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週刊文春も書かなかった事実 カジノ管理委員・遠藤典子氏の「正体」
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すでに1週前の号になってしまったが、新年早々発足したカジノ管理委員会をめぐる疑惑について、「週刊文春」が1月23日付で報じている(安倍官邸が指名 カジノ管理委員 遠藤典子に「夫婦で背任」告発〈カジノ業者を審査・監督する「美魔女」に疑惑〉https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200116-10001056-bunshuns-pol)。有料記事なので、全文はバックナンバーを入手するか、オンライン記事を購入して読んでいただきたい。

週刊文春の記事は、遠藤氏が過去にダイヤモンド社の編集部時代、日経からの記事盗用問題を起こしたこと、出版社であるダイヤモンド社の役員を務めながら、みずからライバル社となる別の出版社を立ち上げ経営していたこと等を報じている。記事盗用は明白な違法行為としても、ライバル社立ち上げがなぜ問題なのかはよくわからないという人も多いだろう。簡単に言えば、ライバル社を立ち上げ、みずからが執筆した出版物をそこから出版した場合、本来であればダイヤモンド社に入るはずの利益が自分の経営するライバル社に入ってしまうことになる。これが、ダイヤモンド社に対する背任行為に当たる可能性があるのだ。

検察当局にとって、背任罪の証明は非常に難しいもののひとつだし、年末に「亡命」したカルロス=ゴーン氏の背任の立証にも検察が苦慮していたとの報道もある。ゴーンに逃げられて、一番ホッとしているのは実は検察、という報道まで出る始末だ。

「文春」では、遠藤氏が原子力損害賠償制度に関する著書を出版した事実に触れている。記事では書名は明らかにしていないが、当ブログが調べたところ、原子力損害賠償制度の研究(岩波書店)という著書を、2013年、確かに出版している(https://www.nikkei.com/article/DGXDZO63045780T21C13A1MZA001/)。文春は「原子力損害賠償制度のスキームを構築した官僚を高く評価するもの」だという。「この本を契機に、遠藤氏は原発推進の論陣を張って活動するようになりますが、中でも経産省の島田隆元事務次官に食い込み、原子力小委員会の委員などに任命されるようになった」とも伝えている。

文春が、遠藤氏と原発との関わりについて報道しているのはここまで。これ以降はカジノの話に移っている。明確な原発推進ではないとしても、少なくとも原発反対の姿勢は取っていない「文春」としてはこれ以上の深入りは避けたいとの思惑もあるのだろう。しかし、明確な反原発の姿勢を取っている当ブログにとっては、そんな「大人の事情」など関係ないので、さらに話を進めると、遠藤氏はなんと、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の運営委員に就任しているのである。そのことは、当の「機構」自身が情報公開もしている(参考資料 http://www.ndf.go.jp/gyomu/i_meibo_unei.html)。

「機構」は、福島第1原発事故の半年後、平成23(2011)年9月に「原子力損害賠償支援機構」として発足した。平成26(2014)年に現在の名称に改称。「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」に基づいて国が設立したいわゆる認可法人である。

福島第1原発事故の被害者に対する賠償はこの法律に基づいて行われている。東京電力の原発事故被害に対する賠償は、現時点でも21兆円にのぼっており、普通の民間企業ならとっくに倒産している。しかし、東京電力が倒産したら被害者への賠償が行われなくなる、という口実の下に、東京電力を残したまま賠償を行わせるため「機構」が東京電力株の過半数を保有し、東京電力に賠償資金を交付する業務を行っているのである。

問題は、この「機構」から東京電力への資金交付が返済不要な交付金ではなく、返済が必要な貸付として行われていることだ。みずから稼ぎ出した利益の中から、貸付金をいずれ返済しなければならない東京電力にとっては、賠償を事実上少なくした方が「借金」が減り、その分、利益が増えることになる。福島県民を初め、事故被害者に対する賠償が、被害が継続しているにもかかわらずどんどん縮小されているのはこのスキームによるところが大きく、不満が募ってきている。

もうひとつ、「機構」から東京電力への資金が貸付であることによって起きる弊害は、東京電力の利用者と原発事故被害者をいがみ合わせ、闘わせるスキームになっているということである。東京電力としては、前述した事情から被害者への賠償を縮小すればするほど借金が減り利益が増える。しかし、被害者への賠償をきちんと実施すればするほど東京電力の「機構」への返済額は増加するから、電気料金を値上げする話になりかねない。利用者にしてみれば、本来は事故を起こした東京電力に怒りを向けるべきだが、最近は本当の意味で闘うべき相手が誰か見定められない日本人が増えてきている。「あいつら(被害者)のせいで電気代が上がる」との感情を利用者が持てば、東京電力管内の利用者と原発事故被害者が、国と東京電力の差し金によって闘わせられることになりかねない。そんな問題だらけのスキームなのである(というより、国は国民を団結させず分断するために、意図的にこのようなスキームを採用している、というのが本質である)。

国策民営として、みずから原子力推進政策を立案しておきながら、事故が起これば頬被りをして電力会社だけに賠償責任を負わせる。「賠償か料金値上げか」の二者択一に話をすり替え、東京電力の利用者と原発事故被害者がいがみ合わざるを得ないように仕向けていく。

市民不在、利用者不在、被害者不在で、賠償をしなくていい国と、どちらにしても自分の財布は傷まずに済む加害企業・東京電力だけが笑う。こんなスキームを「高く評価」する人物とは、要するに自分自身が原子力ムラの側に身を置いていて、利益を受ける一部の者だけだということは忘れずに指摘しておく必要がある。そのひとりが遠藤氏なのだ。

厳密に言えば、遠藤氏の著書出版は2013年で「機構」成立はそれより前の2011年だから、遠藤氏の著書出版が「機構」設立という政策決定に何らかの寄与をしたわけではない。だが、この著書を出すことが、遠藤氏の「機構」運営委員就任にプラスに働いたことは容易に想像できる。自分で国の政策を賛美する著書を出し、その対象となった政策を推進する組織の役員に就く−−こんな自作自演のやらせを平気で行う人物が、カジノ管理委員会の委員に就いているのである。普通の、まともな感覚を持った人間なら、こんな人物を役員に据えるカジノ管理委員会がまともに機能するとは考えないだろう。

安倍首相は、自民党国会議員が逮捕までされているにもかかわらず、なおカジノを推進する姿勢を崩していないが、管理委員会の人選からしてこのレベルでは腐敗撲滅など期待できない。カジノは中止すべきだし、原子力損害賠償についても、東京電力利用者と原発事故被害者が闘わされなくても済む新たな被害者本位の制度設計に着手すべきである。

(文責=黒鉄好)


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