた小さな運動が大きな力となり始めているとクラインは述べている。彼らが団結し、アグロエコロジーに基づいた農業とエネルギーの地産地消、自らが支える教育など、人々の力を信じている。活動家の一人は「この人たちが植民地主義と奴隷制を生き抜いてきた人びとの子孫であり、だから強靭なのだということを、わたしに思い出させます」というように、プエルトリコ人は闘いに耐え抜く力を備えているのだろう。クラインは本書の結びで「一方はショックを利用しながら、そして他方はショックに抗いながら。両者がぶつかりあうことを避けることはできない」と書いている。 いま世界で多くの人々が立ち上がっている。闘いは避けることができないのだ。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2020-01-03 12:06:21 Copyright: Default |