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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 政治スキャンダルにかまけていて、見えなくなるもの
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 ●第37回 2019年11月15日(毎月10日)

 政治スキャンダルにかまけていて、見えなくなるもの

 いつの頃からか、国会での「論戦」と言えば、政府閣僚の各種スキャンダルの責任を追及する野党と、防戦一方の、否この間の実情に即して言うなら、居直りと逃げ切り一途の政府・与党の攻防に象徴されてしまうのがふつうだ。体たらく、というほうがよい。政治スキャンダル暴きに精を出す某週刊誌の発売日は毎週木曜日だが、その内容が前夜から木曜日にかけて明るみに出ると、その「○○砲」なるものの衝撃度に応じて「政局」が動くという、信じがたい低レベルの「政治」が横行している。

 「政治」なるものがこんなレベルで常態化していることに関して、私が深刻な危機感を抱いたのは、いつ頃だったか。思い出す限りで言えば、2001年秋、鈴木宗男衆議院議員にまつわる「疑惑」事件の頃だったか。ソ連体制が崩壊し、ロシアは価値観の根底的な転換の時期を迎えていた。鈴木はエリート然とした政治家ではなく、自認するように「古いタイプの政治家」で、典型的な地元(選挙区)利益誘導型の人物だったから、北方諸島問題で地元=北海道、とりわけ釧路・根室などの道東地区の住民の利益を絡めて、揺らぐロシア政治への食い込みを図っていた。同時に、国連加盟国数が多く、日本からのODA(政府開発援助)を待望しているアフリカ諸国への働きかけも目立った。外務省からすれば、ロシアとは領土交渉で避けられぬ相手であり、国連安保理常任理事国入りを展望するなら「票数」が多いアフリカ諸国との関係も重要だった。したがって、その双方の相手国と並々ならぬ関係を維持してきた鈴木は、外務省に隠然たる力を持ち得たのである。

 このとき明らかになった鈴木にまつわるスキャンダルは、確かに、名誉欲・経済的実利欲・権力欲などにまみれていて、批判的な追及がなされてしかるべきものだった。だが、社会の底流には常に、政治不信や経済的な不公平さへの不満、時代の偏狭な価値観ゆえのいくつもの人間の疎外状況などが渦巻いている。鈴木宗男スキャンダルの時にせよ、現在の日本社会を仕切るスキャンダル政治にせよ、それらをめぐって人びとの心に鬱積している不満を、きわめて「低い」地点で解き放っているのではないかというのが、私が持つ疑問点だ。絵に描いたような「悪役」を追及し表舞台から追放してしまえば、報道の誇大さも相まって、万事が解決したかのような満足感が得られる。他人のスキャンダルも他人の不幸も「蜜の味がする」から、そのような心理作用をひとに及ぼしてしまうのだ。

 もちろん、最近の例でいえば、これも「〇〇砲」が突き止めたものだったが、上野宏史厚生労働政務官(元)の外国人在留資格をめぐる口利き疑惑のように、徹底的に追及すべき案件もある。上野は、人材派遣会社が派遣する外国人労働者の在留資格に関して、少しでも早く許可が出るよう法務省に口利きすることで、派遣会社から一人当たり2万円ずつ手数料をもらい「まあ月に100万円でも入れば」とか、もうちょっと値上げして「3とか5(万円)にするとか」などと仲介者に話した録音データが残っているのだ。この問題は、つまらぬ一政治家のスキャンダルに終わらせてはいけなかった。昨年12月の入管法改正によって可能になった外国人労働者受け入れ拡大策が、基盤整備も行なわないままにいかに拙速に行なわれているか、政権には「人手不足」を理由にして導入する外国人を「使い捨て」にする意図しかないのではないかということを、政策論争を通して明らかにする機会であった。

 だが、この重要な問題については、メディアは「完黙状態」にある。上野は厚労省の「技能実習生の職種のあり方に関する検討チーム」の主査であった。その人物が、外国人労働者に皺寄せが及ぶに違いない利得金を「党費に宛てる。遊びじゃない」とも言っていたのだ。野党にも、今国会でこの案件を追及する姿勢は見られない。

 こうして、話題になるもならないも、追及されるもされないも、スキャンダルだって「選択」されている。政治は、どうせ、こんなレベルの争いごとだという諦観が人びとの心に忍び寄るあいだにも、日本の外で世界は日々動いている。「蜜の味」は、目くらましの「毒」でもあることを覚えておきたい。


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