〔週刊 本の発見〕高野悦子『二十歳の原点』 | |||||||
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毎木曜掲載・第132回(2019/10/31) 50年前の「学生運動」にタイムスリップコミック版『二十歳の原点』(原作:高野悦子 作画:岡田鯛 双葉社 税別1000円)&『二十歳の原点』(高野悦子著、新潮社、572円)/評者:杜 海樹今年は、寅さんでお馴染みの映画『男はつらいよ』初上映から50周年と言われているが、60年安保闘争から60年、70年安保闘争から50年を迎えようとしている年でもある。全共闘といった言葉は消え去り、今日の大学生に「学生運動」と言っても「何のこと?」と聞き返されるのが当たり前の時代に変わってしまっている。香港や韓国において数百万人規模のデモが行われても多くの学生にとっては他人事扱いといった感じで、話題と言えば、ラーメン、タピオカ、芸能ゴシップ…といった状況となっている。だが、この日本においても間違いなく大規模な学生運動はあったのであり、国会前を埋め尽くす集会もデモ行進もあったことは疑いようのない事実なのだ。そして、当時の学生運動に参加しつつ、自問自答を重ね、悩み、挑み、「独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である」等々の言葉を残し、あの世へと旅立っていった方がいたことも。 その方の名前は高野悦子さん(写真右)。大学入学を機に、当時の世の中の流れとして、極々当たり前に学生運動に参加したお一人であったと思う。しかし、彼女は二十歳になってから僅か半年の後の1969年6月、帰らぬ人として旅立って行ってしまっている。何故旅立って行ったか?の真相は確かめようがない訳だが、書き留めていた日記、後に『二十歳の原点』として出版されたものを読むと、行間の節々に当時の運動が抱えていた問題点や抱いていた疑問点が垣間見えてくる。 例えば、「上っ面にどっちが良い、その点ではこっちが正しいとか、難しい漢字ばかりを並べて分かったようなポーズをとったり、単なるいい格好をしようとすることは危険なのだ。騒がしければ騒がしい程、自己を見つめ直すことがより必要なのだ」と記していたり、「デモが、ストが、逮捕が日常的にまでなっている現在の学生運動の状況。だが、日常性に埋没することなく非日常的なものを追求してゆく方向をもつ必要がある」と記していたり。 高野さんの残していった日記『二十歳の原点』は、その後、大勢の人々に読み継がれ、ベストセラーとして今日にまで至っている訳だが、50年前の出来事、高野さんの時代を知らない世代にとっては全く未知の世界であり、NHKの大河ドラマにでもしていただかないと全くピンとこない遠い昔話といった風にまでなってしまっている。 そんな折、世代間の溝に迫る一冊のコミック本が出版された。それはコミック版の『二十歳の原点』だ。コミック版の方は、原文とは違って、日記の内容をイラストを用いて忠実に再現しようとしたというよりも、過去と未来の間をタイムマシンに乗って移動するかのように、映画『時をかける少女』でも見ているかのように、50年前にタイムスリップして実際の高野さんと話をするという設定となっており、高野さんが話しかける姿を通して50年前の姿が疑似体験できるよう工夫されている。当時のことを知らない世代の方には50年前の日本を知る切っ掛けになればと思うし、切っ掛けがつかめたならば、是非、原文の方も合わせて読んで頂ければと思うところだ。 もし、高野さんが存命であったならば、今年で70歳ということになる。当時、高野さんが思い悩んだ事柄が、今日の状況に照らしてどうであるのか、話をお伺いしてみたいところだ。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2019-10-30 16:13:41 Copyright: Default |