山口正紀のコラム : コロナ禍の同調圧力と対峙する舞台表現の試み | |
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●山口正紀の「言いたいことは山ほどある」第8回(2020/12/3 不定期コラム) コロナ禍の同調圧力と対峙する舞台表現の試み―「憲法寄席」2020秋席公演「欲しがりません、勝つまでは」――コロナ禍騒動に便乗し、権力の思うままに市民生活を統制できる国家を作ろうとする〈同調圧力〉が強まっている。それを象徴するのが、〈自粛要請〉なる奇妙な言葉だ。自粛は要請されてするものではない。実態は、人々の不安につけ込んだ〈強要〉なのに、いつのまにか人々の心を呪縛し、支配していく。 そんな同調圧力に抗し、強要の実態を暴露して、権力を笑い飛ばそうという舞台表現の試み――「憲法寄席」2020秋席公演が11月28・29日の2日間、東京・文京区の本郷文化フォーラム(HOWS)で開催された。題して「カバレット コロナ禍騒動その壱」。時局風刺のギター弾き語りや替え歌演奏、紙芝居、そして書き下ろしによる朗読劇。客席を制限し、厳重な感染対策を施した会場で、観客はフェイス・シールド越しに陰湿な同調圧力を解き放つ痛快な笑いを共有した。 創作集団「憲法寄席」は2007年5月の「国民投票法」=壊憲手続法強行採決に反対し、演劇、音楽、文学、寄席など様々な分野で労働者を核とした文化創造に関わってきた人たちが「風刺と笑いを孕んだ文化」(カバレット)の創造を目指して結成した。 以来13年余、年1〜2回、憲法や安保法制、秘密保護法、日の丸・君が代などをテーマとした朗読劇やブレヒト劇をイメージした創作舞台、コント、講談、替え歌などを中心とした公演活動を続けてきた。2018年1月からは、HOWSで毎月1〜2回、「憲法寄席ミニライブ」も開き、若い表現者も次々と加わって多彩な舞台を作り出している。 今年も11月に「小熊秀雄没80年の集い&長長忌」を開く予定だった。ところが、春以来、コロナ感染防止を理由に公共施設での上演はもちろん、多人数が参加する稽古場も確保できなくなり、「長長忌」は中止を余儀なくされた。 では、このまま黙ってコロナ禍の嵐が通り過ぎるのを待つのか。「憲法寄席」企画・制作の高橋省二さんは、「こうした時期にこそ、ブレヒトに学んで〈コロナ禍での日本の恐怖と貧困〉を風刺と笑いで暴くことが大事ではないか」と仲間に呼びかけ、規模を大幅に縮小して、「カバレット コロナ禍騒動その壱」の開催にこぎつけた。 ステージは28日夜、29日午前、29日午後の計3回。客席は予約制の20人に絞り、オンライン配信で上演された(ツイキャス生中継「なにぬねノンちゃんねる」、Youtubeで後日配信の予定)。 ステージは、第1部が「時局風刺ソング」「ブレヒトソング」「昔今物語 コロナのにおい」、第2部が朗読劇「Fact?――非日常的なる日常におけるネコ騒動」。 舞台は「コロナ禍川柳選」の映像で開幕、レイバーネット川柳から選ばれた秀作13句が次々スクリーンに浮かび上がった。「マスクさせ日本列島口封じ」(笑い茸)、「民主主義あっと言う間に隔離され」(一志)、「コロナ禍は弱者に重くのしかかり」(奥徒)、「叩き上げ仮面剥がれて夜叉の面」(八金)、「この事態コロナの乱よなぜ起きぬ」(乱鬼龍)……。 第1部では、レイバーネットTVでおなじみジョニーHさんの時局風刺ソングがあいかわらず絶好調で、替え歌の新作を披露。なかでも秀逸だったのが、小池百合子都知事をパロディにした「七つの子」だ。本来取り組むべきPCR検査・医療体制の整備はそっちのけ。部下に作らせたボードのフレーズをテレビカメラに向かって得意げに説明し、都民に説教するのが仕事だと勘違いしている小池知事の「五つの小」を徹底的に笑いのめした。 山岡明雄さんの「昔今物語 コロナのにおい」は、コロナ禍で広がる「自粛警察」「マスク警察」に走る人々の心性を紙芝居で考える試み。営業自粛に応じない飲食店やマスクをしない人を非難・攻撃するような「私的取締り」は、実は今に始まったことではない。 2011年東日本大震災の福島原発事故後に広がった原発事故避難者に対する差別・排除・攻撃、1995年の地下鉄サリン事件後、子どもまで対象にしたオウム真理教信者に対する地域社会の徹底排除、そして1923年、関東大震災の混乱の中で「朝鮮人が暴動を起こす」とのデマを信じた自警団が起こした朝鮮人大虐殺。山岡さんは、それらに共通する「得体の知れない存在」に対する〈恐怖〉と、それを攻撃・排除する行動を〈正義〉と思い込む心性に、「コロナのにおい」の目に見えない怖さを嗅ぎ取った。 第2部の朗読劇「Fact?」は、劇作家・杉浦久幸さん作・演出の書き下ろし作品。 ある日、締切に追われる童話作家・東雲ありすのもとに「猫の第六事務所のかま猫」を名乗る人物から電話がかかってくる。かま猫は「まもなく戦争が始まります。迎えの者が伺いますので、それまで絶対に外に出ないでください」と告げる。半信半疑のありすに、かま猫は「指示を守らなければ、あなたを非国民として断罪しなければなりません。今は戦時下なのです。不要不急の外出は敵対行動と見なされます」と脅す。 編集者や友人からとりあわないようにアドバイスされ、最初はいたずらだと思っていたありすだが、繰り返しかかる電話でしだいに暗示にかかる。やがて外出できなくなり、テレビやネットの情報も信じられなくなる。相手の顔が見えない情報のいったい何が「ファクト」なのか。彼女はドアを開けて、「自分の目で確かめなくちゃ」と思うのだが……。 門岡瞳さん演じるありすをはじめ出演者4人が醸し出す世界は、副題の通り「非日常的なる日常」だ。だが、たとえば自分に不都合な真実をすべて「フェイク」と言い張るアメリカのトランプ大統領、それを信じ続けるトランプ支持者を思い浮かべると、「非日常的なる日常」は容易に「日常的なる非日常」に反転する。この日本でも、ウソにまみれた安倍晋三政権や菅義偉政権への高支持率の異常さはトランプ以上だ。 コロナ禍の下で日常生活にさまざまな制約を課され、「非日常」が日常化した社会で、私たちは何をファクトとし、何をフェイクと判断するのか。かつて、メディアが「大本営発表」を垂れ流し、人々がそれを信じ続けた苦い経験のあるこの国で、もう一度「自分の目で確かめる」ことの大切さを思う。 ドイツのメルケル首相はコロナ禍対策として5月、「連邦政府は芸術支援を優先順位リストの一番上に置いている」として、中止になったイベントの補填をはじめ、文化芸術活動に取り組むアーティストに対するさまざまな支援を約束し、実行した。 日本では、行政機関がアーティストの支援どころか、音楽、演劇などの舞台、ライブを「クラスター発生源」として目の敵にし、「自粛警察」を煽った。憲法寄席の試みは、そんな日本社会の同調圧力に対する、笑いを武器とした痛烈な反撃だった。 Created by staff01. Last modified on 2020-12-03 22:23:32 Copyright: Default |