〔週刊 本の発見〕『移民がやってきた−アジアの少数民族、日本での物語』 | |||||||
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毎木曜掲載・第135回(2019/11/28) 未来につながる「無国籍」という生き方『移民がやってきた−アジアの少数民族、日本での物語』(山村淳平・陳天璽著、現代人文社、1800円+税、2019年8月刊)/評者:佐々木有美「無国籍」とは何かを深く考えさせられる本だ。日本には、敗戦後間もなく、「日本国籍」をはく奪された在日コリアンとその二世、三世(いわゆる朝鮮籍の人たち)がいるが、本書は、1990年代から日本にやって来た、アジアの少数民族の人たちの発言を記録している。彼らの多くは、出身国ですでに市民権や国籍を奪われていた。著者は医師で、長年日本の移民コミュニティで無料医療相談を行い、移民・難民問題の映像ドキュメンタリーも制作している山村淳平さん(写真下)と、早稲田大学教授・無国籍ネットワーク代表の陳天璽(ちん・てんじ)さん。 発言者の多くは、20年以上、日本に暮らしている。ビルマの少数民族ロヒンギャ、スリランカのタミル族、トルコのクルド人、バングラデシュのジュマ族など、わたし自身初めて知った民族もありその多様性に驚いた。彼らは少数民族として自国の政府から迫害を受け日本に来た。本来ならすぐ難民として認定されなければならない人々だ。その認定がほとんどされていない。 2017年の日本の難民認定率は、0・3パーセント。2013年からゼロパーセント台が続いている。いわゆる先進国の中でも、日本の認定率の低さは突出している。難民と認定されず、在留資格もない人々は、就労は原則禁止、健康保険、生活保護も受けることができない。彼らは外国人収容所に収容され、難民申請を拒否され、収容と強制帰国への不安を抱えながら何年もかかって在留資格を得ている。いまは、中古品の貿易や、解体業などで懸命に働き、日本社会に着実に根付いている。生活の便宜上日本国籍をとった人も、心は自分の民族や故郷を離れることはない。民族の言語、文化を大切にし、自分たちのコミュニティを作って相互扶助を実現している。 本書には、三人の移民二世の声も収録されている。親と一緒に日本に来たが、まず最初に出会うのが言葉の壁、学校でのイジメ。しかし専門学校に入り、資格をとり、たくましく生きている。ただ、日本生まれでビルマ・カチン族の19歳ミヤさん(仮名)は、「みたこともないカチン文化や言葉にとまどう」「カチンで暮らすのも、日本で暮らすのもどちらもむずかしい。息がつまる」と率直に語る。居場所の見つからない二世の正直なことばだ。 本書のもう一人の著者陳さんは、1971年横浜中華街生まれ。両親は台湾籍だった。1972年日中国交回復で日本は台湾と断交。陳さん一家は中国籍になるか日本籍になるか、それとも移住するかの選択を迫られた。どれにも抵抗を感じた一家は無国籍を選んだ。(ただし在留資格はある)。 陳さんは「二世になると、『中国人』『日本人』という一つのアイデンティティでは生きていけない」「わたしはわたし、国という帽子をかぶせないでほしい」と言う。しかし民族教育の大切さは強調する。言葉が不自由だとアイデンティティの確立ができず、自信を持って生きることができないからだ。彼女は日本社会に、二世や三世が母語や文化を学ぶ機会の保障を求めている。「国籍があってもなくてもいい。何より大事なの人の尊厳。国籍の有無よりその人がその人らしく生きられることが大切」と陳さんは訴える。 著者の山村さんの考え方は刺激的だった。「20世紀の植民地独立は、多数民族の少数民族への支配を同時に生み出し、多数の難民を生み出してきた。近代の一民族一国家という国民国家の枠組みは、これだけ世界中で人間が移動している21世紀にはそぐわない。時代遅れの国民統合ではなく、多民族・多文化社会の中でこそ新しい創造的な社会は可能だ」。国はなくても人は生きる。ナショナリズムと排外主義に染まったいまの日本に生きる者として、国家を超える「無国籍」という生き方に、夢と未来を垣間見た。 〔編集部注〕山村淳平氏の映像作品は以下でご覧になれます。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2019-11-27 19:22:26 Copyright: Default |