原発は何を奪ったのか〜『福島は語る・完全版』江古田映画祭で上映 | |
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原発は何を奪ったのか〜『福島は語る・完全版』江古田映画祭で上映笠原眞弓コロナ騒ぎで、プログラムが軒並み中止・延期される中、江古田映画祭は会場を武蔵大学からギャラリー「古藤」に移し、防疫体制を整えて開催された。感謝!! 映画祭は3月7日まで行われる。(詳細は、映画祭フェイスブック) * * * * 初日の2月29日、私は『福島は語る・完全版』を見た。『福島は語る』の5時間20分の完全版を見るには、それなりの体調管理と決心がいる。その決心をして観に行った。2時間50分版を見ていて、それもよかったけれど、それより数倍よかった。2回の休憩が入り、章ごとにつくりが違い、その人の人間が浮き彫りになってくる。前作の要素を切り取ってすっきり見せるものでなく、少し長めのインタビューや生活背景が写し出されてくる。何度涙があふれたか…。しかも声を上げたいところもあった。映画を止めて、戻って一緒に泣きたいところもあった。笑える場面でも泣き笑いだった。途中で寝るかな?と心配する必要は、まったくなかった。ギンギンに目も頭もさえていた。
そして上映後の土井敏邦監督のお話しでその秘密がわかった。私は仕事としてインタビューをしてきたので、相手とインタビュアーとの距離感は大事ということは知っている。うまくいったこともあるし、失敗もいっぱいした。「こういう関係の作り方だよね」と、もう一度、現場に戻ってインタビューしたくなった。 土井さんは言う。パレスチナを30年撮ってきて、「問題」を伝えようとすると伝わらないことに気づいたといのだ。その問題によって「人」はどうなったか、「暮らし」はどう変わったか、という「人間」を語ることで、背景にある「問題」が、心情(気持ち)と共に見えてくると。つまり「原発が何を奪ったのか」がおのずと分かると。
石工の杉下初男さんのインタビューは、場面が変わりながら40分を超えている。ショートバージョンもそれくらいあった、土井さんがこだわった場面だ。彼は、息子さんを亡くす。その後悔を縷々述べるのだが、時々相槌を打つ土井さん。そして最後の方になって、「土井さんよ〜」と思わず友だちに語り掛ける口調で、呼びかけて語り出す。そして、彼は、自分よりよっぽどつらい人がいると、家族が津波にのまれた人、その後に病死した人に思いを馳せる。もしかして、このまま自責の念で、生きる力がなくなるのではと思えたギリギリのところで、土井さんに話すことで、土井さんが共感してくれたことで、彼は立ち直り、自分を鼓舞する。動かない機械しか写っていなかったのに、次の場面では工場の空気が変わっている。慣れた手つきで機械にスイッチを入れ、仕事を始める姿が映る。 大熊中学の生徒たち、小学生の言葉、運動会など、登場人物それぞれを紹介したいが、それはできないので、もう一人だけ触れる。中村和夫さん。彼は百姓だ。しかも有機の。原発事故後の4月に私は初めてお会いした。彼は「百姓は、それでも種をまく」と語った。その言葉をいただいて、福島の知り合いの有機農家を訪ね『それでも種をまく』という映像をその年に仲間と作ったという個人的つながりの方だ。彼の言葉は、国際有機農業映画祭の実行委員たちを励まし、前を向かせ、映像を作らせ、先に進むことができたのだ。お宅に泊めていただいたり、東京でデモを一緒にしたりしていた。ある日訃報を受け取った。そのお元気な姿に、そして明るい郡山弁の和夫節が画面に広がった時は、心底うれしかった。昨年、『それでも種をまく』の続編を撮影してみんなで仕上げた。土井さんの映画とお話しに刺激され、今後も少しづつ福島を撮っていきたいと思った。 -------------- Created by staff01. Last modified on 2020-03-01 21:52:28 Copyright: Default |